2015年03月17日 (火曜日)
携帯電話のSAR値の安全評価に新見解、被曝量が少なくてもガン化を促進、ドイツの大学が動物実験の結果を公表
携帯電話の説明書に明記されている「比吸収率SAR」とは、人体が電磁波に被曝した時、単位質量に吸収される仕事率(ワット)のことで、日本の場合、10 gの組織が6分間電磁波を浴びたときの許容値として2 W/kgを採用している。国ごとにSAR規制値がある。
携帯電話の機種ごとにSAR値は異なるので、SAR値は携帯電話購入のさいの重要な検討事項になる。とはいえ電磁波によるリスクの認識が浸透していない日本では、SAR値を考慮せずに機種を選んでいる人も少なくないが。
政府や企業から独立して電磁波に関する情報を提供しているニューヨークの『マイクロ波ニュース』(Microwave News )は、3月13日、SAR値の安全基準に疑問を呈する動物研究の結果を報じた。
タイトルは、『高周波のガン化促進:動物実験が波乱を起こす――ドイツのアレックス・レーヒルがUターンした』である。
実験の主導者は、低レベルの高周波曝露効果は偽科学であると長年にわたり主張してきた、ドイツJacobs大学のレーヒル教授。同氏は、この説を自ら覆したのである。
ネズミの子宮に発癌物質として知られるENUを投与した上、第3世代携帯電話の電磁波を放射し、SAR値と発癌の関係を調べ、リンパ腫はもちろんのこと、肝臓と肺の腫瘍も有意に増えることを見い出した。
◆マイクロ波の発癌性、グレードアップされる可能性
ドイツの毒物学・実験医学の研究機関に属するトーマス・ティルマン氏が2010年の研究発表で、高周波の低レベル効果は「顕著」と明言していたにもかかわらず、従来から、SAR値が高くなればなるほど発ガンを促進すると考えられていた。今回のJacobs大学の、より大規模な実験により、この低レベル効果が再確認されたことになる。
実験で用いたSAR値は0.04 W/kg、0.4 W/kg、それに2 W/kgであった。あるケースでは、被爆量が少ないほどガン化が促進された。例えば、日本の人体規制値である2 W/kg曝露より低い、SAR値(1/50, 1/5)曝露で、リンパ腫の発生率が増加することを見い出している。
1990年代の、ECから多額の資金援助を受けた動物実験(PERFORM-A)では、有効な被爆を確保するために動物を拘束しストレスを与えたため、結果の評価が曖昧で、全体の試みは失敗に帰していた。今回ドイツ連邦放射線防護局の支援をうけたレーヒルの新研究は、動物を自由に運動できるようにしたことで、過去の多くの研究にくらべ優位にある。
以上をまとめると、今回の実験は、先行実験の結果を裏付けると同時に、SAR値と発ガンの関係や、発ガン物質を投与されたネズミがマイクロ波(パルス性RF放射線)に被曝した時、肝臓、肺、リンパ節に腫瘍が発生する確率が飛躍的に高くなることを明らかにした。
2011年にWHOの外郭団体である国際ガン研究機関(IARC)は、マイクロ波の発癌性の可能性(2Bランク、possible)を認定している。当時IARCは、動物実験からガン化促進を言うには「証拠が限定」されていると述べていた。
ニューヨーク州立大学Albany校で公衆・環境衛生研究所長をつとめる著名なディビッド・カーペンター教授は「この新研究は、先行研究と相俟って、IARCの人間のガン化分類を2A(probable)に押し進めるより強力な事例となる」と『マイクロ波ニュース』のインタビューに応えた。