1. チリの軍事クーデターから45年、政治の力学、海外派兵、政治家の資質

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2018年09月12日 (水曜日)

チリの軍事クーデターから45年、政治の力学、海外派兵、政治家の資質

チリの軍事クーデターから45年が過ぎた。チリの「9.11」は、ラテンアメリカの人々にとっては、記憶の中の色あせた遠い事件になっていくどころか、ますます鮮明さを増し、多様な観点から再考される事件である。常に現在へ蘇ってくるのだ。

実際、キューバのプレンサ・ラティーナ紙やメキシコのラ・ホルナダ紙などラテンアメリカの主要な新聞(電子)は、今年も「9.11」についての記事を掲載している。スペインのエル・パイス紙も、この事件を取り上げている。

チリの軍事クーデターからは、政治力学の問題と、内政干渉(海外派兵)の問題が鮮明に見えてくる。

 

◆「政権を取ることよりも、取った後の方がむつかしい」

1970年、南米チリでサルバドール・アジェンデが社会党、共産党、キリスト教民主党の3党の共闘で大統領に当選した。選挙というかたちで、世界ではじめて左派の連合政権(UP)が成立したのである。議会制民主主義を重視しながら、社会主義へ移行するという壮大な挑戦が始まったのだ。チリ革命は、国際ニュースの表舞台へあがったのである。

しかし、アジェンデ政権は、チリに権益を持つ多国籍企業(特に鉱業)などから激しい反発を受ける。米国による経済封鎖に加えて、「資本家のストライキ」まで起こり、チリ経済は混乱に陥る。アジェンデ大統領も、「政権を取ることよりも、取った後の方がむつかしい」(『チリの全記録』)と言っていたらしい。

1973年に国会議員の総選挙が行われた。この選挙で、予想に反してアジェンデ政権の与党が勝利する。この時点でアジェンデ政権を合法的に倒すことが不可能であることがはっきりしたのだ。

米国のCIAは、後に独裁者となるピノチット将軍ら軍部と共謀してクーデターを計画する。アジェンデ政権をつぶすことを決めたのだ。

最初、ピノチットはアジェンデ大統領に対して、海外亡命を勧告した。そのための飛行機を準備すると申し出たのである。が、アジェンデ大統領はそれを断り、大統領官邸の職員を避難させたあと、数人の側近と共に大統領官邸に残り、ラジオを通じて最後の演説を行った。それから大統領官邸にせまってきたチリ軍と銃撃戦を交えたのである。しかし、最後は激しい空爆を受け、大統領官邸に突入してきた部隊に射殺された。

ただちに戒厳令が敷かれて、アジェンデ政権の支持者に対する徹底した弾圧が全土に広がった。歌手のビクトル・ハラや詩人のパブロ・ネルーダも殺された(注:ネルーダについては病死説と殺害説があるが、後者が有力になっている)。

余談になるが、1979年のニカラグア革命の後も、同国に対してチリと同じような挑発行為が始まった。米国が経済封鎖を仕掛け、コントラと呼ばれる傭兵を使って、隣国ホンジュラスから革命政権の転覆を企てる工作が開始されたのである。ニカラグア内戦は、1990年まで続いた。

 

◆政治の力学

政治というものは、政治家の理想どうりに進むものではない。実は、水面下で政治を牛耳っている別の勢力があるのだ。それは財界である。経済をコントロールしている財界が、政治にも介入しているのである。

逆説的に見れば、政府は財界の企業活動のために便宜をはかるための事務処理機関にすぎない。安倍晋三が日本の政治を動かしているように見えても、実は財界の要望に応じて、手足を動かしているだけに過ぎない。外遊を繰り返すのも、遊びが目的ではない。企業の海外進出の土壌を整えるのが目的である。それが多国籍企業の要望なのだ。

改めていうまでもなく、政治力学が働いているのは日本だけではない。

アジェンデ大統領は、こうした政治力学に正面から対抗した人物なのである。政治力学の前にあっけなく屈した鳩山由紀夫氏とは、政治家としての資質が異なる。野党が信用できないのも同じ理屈だ。

◆海外派兵の真の目的は?

誰が政治を牛耳っているのかという観点から、憲法改正や自衛隊の海外派兵について考えると、これらの政策も実は財界の要求であることが分かる。企業活動に国境がなくなるにつれて、財界は多国籍企業の権益を守るという課題を解決しなければならない。

チリの多国籍企業にとってはアジェンデ政権は受け入れがたい存在だった。と、すれば武力を行使するか、スパイを送り込んで、暴力で不都合な政権を転覆させなければならなかった。それが米国とその同盟国の方針なのだ。

ラテンアメリカでは前世紀まで、繰り返しCIAによる挑発や米軍による派兵が繰り返されてきた。

1980年代のニカラグア、エルサルバドル、グアテマラに対する米国の内政干渉もチリと同じ原理が働いていた。しかし、チリの人びと同様に、彼らも屈することはなかった。これが中米紛争の構図だった。

日本のメディアは、1990年代初頭にPKOが始まると、海外派兵の目的は、国際貢献することにあると報じるようになったが、これは本質的には完全な間違いだ。海外派兵は、多国籍企業の利益にそわない状況が生まれたときに、それをつぶすことを目的としているのである。

そのことをチリの悲劇は教えてくれる。

 

このドキュメントの7:50秒から、軍事クーデターの全容がたくさんの関係者によって証言されています。「戒厳令下チリ潜入記(後編)」