1. 【書評】『追及力』、森ゆうこ・望月衣塑子、ナベツネが「政治記者として目指すべき到達点」に違和感

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2018年01月22日 (月曜日)

【書評】『追及力』、森ゆうこ・望月衣塑子、ナベツネが「政治記者として目指すべき到達点」に違和感

本書は、自由党の森ゆうこ議員と、東京新聞の望月衣塑子記者の対談である。森友・加計問題や伊藤詩織さん事件などを柱に、メディアや国会の実態などをテーマに意見を交わしている。

発言内容の大半は、これまで耳にしてきたことである。あるいは両者の言動と整合するものである。しかし、書籍というかたちで再度両者の発言をたどっても、面白く読めるように構成してある。ただ、多少の違和感があった。この書評では、その違和感の部分を取りあげてみたい。

◇マネーロンダリングとスラップ訴訟

まず、森ゆうこ氏の発言についてだが、批判の鉾先は、民新党にまで及び、永田町の腐敗した実態が伝わってくる。しかし、森氏自身はどうなのかという問題がある。メディア黒書で既報してきたように、森氏は、政治献金の還付金制度を悪用して、マネーロンダリングを行ってきた。それが問題になり、筆者らから詐欺容疑で刑事告発されている。検察は、それを受理したが、結局、訳の分からない理由をつけて不起訴にした。しかし、マネーロンダリングで「お金」を増やしていたことは、紛れもない事実である。

(参考記事)高市早苗総務大臣と森裕子議員の政治献金を悪用したマネーロンダリング、与野党政治家の劣化が顕著に

さらに森氏は、2013年に森氏の支援者だった男性に対して、名誉毀損裁判を起こしている。要求した金銭は500万円。しかし、この提訴は、森氏の完全敗訴で終わった。スラップ訴訟だったとの見方もある。

余談になるが、この裁判に関連して、森氏の友人である八木啓代氏が、筆者らに200万円を請求する名誉毀損で提訴した。しかし、八木氏も敗訴している。

筆者が感じた疑問とは、森氏に永田町の腐敗を批判する資格があるのかという点である。

◇本多・大森・斉藤--ナベツネ

望月記者に関して言えば、筆者が違和感を持ったのは、ひとつには読売の渡邉恒雄氏を理想の政治記者としてもちあげている点である。そのくだりを引用してみよう。

森:(略)権力とメディアは一定の緊張感が絶対に必要。たとえ、友人同士だとしても、距離感をもって対峙しないと国民が不幸になってしまいますよ。

望月:そうですね。もしくは、渡邉恒雄読売新聞主筆みたいにどんな政治家に対しても、自分の思いとか信念をきっちり言えるぐらいに力を持つか。
 もしかしたらそれが政治記者として目指すべき到達点かも知れませんね。いずれにしても、政治家の言いなりにならない、政治が間違っていたら間違っているって言えないといけないですよね。自分が総理を使ってこの国を変えていくんだという気概を持つとかね。

渡邉氏が政界に強い影響力を持っているのは、読売新聞の部数が圧倒的に多く、日本の世論をコントロールする力を持っているからである。記者として優れているからではない。少なくとも筆者は、記者としての渡邉氏は評価していない。理由は簡単で、ジャーナリストとして卓越した調査報道がないからだ。

調査報道の実績がある朝日の本多勝一、毎日の大森実、共同の斉藤茂男といった記者の著書と渡邉氏の著書を読み比べてみると、その洞察力の違いが一目瞭然となる。記者の評価は、著述のレベルで下すものだと思う。人脈が豊富か否かではない。著述の評価がすべてと言っても過言ではない。

とはいえ、こうした批判は部分的なことである。

タイトル:『追及力』
著者:森ゆうこ、望月衣塑子
版元:光文社