1. 小泉進次郎が新聞に対する消費税の軽減税率適用を批判、その背景にあるメディアコントロールの意外な構図

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小泉進次郎が新聞に対する消費税の軽減税率適用を批判、その背景にあるメディアコントロールの意外な構図

新聞に対する消費税軽減の適用に疑問を呈する小泉進次郎議員(自民党)の発言が話題を呼んでいる。J-castニュースは、小泉議員の意見表明を次のように伝えている。

 2017年10月22日投開票の衆議院議員選挙で、神奈川11区で当選した自民党の小泉進次郎氏(36)が各テレビ局の選挙特番の生中継で、新聞が「軽減税率」の対象となっていることに異議を唱えた。

  小泉氏はこれを主張し続けているにも関わらず、テレビや新聞ではなかなか報じてもらえないと訴えた。生中継を活用した国民への訴えに、「よく言った」などと反響を呼んでいる。(J-castニュース)

現代ビジネスも、小泉議員の意見を次にように報じた。

 私は軽減税率全体を見直していいと思いますよ。その中で特におかしいのは新聞です。(新聞社は)消費税の増税を社説でも求めているんです。なのに自分たちは負担しないんですよ。ぜんぜん筋が通らないですよね。(略)

  衆議院の財務金融委員会で私は質問し続けたんです。なぜ新聞だけが一足飛びに軽減税率に入るのかと。麻生太郎大臣は『広くあまねく情報を均質に伝えている』と言いましたが、それならネットメディアやNHKだって同じでしょう。(略)

  では新聞ならばどこまでが範囲なのかと問えば、『週2回以上発行している新聞』にいつの間にか決まった。しかし、これらの質疑は、いっさい新聞で報じられませんでした。(現代ビジネス)

◇メディアが創った若手のホープ

的を得た意見表明で、新聞関係者は反論できないのではないか。正論である。しかし、こうした形の意見表明が内包している別の側面にも注意しておく必要がある。別の側面とは、政治家による新聞社経営の根幹にかかわる弱点の指摘は、メディアに著しい萎縮をもたらし、安倍内閣に対する批判的報道を押さえ込む効果があるという点である。

つまり小泉議員は、新聞が加計学園汚職などの問題を安倍内閣に批判的な立場から報道するのであれば、新聞に対する軽減税率の適用を見直すこともありうるとほのめかしているとも解釈できるのだ。

筆者は、小泉議員が本気で新聞に対する軽減税率の適用を見直す策動に出ることはあり得ないと見ている。と、いうのも小泉議員の人気は、実はメディアによって創られたものであるからだ。中味はともかくとして、若手のホープのような印象を宣伝してきたのはメディアである。

新聞社は自社の紙面が批判されも何の痛痒も感じない。「見解の相違」で説明がつくからだ。これに対して経営上の汚点、特に法的に問題があるもの、たとえば「押し紙」問題や「折り込め詐欺」を指摘されると手痛い。対抗策としてはスラップ訴訟ぐらいしかない。軽減税率の適用問題は、法的には汚点がないが、新聞社と新聞販売店の運命を左右しかねない重大問題なのだ。

と、いうのも新聞各社が販売店に強制している「押し紙」にも軽減税率がかかるからだ。「押し紙」には、購読者がいないわけだから、自腹を切って消費税を負担するのは、販売店と新聞社である。それゆえに新聞人は軽減税率の適用を求める運動を展開してきたのである。新聞が持つ文化的な価値を理由として、軽減税率適用を正当化する主張は嘘である。

こうした構造と状況の下で、小泉議員は軽減税率の適用を見直す可能性をほのめかしたのである。が、繰り返しになるが、小泉人気はメディアによって保たれてきたわけだから、本気で軽減税率の問題を白紙に戻す意思がないのは明らかである。

それに軽減税率の問題は、自民党にとってはメディアコントロールの有力な道具になっているわけだから、新聞がジャーナリズム性を強力に発揮しない限りは、白紙に戻すことはありえない。

両者のなれあいと茶番劇の構図は際限がない。

◇新聞業界が消費税軽減税率にこだわる本当の理由

なお、新聞に対する軽減税率の適用問題については、拙著『新聞の凋落と「押し紙」』の次の章で詳細に論じている。

第7章 軽減税率をめぐる議論
第8章 新聞業界が消費税軽減税率にこだわる本当の理由

『新聞の凋落と「押し紙」』(花伝社)