2023年07月03日 (月曜日)
集合住宅で多発する携帯電話基地局の設置をめぐるトラブル、対策のノウハウ、事前に管理会社に申し入れを
携帯電話基地局の設置をめぐるトラブルが絶えない。わたしのところへ相談が殺到している。電磁波による人体影響についての知識が住民の間に浸透してきた反映であるから、ある意味では歓迎すべき事態である。とはいえ相談者にしてみれば、基地局問題は深刻なテーマであるから、理想的には、問題が起こる前段で対策を取るのが望ましい。本稿は、そのためのノウハウである。
よくある相談のひとつに、「住宅を留守にしている間に基地局が設置されていた」という苦情がある。具体的にどのような状況なのだろうか。
Aさんは、集合住宅の最上階に住んでいる。長期の海外出張から自宅に戻ると自分のマンションの真上に基地局が立っていた。それに気づいたのは、深夜、ブーンという唸るような振動音で眠りを妨げられたことである。屋上に何か機械でも放置されているのではないかと思い、翌日、管理人に尋ねてみると、基地局が立ったと知らされた。
実際、マンションの外から、自分の部屋を見上げてみると、真上に巨大なアンテナが立っていた。深夜に眠りを妨げた音は、基地局が発する低周波音だった。
※低周波音は、感知の度合いに個人差があり、聞こえる人も聞こえない人もいる。
風車による公害も、原因は同じ低周波音である。
通常、集合住宅(分譲マンション)に基地局を設置する場合、マンションの管理組が総会を開いて4分の3の議決を得なければならない。ところが、住民の大半は総会に参加する代わりに、管理組合の理事長に委任状を託す。その理事長は、電磁波についてはまったく知らない場合が多い。しかも、電話会社やマンション管理会社から接待を受けていることが多い。その結果、理知長は基地局の設置を承諾してしまう。
Aさんは、自宅に住めなくなり、自宅を売却しようとしたが、買い手がみつからない。結局、自宅を放置して、賃貸住宅へ引っ越さざるを得なくなったのだ。電話会社と管理会社に抗議したが、「総務省の規制値を守っているので問題ない」とはねつけられてしまった。その規制値は、たとえば欧州評議会に比べて1万倍もゆるいのだが。
このような事例が実際に何件も起きている。
次に紹介するのは、トラブルを回避するために、ある男性が自分が住むマンション管理会社に充てて事前に送った申入書である。ひな型として使えるので、多少修正したものを掲載する。著作権を放棄しているので、自由に使える。
■申入書のひな型
●●マンション●●号室の山下太郎です。
このところ携帯電話基地局の設置をめぐる電話会社と住民の間のトラブルが増えています。そこでトラブルを回避し、住民の分断を回避するために、貴社に対して事前に申し入れをします。今後、電話会社に対して貴社の側から設置を要請することはやめてください。また、電話会社の側から貴社に対して打診があった場合も、承諾することのないようにしてください。
携帯電話基地局で使用される電磁波による人体影響については、ネットで検索すれば大量に記事が表示されますが、ごく簡単に説明しますと、総務省が定めている安全基準が30年以上も更新されておらず、その結果、たとえば欧州評議会の規制値(厳密には勧告値)に比べて1万倍の緩い数値になってしまいました。実質的には規制になっていません。
欧州で規制値がきわめて厳しく設定されているのは、微量の電磁波でも1日24時間、365日に渡って被曝すると遺伝子を傷つけて癌を引き起こすとする疫学調査の結果が2010年ごろから次々と明らかになってきたからです。これに対して日本の総務省の規制値は、遺伝子毒性をまったく考慮していません。それゆえに規制値を厳しくしないわけです。
携帯基地局の位置と発がんの関係を調べたドイツやイスラエル、それにブラジルの疫学調査では、基地局に近くほど癌の発生率が高いことが判明しています。基地局から半径300メールから400メートルの範囲内に住む住民は、範囲外の住民に比べて癌の発生率が3倍ぐらい高くなっています。それが欧州評議会の厳しい規制値設置へとつながったわけです。
以上のような事情ですから、今後、貴社として基地局設置には絶対に協力しないようにお願い申し上げます。これは貴社が適正に対処すれば簡単に回避できる問題です。