1. 水面下で広がる化学物質過敏症の原因、死亡例もあるイソシアネートの恐怖

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2018年01月31日 (水曜日)

水面下で広がる化学物質過敏症の原因、死亡例もあるイソシアネートの恐怖

化学物質過敏症という言葉をご存じだろうか。これは、化学物質の被曝により健康被害を引き起こす疾病の総称である。人体影響が現れる被曝レベルには、個人差があるが、一旦、化学物質過敏症を発症すると、その後は極めて低いレベルの被曝でも、症状を引き起こすようになる場合が多い。

米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する新しい化学物質の数は、1日に優に1万件を超えるという。これらの化学物質が相互に作用して、どのような汚染を引き起こしているのかは、ほとんど解明する時間がないまま、自然環境は刻々と変化している。自然界には存在しない異物が、地球上に増え続けているのだ。

化学物質による人体影響という概念も、こうした外界の客観的な変化の中で輪郭を現してきたのである。

日本ではまったく報道されていないが、欧米で大きな問題になっている化学物質のひとつに、イソシアネートがある。有機化合物でさまざまな種類がある。化学物質過敏症の原因のひとつである。

イソシアネートは、ポリウレタンの原料である。そのポリウレタンは、ある種の梱包剤、自動車バンパー、断熱材、合成皮、スポーツウェア、塗料、接着剤、柔軟剤など極めて多様な製品に使われる原料である。これらのポリウレタン製品が、摩擦や熱など、多種多様な原因で劣化すると、イソシアネートが空気に混入して、それを吸った場合、人体影響が表れることがあるのだ。(ポリウレタン製品のリストは文末に掲載)

1月26日、筆者ははじめてイソシアネートによる被害の実態を取材する機会を得た。「化学物質による大気汚染から健康を守る会(VOC研究会)」が、公明党の平木大作議員を通じて、厚生労働省などに、対策を取るように申し入れを行った際に取材したのである。

◇化学物質過敏症の症状

資料として配付された論文「環境に広がるイソシアネートの有害性」(津谷裕子、内田義之、宮田幹生)によると、イソシアネートによる化学物質過敏症では、次のような症状を示す

職業喘息の主な原因物質で、死亡例も報告されている。

◇重度の化学物質過敏症の例

Aさん(女性)の例を紹介しよう。Aさんは自宅で行われた床の剥離作業が原因で、重度の化学物質過敏症を発症した。工事会社に化学物質過敏症についての知識がなかったこともあって、作業員も化学物質過敏症を発症した。剥離作業が難航して多量の剥離剤を使ったのが原因だった。その剥離剤の中に、イソシアネートの一種であるトルエンジイソシアネート(TDI)が含まれていたのである。

Aさんが被曝したのは、体調を崩して会社を休み、自宅で療養していたからだ。その同じ家で剥離作業が行われたのだ。

Aさんの化学物質過敏症は、風邪のような症状からはじまり、ひどい咳や痰に悩まされるようになった。さらに喘息に進み、ひと月後には胸の痛みで眠れなくなった。病院でレントゲンを撮ると肋骨が折れていた。

このころから嗅覚過敏、皮膚過敏、聴覚過敏、添加物過敏などの症状が現れた。化学物質過敏症になると極めて低い被曝レベルでも、症状が現れるようになる。これは生命を維持するための一種の防御反応ではないかと思われる。一度でも人体が化学物質で危機的な状態に置かれると、次に外部から「毒」が入ってきたとき、たとえそれが極めて微量であっても敏感に反応するようになるのだろう。

Aさんの症状がいかに重篤であるかは、工事会社が誠意をもって莫大な額の賠償を行ったことでも分かる。次に示すのは、Aさんの手記である。

私が化学物質過敏症になったわけ
化学物質過敏症になると、電磁波過敏症も発症しやすくなることは、よく知られている。実際、Aさんはその後、電磁波過敏症を発症する。

筆者の友人のケースだが、若いころに水道工事の仕事に就き、接着剤を多量に吸い込み、後に重度の電磁波過敏症を発症した例もある。塩田永さんという方で、詳しくは拙著『電磁波に苦しむ人々』で書いている。まさに重度の電磁波過敏症で、塩田さんは、都市部では生活が困難になり、長野県の山奥へ移りすんだ。

化学物質過敏症も電磁波過敏症も、過去の時代背景では生まれ得ないが、「電化」が進み、化学物質が溢れている現在社会の中で、徐々に輪郭を現してきた新世代の公害なのである。当然、イソシアネートの問題は、早急な対策が必要だが、26日の申し入れ会に出席した厚生労働省の職員は、対策に後ろ向きだった。

「科学的な根拠を示してもらう必要がある」

と、答弁したのだった。しかし、公害で最優先されるのは、科学的根拠ではなく、人間を対象にした事例や疫学調査である。原因としてイソシアネートが疑われた場合、「予防原則」を優先して対策を取る必要があるのだ。まして欧米では、厳しく規制されているのである。

◇イソシアネートを利用した主な製品

既に述べたようにイソシアネートの発生源は、際限がない。参考までに前出の論文に掲載された「イソシアネートを利用した主な製品」リストを掲載しておこう。