1. 内閣府の構想費「6700万円」は不自然すぎる、博報堂事件

大手広告代理店に関連する記事

2017年01月27日 (金曜日)

内閣府の構想費「6700万円」は不自然すぎる、博報堂事件

2015年度(平成27)に内閣府と博報堂の間で交わされたPR業務の契約金6700万円の内訳が不明になっている。内閣府は、「構想費」と説明しているが、請求書も存在しなければ、成果物もほとんど残っていない。このような不透明な資金が、国家予算から、支出されている事実を広告の専門家は、どう見ているのだろか。元博報堂の社員で作家の本間龍氏に執筆をお願いした。

執筆者:本間龍(作家)

このところ黒薮氏が博報堂と官庁の一連の疑惑を追及しているが、その中でも特に怪しいというか、ありえないレベルの話が内閣府と博報堂の平成27年度の「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施業務等」の契約書とそれにともなう請求の6700万円という案件だ。この金額を含め、博報堂は新聞出稿費などで総計約25億円の支払いを受けている。そもそも年初当初の6700万円という見込みがなぜ期末になると25億円になるのかも全く理解できないが、今回は大元の6700万円が広告業界でもいかにあり得ないものか、解説していく。

内閣府は黒藪氏の質問に対し、この6700万円は様々な広告展開を企画するための「構想費」であり、連日博報堂の担当が来庁し、構想立案のために博報堂側からアドバイスを受けていた「打ち合わせ費用」だと回答した。

これには私も仰天した。具体的な広告出稿やイベント実施を含まない、ただの打ち合わせによる「構想費」でそんな高額が発生するなど聞いたこともないし、絶対に有り得ないからだ。しかも、今どき単にディスカッションしていた程度で6700万円も支払ってくれるとしたら、それこそ内閣府とはなんといい加減な官庁なのか、と問題になる話だろう。

◇訳が分からない「構想費」の根拠

もちろん、年間の広告戦略を立てるために代理店とスポンサーの広報担当が複数回のミーティングを持つことはよくある。しかしそれらは大抵の場合、その後作られるCMやイベント費の中に「企画費」として含まれることが多く、単体の「構想費」として請求されることはない。その企画費にしても、大規模な市場調査などでもしない限り、せいぜい高くても500万円程度止まりのはずである。

さらに、博報堂の担当が連日内閣府を訪れて打ち合わせをしたというが、一体どれほどの人数がやってきたのか。この年を含め内閣府の博報堂に対する支払いの内訳は、明らかになっている殆どが新聞やテレビ・ラジオへの出稿費や原稿制作費で、年間20~25億円弱程度だ。しかし販促活動があるわけでないから、媒体手配以外で特に人手が必要なわけではない。だから私の経験上では、このレベルの得意先は担当営業が多くても2名、その下に媒体発注や原稿制作を管理するための派遣やアルバイトが2名程度いれば、十分業務が回る規模だ。

ということは、「構想を練るために連日打ち合わせをした」博報堂側の出席者は、もしマーケティング担当者を一人加えても、多くて3名程度だろう。その人件費を最大一人1日5万円としても、1日3名分で15万円。(もちろん、そんな高額はあり得ないが)その人員で一年365日中打ち合わせしたとしても、5475万円にしかならない。だがもちろん、打ち合わせを毎日やるはずもないのだから、こんな計算は成り立たない。よしんば博報堂の出席者を5名として、週一回打ち合わせをしたとしても、5×5万=25万、これに52週をかけても1300万円にしかならない。どだい、どう計算しても打ち合わせだけで年間6700万円という額は算出不可能なのだ。人件費で全然消化できないということは、他に余程すごい成果物があったはずである。

◇博報堂担当者が勝手に好きなだけ新聞出稿

ところが内閣府は、その延々と打ち合わせをした成果物や証拠がほとんどないと言っているのだから、これまた驚愕する対応である。極めて当然だが、代理店側はこうした打ち合わせに際し、必ず前回の打ち合わせ内容、課題、それに対する解決策などを記した詳細なレジュメを用意して臨む。茶飲み話の会ではあるまいし、ましてや国の施策をどう国民に伝えるか、という真剣な議論の場で何のメモも取らないなどありえないし、打ち合わせ期間中には、どのような施策を打つべきかという提案も少なからず行ったはずだ。しかもこれだけの高額なら、様々な市場調査結果などを挿入した、相当分厚い企画書に仕上がっているはずである。それなのに、その成果物が一切ないというのはどうみても不自然だ。

百歩譲って途中経過の記録がなかったとしても、最終的には絶対に「今年度政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広報実施について」等の「基本構想案」的な企画書が残るはずである。その構想案に基づいて平成27年度の新聞出稿がなされたはずだから、なおさら記録がなければおかしい。そうでないと、博報堂担当者が勝手に好きなだけ新聞出稿したということになってしまうから、これも有り得ない。

◇6700万円の請求内容詳細の開示を

このようにこの案件は「有り得ない」ことだらけなのだが、それでも民間だったら特に問題視されることはない。ここで黒藪氏や私が詳細に疑問を呈すのは、支払われているのが国民の血税だからだ。年初契約書の何倍もの金額(税金)が期末に支払われているのに、その請求書は全て黒塗りで内容が分からず、具体的な成果物も無いなどとなっては、第三者による検証を露骨に拒んでいるとしか思えない。

だから内閣府は直ちにこの6700万円の請求内容詳細を開示し、さらにその具体的成果物を明らかにすべきだ。それが出来なければ、6700万円が本当に請求されたのかという架空請求の疑いが出てくるし、金額の程度からしてちょうど良い裏金作りに使用されたのではという疑惑も生む。やましい処がないのであれば、請求見積内容と成果物を示せば良いだけの話である。もちろん、それが真にその金額にふさわしい内容かどうかの検証は行うが、まずはその開示と提出が急務であろう。

【写真】博報堂に天下りした阪本和道・内閣官房長が作成した書面の例