1. 事件報道と忘却の繰り返し、捜査機関には職能の問題、高橋まつりさんの死も過去の問題へ、新聞社と広告代理店が占めるタブーの領域

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2017年01月11日 (水曜日)

事件報道と忘却の繰り返し、捜査機関には職能の問題、高橋まつりさんの死も過去の問題へ、新聞社と広告代理店が占めるタブーの領域

博報堂事件の取材を始めてまもなく1年になる。最初は、アスカコーポレーションと博報堂の間で起きた係争のうち、折込広告の業務をめぐるトラブルを取材し、その後、同社から入手した多量の資料を精査して、テレビCMの「中抜き」問題、視聴率の改ざん問題、通販誌制作の水増し請求などを取材・記事化した。

事件全体の構図は、次の記事で説明している。

【解説】奇怪な後付け見積書が多量に、博報堂事件の構図はどうなっているのか?

その後、博報堂が省庁から請け負っているPR業務を取材するようになった。これはまったくの偶然の成り行きだ。わたしは20年来、「押し紙」問題など新聞に関する諸問題を取材してきた関係で、定期的に公共広告の実態を調査してきたのだが、内閣府が博報堂に依頼したPR業務の中に、検証を必要とする疑惑が見つかったのが糸口である。

その際、アスカコーポレーションの取材で得た知識が役に立ったことはいうまでもない。たとえば博報堂の共通した特徴として、後付けで多額の金銭を請求する手口がある。その極端な例が、内閣府と博報堂の取り引きでも見られた。

以下に示すのは、契約額と実際の(請求額)の対比である。

2012年度  約3980万円(約14億700万円)
2013年度  約4600万円(約11億900万円)
2014年度  約6670万円(約17億6300万円)
2015年度  約7600万円(約20億3800万円)

◇年々高くなる「構想費」?

内閣府の説明によると、契約額はプロジェクトの「構想費」であり、必要に応じてPR活動を展開して、後付けで請求できるというものだが、そんなことは契約書のどこにも書いていない。我田引水の解釈だ。

その「構想費」が年々高くなっているのも不自然だ。

しかも、契約の期間が1年なので、請求は当該年度が終わってから行ってきたという。この説明が正しいとすれば、たとえば4月にA新聞社が博報堂を通じて掲載した公共広告の掲載料は、1年が過ぎなければ入金されないことになる。不自然としかいいようがない。

改めていうまでもなく、内閣府の予算は「税金」である。税がこれだけいいかげんな使い方をされている事実があるのだ。どんぶり勘定のように後付けで請求されている。しかも、政府広報は、そもそも国策のプロパガンダが目的であるから、政治的な色彩が濃い。中立はありえない。たとえばマイナンバー制度は個人情報の流出など多様な欠点が指摘されているが、制度を肯定する視点の広告が掲載されている。

本来は、ひとつのPR活動、たとえば新聞広告の制作・配信に対して、1つの契約書を作成して、それに対応する請求をしなければならない。実際、かつて内閣府は、そのような手法の取り引きを行っていた。1件の広告につき、1件の契約書と請求書だった。

ところが何らかの事情でそれが変更になったのだ。

個人的な見解になるがわたしは、2016年1月に博報堂に天下りした内閣府の元ナンバー2、阪本和道氏がなにか事情を知っているのではないかと思う。

◇事件の忘却という問題

さて、わたしが取材対象にしている新聞社や広告代理店は、世論を誘導する組織と言っても過言ではない。タブーの領域だ。一般のメディアはなかなか新聞社や広告代理店の闇を報道しない。報道しても、単発的な報道なので、あまり問題解決の力にはならない。

「押し紙」問題にしても、わたしは1997年から開始して、今年で20年になるが、まだ、完全にメスが入ったとは言えない。20年書き続けて、やっと「押し紙」の存在を新聞社が否定できないところまで追い込んだ段階である。
もう2年か3年を要する。

この間、雑誌とインターネットは、途切れ途切れであるものの「押し紙」問題を報じてきたが、ニュースを受け取る側に問題があった。問題とは、「押し紙」問題が報じられた時は、大変な社会問題だと認識するのだが、すぐにそれを忘れてしまうことだ。

電通の問題にしても、最初は国際陸連に関する海外報道で火がついたわけだが、その後の報道が途絶え、忘却の途についている。高橋まつりさんの問題もすでに忘却が始まっている。

昨年、財界展望や週刊金曜日が取りあげた博報堂とアスカコーポレーションの係争も、過去の事件になり始めている。実は、これから裁判が本格化するのだが。既報したように、この裁判では、テレビCMの中抜き問題や、視聴率の改ざんが争点になる。いずれもメディアのあり方を考える大変な問題だ。

報道されても、それが簡単に忘れられてしまう。従って報道しただけでは、社会問題を解決できない。沈黙を守れば、時間が不正にふたをする。郵政事件がその典型である。

■平成20年度だけで郵政から博報堂へ223億円を発注、日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会の報告書が記録した事実

改めていうまでもなく、新聞社や広告代理店の問題を放置して、最も大きな損害を被るのは、国民である。あるいは広告主である。会社の金が、あるいは国の金が広告代理店や新聞社にどのように流れ込み、どう使われているのかを再検証して、当事者が情報提供すべきだろう。