2016年03月16日 (水曜日)
小学校と保育園の近くに3つの携帯基地局、80メートルの地点に高圧電線も、埼玉県朝霞市の基地局問題
埼玉県朝霞市にせまい区域のなかに携帯電話の基地局が3局も設置されている場所がある。市街から離れた台という地区で、ここには朝霞第9小学校と白百合園という保育園がある。
基地局と学校の距離関係は、次の通りである。
【朝霞第9小学校】
KDDI局まで150メートル
SB局まで300メートル
不明の局まで80メートル
【白百合園】
KDDI局まで50メートル
SB局まで300メートル
不明の局まで10メートル
さらにこれら2つの学校から80メートルの地点を高圧電線が走っている。
この位置関係を見たとき、わたしは施設を移転するか、基地局を撤去しなければ、将来的に児童たちが取り返しのつかない健康被害を受ける可能性が高いと思った。
◇すべての電磁波(放射線)は危険
周知のように携帯電話基地局からは、マイクロ波と呼ばれる電磁波が放射されている。また、高圧電線からは低周波電磁波が放射されている。これらの電磁波の人体影響は、かつては認められないと考えられていたが、現在では、危険視する見方が有力になっている。
特に欧米では、電磁波が健康被害を誘発するとの認識がすでに定着していることもあって、たとえばEUは、マイクロ波の推奨規制値として、0.01μW/cm2(室内)を定めている。こうした影響下で、フランスでは裁判所が基地局の撤去を命じる判決を下す事態にもなっている。
これに対して日本の総務省が定めている規制値は、1000W/cm2である。「0.01」 と「1000」のすさまじい違いは、マイクロ波の危険性をどのように考えるかによって生じる。マイクロ波に遺伝子毒性(発ガン性)がないと考えるグループは、「1000」というような規制にならない規制値を設定しているのに対して、遺伝子毒性があると考えるグループは、「0.01」という厳しい数値を設定している。
ちなみにザルツブルグ市に至っては、目標値として0.0001W/cm2を定めている。
◇新生代の公害
電磁波の危険性が住民のあいだでなかなか認識されないのは、まず、第1に電磁波が目に見えないという事情による。
第2に電磁波とカルト的な思想をむすびつける報道が、おそらくは戦略的に進行していることによる。電話・電気会社の巨大ビジネスにとって、電磁波問題の認識が広がることは痛手になるからだ。
第3に電磁波による人体影響の研究の歴史が浅く、電磁波を長期的(たとえば10年、20年、30年)に被曝した場合の人体影響がまだ完全には分かっていないからである。
電磁波による人体影響が本格的に問題視されるようになったのは、1980年代からである。送電線と小児白血病の因果関係が、疫学調査で判明したのである。その後、1990年代になって携帯電話が普及してくると、マイクロ波の安全性が検証されるようになる。
そしてWHOの外郭団体である国際癌研究機構は、2011年5月にマイクロ波に発ガン性がある可能性を認定したのである。いわば電磁波問題は、新生代の公害なのだ。
今日では、ガンマ線やエックス線はいうまでもなく、これらの放射線に比較してエネルギーが低いマイクロ波や低周波電磁波を含む、すべての電磁波(放射線)にはリスクがあるとする考え方が有力になっている。
ただ、既に述べたように危険性に関する検証には長い時間を要するので、現在はまだその途上にあり、最終的な結論は出ていない。従って10代でスマートフォンを常用しはじめた人が、40歳、あるいは50歳になったとき、どのような人体影響を受けているかは誰も知り得ない。今、人体実験が進行していると言っても過言ではない。
ちなみに動物実験でマイクロ波の影響が観察できなかったことを根拠に、マイクロ波は「安全」という結論を出す研究者が日本には多いが、公害の見極めに関しては、動物実験はあまりあてにならない。と、いうのも動物と人間とは体の性質が異なるうえ、電磁波による人体影響は、複合汚染のかたちで浮上すると考えられるからだ。
同じ量のマイクロ波を被曝しても、人体がどのような化学物質で、どの程度まで汚染されているかで、影響の現れ方は異なる。つまり電磁波問題といっても、厳密にいえば電磁波だけが健康被害を起こす原因ではないからだ。電磁波と他の因子が複合して公害を発生させるメカニズムになっていると考えられるのだ。
と、なれば被害の事実を統計的に把握する疫学調査の結果が、公害を検証する上でもっとも信頼性が高い。
携帯基地局と癌の関係を検証する疫学調査は、これまでイスラエル、ドイツ、ブラジルなどで行われてきた。これらの調査では、携帯基地局から半径300メートルから400メートルの円内では、円外よりも、癌の発生率が3倍から4倍ぐらい高いことが明らかになっている。
◇朝霞市の対応
朝霞市役所の市民環境部・環境推進課には、市民の窓口がある。先日、わたしは第9小学校と白百合園の直近にある基地局のリスクを環境推進課に知らせた。次の投稿である。
わたしは2010年5月20日、「無線基地局の設置に関する条例の制定を求める請願」を提出したフリージャーナリストです。周知のようにこの提案は、反対多数で否決されました。これにより基地局から放射されているマイクロ波による健康被害に対する予防措置の必要性が否定されたわけです。
ところがその後、2011年5月にWHOの外郭団体・世界癌研究機構が携帯電話の通信に使われるマイクロ波の発癌性の可能性を認定しました。ブラジルやドイツで行われた疫学調査でも、癌と携帯基地局の因果関係が指摘されるようになっています。
わたしが最も懸念しているのは、朝霞第9小学校と保育園のまじかに立っているKDDIとソフトバンクの基地局です。園児と児童に健康被害が発生していないのか、上記の条例案を否決されたは、朝霞市には調査する義務があると考えます。マイクロ波の人体影響に関する資料はわたしが提供しますので、最初の試みとして、まず、第9小学校の児童と、保育園の児童を対象に健康調査を実施していただけないでしょうか。ご検討ください。
これに対して次のような断りの返信があった。
黒薮 哲哉 様
このたびは、貴重なご意見をお寄せいただき誠にありがとうございました。次のとおり回答いたしますのでご了承ください。
電波の利用に関しましては、国が厳格な基準を設け、携帯電話基地局から発射される電波の強さについても「電波防護指針」で、十分な安全率を考慮した基準値以下に抑えられているものです。
また、総務省発行している「携帯電話基地局とわたしたち」の、携帯電話基地局からの電波に関する発がん性のQ&Aによりますと、「国際がん研究機関は2011年5月、電波には「発がん性があるかもしれない」と評価しましたが、これは、携帯電話端末などを体の近くで使用した場合の発がん性の限定的な証拠に基づくものです。その過程で、基地局からの電波についての発がん性の証拠は不十分であると評価しています。なお、今後WHO本部が電波の健康リスクを総合的に評価する予定です。」などの見解が示されているため、現地時点で市といたしましては、第九小学校の児童及び保育園児の健康調査を実施する予定はありません。
今後におきましても、国の見解を注視してまいりたいと考えております。
以上のとおりでございます。
朝霞市
平成28年3月14日
問合せ 朝霞市市民環境部環境推進課長 小野里 雅子
℡048-463-1111 内線2264
℡048-463-1512(直通)
E-mail kankyo_suisin@city.asaka.saitama.jp