安倍首相がトリニダード・トバゴへ乗り込んだ本当の理由
建前と本音を使い分ける国民性が浸透している国とはいえ、それが国政の場でも暗黙の了解となっているとすれば、民主主義の根幹にかかわる。
安倍晋三首相は、7月25日から8月2日の日程で、メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジルの5カ国を訪問している。
企業関係者70名を同伴したことに象徴されるように、海外ビジネスを強化すべく良好な国際関係を構築することが訪問の目的のようだが、首相個人のイデオロギーに基づいた別の目的もあるようだ。
この訪問の狙いのひとつに、日本が立候補している来年の国連安保理非常任理事国選挙の工作がある。
8月1日にブラジルのルセフ大統領と首脳会談を開き、常任理事国の枠を拡大する提案を両国が行うための意思確認をする予定になっていることは、日本のメディアも報じているが、カリブ海のトリニダード・トバゴ訪問の背景にある安倍首相の戦略については、ぼかした報道になっている。
トリニダード・トバゴで安倍首相は、ラテンアメリカとカリブ海地域の14ケ国で構成する共同体CARICOMの会議に出席する予定になっている。スペインの有力紙「エルパイス」紙の報道によると、実はこの14ケ国のうち5ケ国は、中華人民共和国を承認せず、台湾を合法政府とみなしている「反中」派の国である。
◇ラテンアメリカの激変
実は、安倍首相に先立って、中国の習近平主席が7月中にブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、キューバ、の4カ国を訪問している。このうちブラジルは、安倍首相の訪問先と重なっている。当然、ブラジルに対する国際関係は、中国との「綱引き」になる。
中国もそれを強く意識しているらしく、キューバの「プレンサ・ラティナ」紙によると、17日、中国はブラジルとの間で、ビジネス、科学、技術、防衛、教育、航空路線など、実に54分野にわたる戦略的提携を結んでいる。ブラジルのルセフ政権も、中国に親和的な中道左派である。中国よりも日本を重視するとはとても思えない。
ラテンアメリカ(中南米、カリブ海のスペイン語圏とポルトガル圏)では、今世紀に入るころから、ベネズエラを筆頭に議会制民主主義を重視した左傾化が進んでいる。その背景には、民主主義の前進と先進国によって押しつけられた新自由主義の失敗がある。
改めて言うまでもなく、この地域は、スペインによる「征服」以来、常に外国からの内政干渉に苦しめられてきた地域である。
この地域へ日本企業が進出する場合、憲法9条は、極めて有力な武器だった。ラテンアメリカに日本に対して親近感を持つ人が多いのは、高いテクノロジーと憲法9条があるからだ。が、安部首相は後者をドブに捨てようとしている。
軍国の旗を掲げて、新生ラテンアメリカで影響を発揮するのは難しい。米国でさえ、前世紀のように海外派兵を断行できる基盤を失っている。今回の訪問で、安倍首相は、ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、ウルグアイ、ニカラグアなどへはいけなかった。
世界がどういう方向へ動いているのかが、よく分かっていないのではないだろうか?