2013年09月11日 (水曜日)
携帯基地局の電磁波、基準値を守っていれば安全なのか?デタラメな数値の裏事情
携帯電話の基地局問題を取材してきた関係で、電磁波の安全性についての電話会社の説明に2つのタイプがあることが分かった。
1、「電波防護指針(安全基準)を守って操業しますから安全です」
2、「電波防護指針(安全基準)を守って操業します・・・・」
同じ答弁のように感じられるかも知れないが、実はかなり異なる。1は文字通り、「国の安全基準を守って基地局を操業するので、電磁波による人体影響はない」という意味である。ほかの意味はない。
これに対して2は、「国の安全基準を守って基地局を操業するので、後年、電磁波の人体影響が生じても、われわれには責任がありません」という意味である。
わたしの個人的な印象であるが、近年、?の説明をおなう電話会社の社員が増えている。「安全」とは口が裂けても言わない。「国の安全基準を順守します」とだけ言う。おそらくマニュアルがそんなふうに指示しているのではないかと思う。
本サイトでも繰り返し言及してきたように、日本の電波防護指針は、他国に比べて極めて緩やかに設定されている。
日本 1000μW/cm2
スイス 4μW/cm2
イタリア 10μW/cm2
ロシア 2.4μW/cm2
中国 6.6μW/cm2
ICNIRP 450μW/cm2
ブリュッセル 2.4μW/cm2
ザルツブルグ 0.0001μW/cm2 (目標値)
EU 0.1μW/cm2(屋外提言値)0.01(屋内)
また、バイオイニシアティブ・ワーキング・グループ(著名な14名からなる電磁波の人体影響の研究や公衆衛生の政策に関する専門家の集まり)は、2013年、従来の勧告値(0.1μW/?)よりも更に低い、0.0003〜0.0006μW/cm2という厳しい値を勧告した。
日本の基準値は、1000μW/cm2 であるから、他の地域とは比較にならないほど高い。
◇電磁波はエネルギーの大小にかかわりなく危険
日本の基準値はなぜ、飛びぬけて高いのだろうか。それは1980年代までの古いデータを基礎資料として、基準値を設定しているからだ。言葉を代えれば、携帯電話や携帯基地局の電磁波が危険視されるようになる前の時代の研究に基づいて基準値を決め、今もそれを放置しているからにほかならない。
電磁波の仲間には、エネルギーが強いものとしては、原発のガンマ線やレントゲンのエックス線などがある。これらの電磁波がDNAを破壊することは、周知の事実になっている。
一方、エネルギーが低い高周波や低周波の電磁波には、DNAを破壊する力がないと考えられてきた。安全という説が有力だった。
ところが1979年に米国で、小児白血病と送電線(低周波)の関係を指摘するワルトハイマー論文が発表されたのを機に、エネルギーが低い電磁波についての研究が加速し、電磁波はエネルギーの大小を問わず、様々な人体影響を及ぼすという説が有力になってきたのである。
そして2011年5月にWHOの傘下にある国際癌研究機関が、マイクロ波(携帯電磁波)の発癌の可能性を認定したのである。
こうした流れを把握しているか否かで、基準値も異なってくるのである。
と、なれば日本政府は、防護指針を見直さなければならないはずだ。しかし、依然として1000μW/cm2 という、とんでもない値を放置している。マスコミもほとんど、この問題を報じない。経営が政府広告に依存しているからだ。
◇NTTドコモは電磁波のリスクを宣言
しかし、電話会社はマイクロ波の人体影響を無視することが、長いスタンスで見ると自社に不利に働くと考えたのか、たとえばNTTドコモは、自社のホームページで、次のように警告を発している。
(12)無線通信による健康への悪影響に対する懸念が広まることがあり得ること ?
世界保健機関(WHO)やその他の組織団体等、及び各種メディアの報告書によると、無線通信端末とその他の無線機器が発する電波は、補聴器やペースメーカーなどを含む、医用電気機器の使用に障害を引き起こすこと、ガンや視覚障害を引き起こし、携帯電話の使用者と周囲の人間に健康上悪影響を与える可能性を完全に拭い切れないとの意見が出ております。 ? 無線電気通信機器が使用者にもたらす、もしくはもたらすと考えられる健康上のリスクは、既存契約者の解約数の増加や新規契約者の獲得数の減少、利用量の減少、新たな規制や制限並びに訴訟などを通して、当社グループの企業イメージ及び当社グループの財政状態や経営成績に悪影響を与える可能性もあります。 ? また、いくつかの移動通信事業者や端末メーカーが、電波により起こり得る健康上のリスクについての警告を無線通信端末のラベル上に表示していることで、無線機器に対する不安感は高められているかもしれません。研究や調査が進むなか、当社グループは積極的に無線通信の安全性を確認しようと努めておりますが、更なる調査や研究が、電波と健康問題に関連性がないことを示す保証はありません。
「更なる調査や研究が、電波と健康問題に関連性がないことを示す保証はありません。」と、はっきりと述べているのだ。ある意味では、政府よりも良心的だ。 ? 一方、裁判所は、これまで起こされた携帯基地局の操業中止を求める裁判で、すべて電話会社を勝訴させている。国の規準を守っているうえに、電磁波による健康被害が医学的に立証されていないというのが、その主要な理由である。
かつて最高裁は、原発の操業停止を求める裁判でも、ことごとく電力会社を勝訴させた。それが誤りであったことが、福島第1原発の事故で立証された。最高裁は、判断を間違っていたのである。ある意味では、東電よりも罪が重い。
今、携帯基地局の問題でも、延々と同じ誤りを犯している。