1. 新刊『新聞の凋落と「押し紙」』、新聞ジャーナリズムが無力な背景に、新聞社のビジネスモデルの決定的な失敗が

書評・出版物の紹介に関連する記事

2017年05月23日 (火曜日)

新刊『新聞の凋落と「押し紙」』、新聞ジャーナリズムが無力な背景に、新聞社のビジネスモデルの決定的な失敗が

今週末から来週にかけて筆者(黒薮) の新刊『新聞の凋落と「押し紙」』(花伝社)が全国の書店へ配本される。アマゾンではすでに受け付けが始まっている。

この本では、5つの重要なテーマを扱っている。

①新聞衰退の実態

②広告代理店の負の役割
 
③「押し紙」問題

④新聞に対する消費税の軽減税率の問題

⑤新聞業界の政界工作

新聞ジャーナリズムが機能しない原因は何かという問題はずいぶん昔から議論されてきた。その大半は、記者個人の責任を問う的はずれなものだった。

「記者としての気概を持てば新聞はよくなる」とか、「勉強不足だ」と言った主観点な批判が目立った。このような批判は、実は1960年代からあった。半世紀にわたり同じ批判と説教が延々と繰り返されてきたのである。しかし、それは誤りだ。

本書では、新聞ジャーナリズムが機能しない原因を、新聞社のビジネスモデルの中に潜む客観的な弱点に求めた。唯物論を基礎にした新聞論である。以下、冒頭の部分を紹介しよう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新聞社にとって、その質問は頭部を鉄拳で強打されるような衝撃だったに違いない。2016年2月15日、日本記者クラブでのことだった。記者会見を開いていた公正取引委員会の杉本和行委員長にとっても、おそらくまったく予期しなかった質問だった。

朝日新聞の大鹿靖明記者が、新聞業界のタブーとされてきた「押し紙」について質問したのだ。「押し紙」とは、販売店が注文した部数を超えて新聞社が搬入する新聞のことで、ノルマの部数である。

大鹿記者は2014年の夏、朝日新聞の従軍慰安婦や吉田調書の「誤報」問題を機に、朝日新聞の部数が著しく減ったことを述べた後、次のように続けた。

「わたしも一体販売現場でどんなことが起きているのか、販売店を調べに行った次第なんですが、そこでお話を伺うと、相当、『押し紙』というものが横行している、と。みんな新聞社から配達されてビニールでくるまったまま、そのまま古紙回収業者が回収していく、と。かなりの割合で、私が見聞きした限りだと、25%から30%くらいが押し紙になっている。どこの販売店主も何とかしたいけれども、新聞社がやってくれない、と。で、おそらくこれは朝日に限らず、毎日も読売も日経もみんな同じような問題をかかえていると思うんですね。(略)販売店主の中には公取委に相談に行っているという話もちらほら耳にするんですが、『押し紙』の問題については、委員長、どのようにお考えになっているでしょうか」

大鹿記者の質問に対して杉本委員長は、「押し紙」の「実態が発見できれば必要な措置を取る」と回答した。もちろん、杉本委員長は朝日の「押し紙」だけを指して答弁したのではない。新聞業界全体を対象に「押し紙」問題の対処方針を明言したのだが、真意はともかく、「押し紙」の取り締まりを宣言したのである。

それから1ヶ月後、朝日新聞は公正取引委員会から、「押し紙」問題で注意を受けたという。かねてから搬入部数を減らすように要請していた販売店に対して、要請を拒んだというのがその理由らしい。

新聞社の現役記者が「押し紙」を問題視することは、これまではなかった。少なくとも記者会見など、公の場でこの問題を提起したことはなかった。

その意味で大鹿記者の質問は、新聞社経営とそれを基盤とした新聞ジャーナリズムに対する新聞関係者の危機感が頂点に達した結果かも知れない。だからこそ販売店に足を運んで、みずからの問題として現場の声を聞き出し、記者会見の場でジャーナリストとしての義務を果たしたのである。

新聞の凋落現象は想像以上の速度で進行している。一体、その背景に何があり、その実像はどうなっているのだろうか。インターネットと新聞の違いを比較することから、その検証をはじめよう。