1. 「押し紙」と軽減税率適用とメディアコントロールの関係、「押し紙」世界一ではジャーナリズムが成り立たない理由

新聞に対する消費税の軽減税率に関連する記事

2018年04月13日 (金曜日)

「押し紙」と軽減税率適用とメディアコントロールの関係、「押し紙」世界一ではジャーナリズムが成り立たない理由

新聞研究者の故新井直之氏は、『新聞戦後史』の中で、戦前から戦中にかけて言論統制のアキレス腱になっていたのが、公権力による新聞社経営への介入であったことに言及している。具体的には、新聞を制作するために欠くことのできない用紙の統制である。その権限を内閣が掌握したことで、言論統制が可能になったのだという。的確な指摘である。

『新聞戦後史』では、このようなメディアコントロールの原理を内閣が認識していたことを裏付ける資料が引用されている。「新聞指導方針について」(1940年2月12日)と題する内閣情報部の文書である。この文書の中で、用紙の統制がもたらす言論統制の効力について次のように述べている。

 換言すれば、政府が之によって新聞に相当の「睨(黒薮注:にらみ)」を利かすこととすれば、新聞指導上の効果は相当の実績を期待し得ることと信ずる。

戦後も同じ原理に基づきメディアコントロールが行われてきた。ただし、そのキーとなったのは、用紙の統制ではない。新聞社による「押し紙」政策の黙認である。黙認することで、新聞社に莫大な利益をもたらすビジネスモデルを持続させ、この「暗部」に公権力のメスを入れさえすれば、いとも簡単に新聞社が崩壊するか、大幅なリストラを迫られる装置を準備したのだ。

悪知恵の結集にほかならない。

◇独禁法による摘発を逃れるために・・・

新聞に対する消費税の軽減税率の適用(8%据え置き)も、メディアコントロールの道具に変質する可能性が高い。ほとんど知られていないが、消費税率が上がると、新聞販売店は、ある特殊な事情のために、他業種とは比較にならない規模の打撃を受ける。

「特殊な事情」とは、「押し紙」に消費税がかかることである。「押し紙」は帳簿上では、通常の新聞として処理する。それにより新聞社は、販売店に搬入された新聞はすべて配達され、「押し紙」は1部も存在しないという偽りのリアリティーをつくりあげ、独禁法の網の目を潜り抜けてきたのである。いわば独禁法による摘発を逃れるために、「押し紙」に対しても、通常の新聞と同様に消費税を支払っているのだ。

普通の商売、たとえばコンビニであれば、商品を買った客が消費税を支払ってくれる。ところが「押し紙」の場合、新聞の購読料を支払ってくれる読者がいない。そこで、店主が「押し紙」の購読料はもちろん、消費税も支払うことになる。

新聞社が、新聞に対する軽減税率の適用を必死で主張してきたゆえんにほかならない。「押し紙」があるから、なんとしてでも軽減税率を適用させる必要があったのだ。こうした状況を逆手に取れば、新聞に対する軽減税率の適用は、メディアコントロールの道具に変質する。公権力にとって、これほど効果的な「アメとムチ」の政策はないだろう。

その意味で、朝日新聞社が「押し紙」政策を中止したことは大きな意味を持つ。「押し紙」世界一では、ジャーナリズムは成り立たない。