1. 米国とキューバが国交回復へ、背景にラテンアメリカの激変と国際政治地図の更新

ラテンアメリカに関連する記事

2014年12月22日 (月曜日)

米国とキューバが国交回復へ、背景にラテンアメリカの激変と国際政治地図の更新

米国とキューバが国交回復へ向けて動き始めた。

これから両国が話し合いに入るわけだから、最終的にどのような形で関係が改善されるのかは分からないが、このような動きの背景には、国際政治の勢力図が大きく変化した事情がある。

オバマ大統領による人権重視の姿勢や人道主義が今回の決断を生んだのではない。ラテンアメリカ全体と米国の力関係が決定的に変わってきたことが根底にある。

周知のように米国は、1959年のキューバ革命の後、1961年からキューバとの国交を断絶した。経済封鎖も断行し、現在に至っている。また、CIAがカストロ主将の暗殺計画を巡らせるなど、キューバの左派政権を排除する動きを延々と続けてきた。

ところが今世紀に入るころから、米国の裏庭といわれてきたラテンアメリカで政治地図が塗り変わりはじめる。次に示すのは、現在の南アメリカ(スペイン語・ポルトガル圏)における各国政府の政治姿勢を色分けしたものである。赤表示が左派、あるいは中道左派の政権である。

コロンビア:フアン・マヌエル・サントス

ベネズエラ:ニコラス・マドゥロ

ペルー:オジャンタ・ウマラ

エクアドル:ラファエル・ コレア

チリ:ミチェル・バチェレ 

アルゼンチン:クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル 

ボリビア:フアン・エボ・モラレス・アイマ 

パラグアイ:オラシオ・マヌエル・カルテス・ハラ

ウルグアイ:ホセ・ムヒカ

ブラジル:ジルマ・ヴァナ・ルセフ

ラテンアメリカの中でも南米は、左傾化が典型的に現れている地域である。
赤で示した国々がキューバと親密な関係にあることは言うまでもない。特にベネズエラとキューバの間には強い連帯がある。

中米のニカラグアとエルサルバドルも左翼政権で、キューバとは極めて親密な関係にある。つまりラテンアメリカでは、キューバの孤立はほぼ解消しているのだ。

◇海外派兵と経済封鎖

前世紀まで米国はラテンアメリカに対して、海外派兵を繰り返してきた。あるいは1973年のチリの軍事クーデターに典型的に見られるように、CIAによるクーデターや軍部への支援などで、左翼政権転覆を企ててきた。

こうした軍事介入とセットになっていたのが経済面で孤立化をはかる政策だった。わたしは1985年に内戦中のニカラグアへ行ったことがあるが、この国も米国による経済封鎖に苦しんでいた。たとえば商店は、極端に物品が不足していた。隣国・エルサルバドルでは、どこでも販売されているコカコーラが、ニカラグアでは不足していて、空き瓶を持参しなくては売ってくれない。

さらに米国は、ニカラグアの隣国ホンジュラスを基地の国にかえて、「コントラ」と呼ばれる傭兵部隊を組織し、新政権の転覆を企てていた。FSLN(サンディニスタ民族解放戦線)が政権の座にいる限り、戦争と飢えはなくならないという暗黙のキャンペーンを繰り広げて、反政府勢力を広げていったのである。

その結果、FSLNは、1990年の大統領選で敗北して政権を失う。みずからが打ち立てた議会制民主主義のルールに従って、野に下ったのである。しかし、今世紀に入って本格化したラテンアメリカ全体の左傾化の中、2006年にFSLNは再び政権を奪還し、現在に至っている。

◇LAへの軍事介入の歴史

次に示すのは、第2次大戦後に米国がラテンアメリカに対して実施した主要な海外派兵、あるいはクーデターの一覧である。

■1954年 グアテマラ

■1961年 キューバ

■1964年 ブラジル

■1965年 ドミニカ共和国

■1971年 ボリビア

■1973年 チリ

■1979年 ニカラグア内戦

■1980年 エルサルバドル内戦

■1983年 グレナダ

■1989年 パナマ

なかば当たり前に行われていたラテンアメリカへの軍事介入が、今世紀になってからは公然と出来なくなっている。ラテンアメリカ諸国の連帯が強固になり、キューバの孤立もほぼ解消された。この地域全体が米国の裏庭ではなくなったのだ。

こうした状況の下でラテンアメリカに急接近しているのが、中国とロシアである。たとえば2014年の7月、中国の習近平主席がブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、キューバ、の4カ国を訪問している。

その際、ブラジルは中国との間で、ビジネス、科学、技術、防衛、教育、航空路線など、実に54分野にわたる戦略的提携を結んだ。

ロシアのプーチン大統領がウクライナ問題でEU諸国からの食料に対して輸入禁止措置を取った際に、新しい輸入元になったのもブラジルだった。

参考記事:安倍首相がトリニダード・トバゴへ乗り込んだ本当の理由

◇キューバに市場を求める米国

もともとソ連が崩壊して冷戦が終結したとき、米国が新市場を独占するのではないかとの見方が有力だった。しかし、世界はそういう方向へは進まなかった。米国は「世界の警察」にはなったが、経済は必ずしもそうはならなかった。

東ヨーロッパは、EU寄りになった。ロシアも上海協力機構などを通じて、米国よりも、むしろ中国に接近した。さらに世界の人口の大半を占める第3世界で民族自決の波が台頭してきた。その典型がラテンアメリカである。米国を中心とした世界は、ゆるやかに崩壊へ向かっているのである。

こうした状況の下で、米国がキューバに対する経済封鎖を続けるメリットがあまりなくなってきた。キューバに対する経済封鎖に、ラテンアメリカ諸国からの批判も強い。それを無視すると関係が悪くなる。かといって、それをかつてのように軍事介入でつぶすこともできなくなっている。

キューバの経済状況は、決してよくないが、経済封鎖が持続しても、将来的には改善していくことは間違いない。

これに対して米国はキューバに新市場を求めている。オバマ大統領の善意が、対キューバ政策の見直しに繋がっているのではない。

世界の政治地図が変化してきた現れである。