渡邉恒雄氏が特定秘密保護法の有識者会議「情報保全諮問会議」の座長に就任する危険性、読売新聞販売店と警察組織の「防犯」を通じた特別な関係
読売新聞グループの渡邉恒雄氏が特定秘密保護法の運用に際して設置された有識者会議「情報保全諮問会議」の座長に就任した。渡邉氏の就任は、重大な問題をはらんでいる。読売が警察関係者と親密な関係を構築しているからだ。
時事通信は、「諮問会議座長に読売会長=17日初会合―秘密保護法」というタイトルで渡邉氏の座長就任を、次のように伝えている。
菅義偉官房長官は14日午後の記者会見で、特定秘密保護法の運用基準を策定する際に意見を聴取する有識者会議「情報保全諮問会議」のメンバー7人を発表した。読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長・主筆を座長に、永野秀雄法政大教授を実務を取り仕切る主査にそれぞれ起用する。17日午前に初会合を開く。
? 菅長官は人選について「安全保障、情報保護、情報公開、公文書管理、法律、報道などそれぞれの分野から優れた知見の方の意見を伺うため、経験や実績などを参考にした」と説明。渡辺氏については、報道分野の代表との認識を示した。
? 諮問会議は、特定秘密の指定や解除、適性評価の実施に関して、政府が統一的な運用を図るための基準を策定する際に意見を具申する。また、秘密保護法の運用状況について毎年、首相から報告を受ける。
なぜ、警察と親密な関係にある読売関係者が秘密保護法に関与することが問題なのだろうか。結論を先に言えば、秘密保護法を主導してきたのが、警察官僚そのものであるからだ。
ジャーナリストの青木理氏は、『女性セブン』(2013年12月19日号)が掲載した「警察官僚のための特定秘密保護法 公安は笑いが止まらない」という記事の中で、次のように述べている。
? 法案を主導した内閣情報調査室は、出向してきた警察官僚のたまり場です。彼らの狙いは、国家秘密を守るのではなく、警察の権益を広げて拡大すること。まさに警察官僚による警察官僚のための法案であり、情報収集を担当する公安警察は笑いが止まらないでしょう。
◇読売と警察の親密な関係
全国読売防犯協力会という組織がある。読売グループの一組織である。実際、読売の公式サイトに、「その他」(の団体)として、同会の名前を明記している。
全国読売防犯協力会のウエブサイトは、会の目的について次のように述べている。
わたしたちの組織「全国読売防犯協力会(略称・Y防協)」は、2003年、凶悪犯罪が続発する中、市民も団結して犯罪抑止に立ち上がろうというメッセージを込めた「治安再生」のキャンペーンに読売新聞社が取り組み、これを契機に、各地の読売新聞販売店(YC)も地域の犯罪防止にひと役買おうと作ったボランティア団体です。各地で警察の協力を得ながら設立した弊会は、翌2004年に全国約10万人のスタッフが参加する全国組織となりました。(略)
端的に言えば、読売新聞の販売店と警察が協力して、防犯活動を展開するという趣旨である。たとえば、新聞配達員が集金先の民家で、過激派ふうの怪しげな人々が集まっているのを目撃した場合、販売店から警察に通報することになる。つまり新聞販売店の店員が準警察官のような役割を果たして、警察の防犯活動に協力するのだ。これが講じるとスパイ活動にもなりかねない。
同会の具体的な目標としては、次の4項目が明記されている。
(1)配達・集金時に街の様子に目を配り、不審人物などを積極的に通報する
(2)警察署・交番と連携し、折り込みチラシやミニコミ紙などで防犯情報を発信する
(3)「こども110番の家」に登録、独居高齢者を見守るなど弱者の安全確保に努める
(4)警察、行政、自治会などとのつながりを深め、地域に防犯活動の輪を広げる
わたしが懸念するのは、なにをもって「防犯活動」と定義しているのかという点である。周知のように、犯罪やテロの解釈は、際限なく拡大できる。秘密保護法の危険性も、実は、犯罪やテロを拡大解釈して、社会運動や住民運動を取り締まることにあるわけだが、読売防犯協力会の活動も、まったく同じ性質の危険性を秘めているのだ。
かつて中米のグアテマラで、住民が警察や軍の管理下で、「防犯活動」を展開する制度が導入され、解放戦線を徹底的に取り締まる政策が敷かれたことがある。住民による住民の監視制度である。当時、グアテマラで先住民族に対するジェノサイド(皆殺し)作戦が展開された事実を見ても、このような制度が「治安維持」の道具として運用されていたことは間違いない。
ちなみにジェノサイド作戦を容認していた元将軍で大統領職にあったリオス・モントは、晩年になり、民主化されたグアテマラの法廷に立たされ、2013年5月、禁固80年の判決を受けた。その後、ただちに牢獄に送られた。
渡邉氏が有識者会議「情報保全諮問会議」の座長に就任した場合、どのようにして、警察権力からの独立性を保つのかという疑問が生じる。
新聞人を座長に据えるのであれば、記者として渡邉氏よりもはるかに優れた実績がある本多勝一氏あたりの方が適任だ。
◇全国の警察との覚書のリスト
読売防犯協力会が覚書を交わしている全国の警察は次の通りである。日付は覚書を交わした年月日である。
高知県警 2005年11月2日
福井県警 2005年11月9日
香川県警 2005年12月9日
岡山県警 2005年12月14日
警視庁 2005年12月26日
鳥取県警 2005年12月28日
愛媛県警 2006年1月16日
徳島県警 2006年1月31日
群馬県警 2006年2月14日
島根県警 2006年2月21日
宮城県警 2006年2月27日
静岡県警 2006年3月3日
広島県警 2006年3月13日
兵庫県警 2006年3月15日
栃木県警 2006年3月23日
和歌山県警 2006年5月1日
滋賀県警 2006年6月7日
福岡県警 2006年6月7日
山口県警 2006年6月12日
長崎県警 2006年6月13日
茨城県警 2006年6月14日
宮崎県警 2006年6月19日
熊本県警 2006年6月29日
京都府警 2006年6月30日
鹿児島県警 2006年7月6日
千葉県警 2006年7月12日
山梨県警 2006年7月12日
大分県警 2006年7月18日
長野県警 2006年7月31日
福島県警 2006年8月1日
佐賀県警 2006年8月1日
大阪府警 2006年8月4日
青森県警 2006年8月11日
秋田県警 2006年8月31日
神奈川県警 2006年9月1日
埼玉県警 2006年9月14日
山形県警 2006年9月27日
富山県警 2006年9月29日
岩手県警 2006年10月2日
石川県警 2006年10月10日
三重県警 2006年10月10日
愛知県警 2006年10月16日
岐阜県警 2006年10月17日
奈良県警 2006年10月17日
北海道警 2006年10月19日
新潟県警2003年3月26日
沖縄県警 2008年6月12
◇読売防犯協力に再就職した警察OB
読売防犯協力に再就職した警察OBは、次の方々である。
鍋倉光昭参与
深川猛参与
横内進参与
池田純 大阪本社参与