1. NTTドコモによる老人ホーム屋上の携帯基地局設置問題 加藤薫社長宛てに今度は住民らが個人的に内容証明を送付

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2013年08月21日 (水曜日)

NTTドコモによる老人ホーム屋上の携帯基地局設置問題 加藤薫社長宛てに今度は住民らが個人的に内容証明を送付

NTTドコモが東京・目黒区の老人ホーム「グランダ八雲」(ベネッセ経営)の屋上に、携帯基地局を設置する計画を進めている問題で、周辺に住む住民3名は、17日、連名でNTTドコモの加藤薫社長に内容証明郵便を送付した。本サイトで既報したように、同地区の住民運動体である「携帯電話基地局設置に反対する八雲町住民の会」は、既に加藤社長に内容証明を送付している。

今回の動きは、住民個人がみずからの意思に基づいて行った抗議である。それだけ住民の間に、携帯電磁波に対する不安が広がっていることを印象ずける。

内容証明の内容は、NTTドコモに対して、説明会を開くこと、その上で住民の合意を得ること、基地局設置に際しては、公害の予防原則を重視することなどを求めたものである。(内容証明の全文は、文末に引用した。)

目黒区の基地局問題は、これまで指摘されなかった新しい問題をはらんでいる。 高齢者の人権という問題である。

◆高齢者が生きる権利

老人ホームの屋上に基地局を設置する行為をどう評価すべきだろうか。以下、わたしの私的な見解になるが、結論を先に言えば、これは高齢者に対する甚だしい侮辱である。

老人ホームには、身体が衰弱して、ほとんど外出しない人もいる。寝たきりの人もいる。基地局が設置された場合、これらの人々は、24時間、電磁波を浴びるリスクにさらされる。昼間は電磁波の直撃を受けない職場で働き、夜間に自宅で被爆するといった一般住民に典型的なパターンではない。

しかも、高齢者の大半は、携帯電話はともかくとして、スマートフォンなどパソコン化した移動通信機器とは、縁もゆかりもない人々である。

こうした人々が、電磁波に直撃されるリスクにさらされるのである。一般論からすれば、電磁波の影響は、基地局の直下よりも、周辺の方が顕著に現れるが、電磁波は反射するので、一概にどの地点が最も危険とは特定できない。

携帯基地局が立っているマンションの下階に住む住民が大きな被害を受けたケーとしては、新城哲治医師の調査が有名だ。

(参考:携帯電話基地局について)

念を押すまでもなく、老人ホームに医療機器は付き物である。この点を考慮しても、老人ホームの屋上に携帯基地局を設置するのは非常識の極みだ。現に老人ホームを経営するベネッセも設置には反対している。

ただ、物件の所有者がベネッセではなく、藤田商店なので、ベネッセは法的には第3者ということになるらしい。基地局設置を断る権限はない。ただし藤田とベネッセの間でなんらかの特約が存在すれば、状況が異なってくる可能性もあるが。

◆携帯に反対する者は携帯を所持してはいけないのか? ?

携帯基地局を撤去しようとしている人々に対して浴びせられる批判のひとつに、「基地局の撤去を求めていながら、なぜ、あなたは携帯電話を使っているのですか」という批判がよくある。

的外れな論理である。無論、使わないことにこしたことはないが、政府がユビキタス社会の構築を目指している状況の下で、連絡の手段が携帯電話になってしまっている状況がある。特に企業で働いている人は、迅速に連絡が取れる体制を整えておかなければ、リストラの対象にされかねない。日本社会の構造の中に、移動通信のシステムが組み込まれているのだ。

携帯に反対する人は、携帯を使うべきではないという論理は、現在の自由競争の社会を非難する者は、私企業に就職してサラリーを得るべきではないと主張しているのと同じことである。

国策を変えることで、安全に携帯電話を使用したり、他人に迷惑がかからないようなルールを作り、固定電話と公衆電話の存在を再考していこうというのが、住民運動をしている大半の人々の考え方である。

【内容証明】  平成25年8月17日

東京都千代田区永田町2丁目11番1号 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 代表取締役社長 加藤 薫殿

 わたくしたちは、東京都目黒区八雲3丁目の住民です。  貴社は目黒区八雲3丁目4番21号にある老人ホーム・グランダ八雲の屋上に携帯電話の基地局を設置する計画を進めておられますが、わたくしたち周辺住民は、基地局が365日24時間発する電磁波による健康被害の発生を強く懸念しています。

この件につきましては、すでに他の住民の方々が組織する「携帯電話基地局設置に反対する八雲町住民の会」が説明会の開催要請と、住民の了解抜きでの工事着工をしない旨の要請を貴社におこなっていますが、わたくしたちもあわせて同様の要請をおこなう次第です。

 携帯基地局から発せられる電磁波による人体影響については、2011年5月に世界保健機構(WHO)の傘下にある国際がん研究機関(IARC)も、携帯電磁波を含む高周波電磁波に発癌性がある可能性を認定しています。また日本全国さまざまなところで、携帯基地局周辺の住民の間に、耳鳴り、不眠、鼻血といった症状が現れ、裁判になっている事例もあります。この社会問題は今後新しい「公害」として、ますます認知されていくと思われます。

 日本での安全基準は、たとえばEUの提言値などと比べて、きわめて緩やかなものです。また公害で最も重視される疫学調査を十分に取り込んでいないなどの問題があることが指摘されています。同時代科学には限界があり、いつの時代も先端技術が人体に与える影響の把握については、後手に回る傾向が見られます。白黒はっきりとした結果が出せないグレーゾーンが存在することは否めません。

しかし、そうであればこそ、広範囲で長期にわたる人体影響の懸念が払拭できない場合や住民が選択の余地なく公害の影響下に置かれるようなケースでは、予防原則にもとづいた対応と、住民への十分な説明、それにコンセンサスの形成が必須であるでしょう。

日本弁護士連合会も2012年9月に、「電磁波問題に関する意見書」を作成し、「携帯電話中継基地局等の電磁波放出施設を新設する場合、当該基地局周辺の住民に対する説明を行った上、新設することの是非について住民との協議を行う制度の実現を図るべきである」と述べています。

 しかしながら、今回の貴社のグランダ八雲における基地局設置については、昨年10月付の形式的な文書による工事内容と日程の通知が一方的になされただけで、その後少なくとも、わたくしたち近隣の戸建て住民たちには説明会も開かれていません。わたくしたち近隣住民は、一度基地局が設置されてしまうと、365日24時間たえず携帯電磁波を浴びて生活することになります。当然、携帯電話やスマートフォンを利用しない、胎児や赤子、小さな子どもたちも被害を受けます。

彼らは最も携帯電磁波の影響を受けやすい層です。消費者、ユーザーの利便性のみを優先するのではなく、真に社会的な公共性の観点からも、住民への十分な説明と了解のないままの基地局設置は、社会的な「つながり」を大切にする貴社の精神を裏切るものではないでしょうか。

 貴殿におかれましては、八雲3丁目の近隣住民への説明会を開くとともに、住民の合意を得ずして工事を強行しないよう強く要請します。