博報堂事件、アスカがまったく気づかなかった2つの不正、視聴率の改ざんと放送確認書の偽造
化粧品の通販業を営むアスカコーポレーション(本社・福岡市)が、博報堂に対して総額で約60億円の返還を請求する2件の裁判を提起したのを受けて、アスカの南部昭行社長は、ウエブサイト「ビジネスジャーナル」のインタビューで次のように、提訴に至る事情を説明している。
きっかけは、博報堂が昨年10月、当社に対して6億1000万円の未払い請求を行ってきたことです。私自身は争い事を好みません。昨年の段階で丸く収めることを考え、博報堂さんと問題を解決しようと譲歩してきました。
ところがなんの音沙汰もなく、いきなり差し押さえを請求をしてきたのです。ものごとにはルールがある。「それならこちらにも言い分がある。受けて立ちましょう」ということになったのです。過去の請求でおかしな点が多々ありました。それを黙って不問にしてきた部分もあります。
そこで、実際に博報堂との取引がどのようなものだったのか、さかのぼって徹底的に調べることにしたのです。調査が進んでいくなかで、次々に驚愕の事実が明らかになってきました。
過去の不正とは、ホームページ関連の過剰請求である。その他の点については、気づかなかったことをアスカ側も認めている。係争になってから過去の取り引きを精査した結果、はじめて数々の不正が明らかになったのである。
その中でも、とりわけ重大な不正が2点ある。
放送確認書の偽造疑惑についての元広告代理店社員の証言、「こんな放送確認書は見たことない」
Mnetを運営する放送局・CJE&MJapanの放送確認書が偽造された疑惑について、元広告代理店の社員の証言を入手した。
この証言は、放送確認書が何者かによって偽造されたと主張しているアスカが、元広告代理店の社員から聞き取り調査を行った際の議事録である。
しかし、議事録を紹介する前に、放送確認書の偽造疑惑について説明しておこう。
Business Journalが博報堂事件を大きく報道、タイトルは「博報堂、60億円の水増し請求疑惑!取引先が提訴…依頼無視し嘘連発、低レベルな仕事」
ウエブサイトBusiness Journal(25日)が、博報堂とアスカコーポレーションの係争についての記事を掲載している。アスカの南部昭行社長へのインタビュー記事で、タイトルは、「博報堂、60億円の水増し請求疑惑!取引先が提訴…依頼無視し嘘連発、低レベルな仕事」。経済ジャーナリスト・松崎隆司氏の執筆である。
リードの部分を引用しておこう。
博報堂から水増し請求を受けたとして、アスカコーポレーションの南部昭行社長は5月20日、博報堂を相手取り15億3000万円の不当利得の返還請求を行った。さらに8月16日には、47億8631万円の同請求も行った。博報堂といえば日本第2位の広告代理店だが、なぜ南部氏は同社に対して60億円を超える返還請求を行うに至ったのか。同氏にその真意を聞いた。
インタビューの本文リンク先は次の通りである。
チャンネルMnetに質問状、放送確認書の偽造疑惑について
既報したように、チャンネルMnet(CJE&MJapan株式会社)の放送確認書である。疑惑の根拠は次の「ミス」である。最初に問題の書面を示そう。
内閣府が開示した博報堂の請求書、日付けの欠落とテレビ局名の隠蔽、CMを本当に放送したか否かも不明、裏金づくりの温床に
博報堂から内閣に対して請求した新聞を媒体とした「広報実施業務等」の金額が、2015年度だけで約20億3300万円に達していることが、情報公開資料によって分かった。
これらの金額が博報堂を介してそのまま新聞社や放送局に流れ込むわけではないが、日本のメディアがいかに広告代理店に依存しているかを示すデータといえるだろう。広告代理店が報道のタブーになっているゆえんにほかならない。
テレビのスポットCMを通じた広報活動関連費用に関しては、すべて黒塗りになっている。非公表である。どの放送局で放送されたのかも分からない。たとえば、次の書面だ。
公共広告1件で2億6000万円、情開資料に見る政府広報の実態、知る権利は後退
下に示す画像のは、博報堂が内閣府へ送った請求書である。博報堂が制作した5段広告で、全国71紙に掲載された「社会保障と税の一体改革(マイナンバー制度)」と題する公共広告に対する請求で、金額は2億6373万6410円である。
掲載日は、媒体によって異なるが、いずれも2015年10月中である。
掲載紙数は71紙あっても、版下は同じものを使うわけだから、上記の金額は尋常ではない。無駄な予算が新聞社と広告代理店に流れていることが分かる。
国会議員の定数を減らして、国民の参政権を縮小するよりも、先にこうした無駄づかを中止すべきだろう。
各新聞社へいくら支払われたのかを示す明細は、親切にもメディアに配慮してすべて黒塗りにしている。次に示すとおりである。なぜか書面の発行日が欠落しているが本物である。
博報堂に対して48億円を請求、アスカが視聴率の改ざん・偽装で提訴、番組提案書の無効を主張
アスカコーポレーションは、8月16日、博報堂に対して2件目の訴訟を起こした。請求額は約47億9000万円。ウソの視聴率が記入された博報堂の番組提案書により、CMや通販番組の制作「契約」に誘導されたとして、番組提案書そのものの無効と返金を求める裁判である。
耐震強度の偽装から食品偽装まで、「偽装」が地球規模で広がっているなか、今度は視聴率の偽装による番組提案という深刻な問題が司法の場へ持ち込まれたのである。裁判所が、この視聴率偽装をどう裁くかが注目される。
裁判の中では、当然、博報堂の営業マンが偽装工作に果たした役割や、CM「間引き」疑惑も検証対象になる。
博報堂に対して約15億円を請求している前訴では、放送関係の請求は含まれていなかったが、今回提訴された訴訟では、請求対象が放送関係の不正に絞られている。法廷でCM制作の裏面などが暴露される可能性が高い。
テレビは業績不振からV字回復を遂げたが、かりに同じ騙しの手口が業界全体に広がっていれば、放送界の実態が根本から問われることになりかねない。
博報堂とアスカの間で勃発している放送関係の係争について、概略を説明しておこう。
博報堂事件、他社の公式文書を勝手にPDF化、問われる職能
たとえば今年の3月、博報堂が管理を請け負っていた「いわて県民情報交流センター」(盛岡市)で、入場者を水増しして報告していた事実が発覚している。その方法は子どもじみた幼稚なもので、アルバイトに入場者カウンターを何度も通過させるというものだった。(朝日新聞)
また、昨年、岩手県大槌町から津波記録誌の編集を請け負っていたが、「怠慢」編集を理由に契約を解除されている。記述の一部を別の記録誌からぱくっていたことも明るみにでている。(産経新聞)
さらに過去には、2009年に発覚した障害者団体向けの郵便料金の割引制度を悪用した事件で逮捕者を出している。当時、アスカに対しても、この割引制度を悪用するように話を持ちかけていた。
博報堂が上場企業(東証)だから完璧な業務を遂行して当然とまでは言わないにしても、上場企業として問題が多い。ただ、社員たちに悪意があるのかどうかは分からない。普通にやっている業務が、第3者の目には、異様に写るだけのことかも知れない。
電通・東急エイジェンシーと博報堂のPR業務の比較、CPOの違いが顕著に
10桁CMコードは、CMの「間引き」を防止する目的で、1999年12月から導入された。このあたりの事情について、当時の『放送ジャーナル』は、次のように報じている。
テレビCM業務の合理化と放送事故の防止を目指した、放送広告業界統一のCMコード【10桁CMコード】の運用が、昨年12月1日放送分のCM素材から正式にスタートした。
97年、99年に発覚したCM不正取引問題を契機に、日本広告主協会(主協)が民放連や日本工区業協会(業協)に求めていた、再発防止策としての「電波重畳によるCM放送確認システム」が10桁CMコードを使用することで一本化された。
99年2月、主協、業協、民放連、全日本シーエム放送連盟、日本テレビコマーシャル制作社連盟のCM関係5団体で構成する「共通コードプロジェクト会議」(2000年3月に日本ポストプロダクション協会が参加し6団体に)が発足。1年余りの検討の後、最終合意が昨年9月に成立し、広告主コード(4桁)と素材コード(6桁)を組み合わせ10桁のコード体系とすることが決まった。
そして同11月、業協内に「共通コード管理センター」(Code Control Center:略称CCC)が開設され、10桁CMコードの完全実施を進めていくことになったわけだ。
同センターは業協と民放連が共同設立した任意団体で、主協・業協・民放連の3団体の合意のもと、10桁CMコードのうち、4桁の『広告主コード』の発番、管理を行い、広告主・広告会社・CM制作会社・放送会社におけるCM業務の合理的遂行に寄与することを目的としている。さらに、この「10桁コード」の各業界における普及促進活動を推進していくことになる。
博報堂事件、放送確認書そのものを何者かが偽装した疑い、確認書の発行日とCM放送日に矛盾
博報堂事件の焦点のひとつは、CMの放送確認書をめぐる諸問題である。最初に、CMが放送された際にコンピュータが自動的に出力する10桁のCMコードが放送確認書に印字されていないものが多数あることが判明した。
CMの本数にすると1500本を超えている。特に衛星放送のスーパーネットワーク社が際だっていて、メディア黒書の集計によると934本にもなる。
次ぎに、CMコードが非表示になっている放送確認書をさらに詳しく調べたところ、放送確認書そのものが偽装された可能性が極めて高いものがあることが分かった。メディア黒書が検証対象にしているのは、チャンネルMnetの放送確認書である。
まず、下記の放送確認書の①と②に注意してほしい。
博報堂事件、チャンネルMnetの放送確認書の不自然さ、解消するべき博報堂の最高検察庁人脈
博報堂とアスカコーポレーションの係争で、重要テーマとなっているのが、CMが放送された証となる放送確認書の解釈と偽装(あるいはミス)疑惑である。
※この記事の前篇は→博報堂事件、住所を間違った「にせもの」放送確認書の疑惑が浮上
前篇では、チャンネルMnetの放送確認書に記された同放送局の住所が間違っている事実や、3月に放送したCMの放送確認書が2ヶ月もの時間を経たあと、5月末にようやく発行されている事実など、不自然な点を指摘した。
これに対して読者から反応があった。
チャンネルMnetの放送確認書の実物をPFDで公開したところ、匿名の読者から、ある指摘が寄せられた。放送確認書の本記欄の部分、つまりCMの放送時間帯などを記したセクションが、パソコン画面の張り付け、つまり印字ではなく、パソコン上の画像ではないかという指摘である。
本来、放送確認書は印字が原則である。
博報堂事件、住所を間違った「にせもの」放送確認書の疑惑が浮上
博報堂とアスカコーポレーションの係争で、最も注目されているテーマのひとつが、CMの「間引き」疑惑である。CMの「間引き」とは、CMを放送する契約を放送局が履行せず、「放送した」と偽り、料金だけを徴収する不正行為である。
1990年代の後半に、福岡放送、北陸放送、それに静岡第一テレビでCM「間引き」が発覚して、テレビ界を揺るがした。
これを受けて民放連などが、対策に乗り出し、コンピュータを使った防止システムを導入した。コンピュータが人間の不正を監視するよになったのである。
広告主を不正から守る制度が構築されたのである。
おおまかな使用のステップは次の通りである。、①放送予定のCMに10桁のCMコードを付番する。②それをコンピュータに入力する。③CMが放送された順番に、機械が放送確認書の10桁CMコードを印字する。
2006年からは、10桁のCMコードが付番されていないCMは受け付けないのが原則になっている。
CMが放送されなかった場合は、もちろんCMコードは印字されない。災害などでCM放送が中止になりCMコードが非表示になった場合は、広告代理店が広告主に事情を説明して理解を求め、放送時間を変更してCMの放映回数を増やすなどの「ペナルティー・サービス」が実施される。
この機械によるCM「間引き」防止のシステムが導入された後、CMを放送せずに料金だけを徴収する事件は、過去のものになったと言われてきた。実際、わたしが関係者らを取材したところ、口を揃えたように、「今は、ありえない」という答えが返ってきた。
ところがアスカが自社で保有していた放送確認書を調べたところ、10桁CMコードが表示されていないCMが多量に発見されたのだ。メディア黒書でそれを確認したところ、その本数は現時点で1500件を超えている。これらのCMに対する「ペナルティー・サービス」が行われていなければ、詐欺ということになる。
防衛庁が情報開示請求の決定を延期、大手広告代理店に対する莫大な予算の実態
防衛庁に対して筆者が、電通と博報堂が防衛庁に送付した各種の請求書を全部(1年分)開示するように求めた情報開示請求の決定が9月9日まで延期された。
この情報開示請求は、大手広告代理店が法外な金額を税金から支出させているとの指摘が増える状況下で、調査の必要性が高まった事情が背景にある。
この問題は、メディア黒書でも取り上げたことがある。
たとえばわたしの手元に(株)朝日広告が最高裁に対して送付した請求書の写しがある。業務の名目は、「裁判員制度広報のメディアミックス企画及び実施業務」である。これはわたしが情報公開制度を利用して入手したものである。
裁判員制度をPRすることを目的とした広告制作に関する請求だ。
総額は6億8663万7400円(2008年4月のデータ)。