2022年01月20日 (木曜日)
普及が進む携帯電話の基地局(4G、5G)の裏で低周波による被害も多発
神経が敏感な人にとっては、麻酔をかけた頭をドリルで貫かれるような感覚を覚えたりする。それが思考や睡眠を妨げる。新世代公害は、影のように住居に闖入してくる。
電磁波問題を取材している関係で、わたしのもとに電磁波による被害についての情報提供や内部告発が寄せられる。電話会社が、民家の直近やマンションの屋上に、一方的に携帯電話の基地局(4G,5G)を設置した後、住民が被害を受ける事件が頻発していることは、既報してきたが、同じ基地局問題でも若干タイプが異なるのが、低周波電磁波による被害である。
携帯電話の通信には、おもにマイクロ波と呼ばれる高周波の電波が使われる。しかし、基地局の機械部分からは、低周波が漏れている。それがもうひとつの健康被害の原因になっている。
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Aさんは自分が住むマンションの天井ひとつを隔てた屋上に設置された携帯基地局が発する低周波音に悩まされている。夜中に静寂の中から、「ブーン」という振動が響いてくることがあるという。それが原因で不眠症になった。
2010年、わたしは、基地局の低周波による被害の典型例を取材したことがある。神奈川県鎌倉市由比ヶ浜にあったKDDI基地局のケースである。被害を訴えていたのは、著名なジャズ・サックス・プレイヤー、植松孝夫さんだった。
植松さん宅の2階の窓を開けると、すぐ目の前のビルにKDDI基地局が設置されていた。巨大アンテナが植松さん宅の窓を覗き込んでいるような印象があった。
植松さんは、夜になると低周波音で神経を攪乱させられると訴えていた。わたしは何度も現場を取材した。しかし、わたしには低周波音は聞こえなかった。
他にも音楽関係の仕事をしている方が低周波の被害を訴えていたケースがある。音楽でだけで生活できるような人は、おそらく音には敏感だ。普通の人では感知できない音を聞き分ける神経を持っている。それゆえに低周波が音として知覚できる可能性が高い。
低周波による健康被害については、超低周波が漏れている送電線や変電所の近辺に小児白血病や脳腫瘍が多いことが、疫学的に裏付けられている。風力発電機による低周波公害については、過去に訴訟も起きている。
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基地局設置の被害が後を断たない背景には、総務省が基地局設置をまったく規制しない事情がある。電波防護指針(安全基準)は定めているが、30年以上も更新しておらず、現在では欧州評議会の勧告値に比べて1万倍もゆるやかな数値になっている。
・日本:1000 μW/c㎡ (マイクロワット・パー・ 平方センチメートル)
・欧州評議会:0.1μW/c㎡、(勧告値)
総務省の規制値はまったく規制になっていない。
電話会社は、住民から苦情が出ると、「電磁波を測定してみましょう」と被害者を説得して、実際に電磁波を計測する。そして、たとえば1μW/c㎡という数値を表示して、
「総務省の規制値の1000分の1で稼働していますから、絶対に安全です」
と、住民を騙す。こうした手口が横行している。
低周波被害については、「気のせいだ」ということにしてしまう。
対策としては、賃貸住宅の住民であれば、電磁波を避けるために別の物件へ引っ越すことである。被害者にしてみれば、不本意だろうが、一応、住居を移すことはできる。
しかし、分譲住宅の場合は、そんなわけにはいかない。基地局を直近に建てられてしまえば、泣き寝入りする意外に方法がない。1日24時間、延々と被曝することになる。
裁判を起こして撤去を求めようにも、電話会社は総務省の規制値を守って操業しているわけだから勝訴の見込みはほとんどない。大変な社会問題なのである。
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国家と企業(電話会社だけではなく、電磁波を利用した製品を開発している企業も含む)が、連携してしまうと、恐ろしいことになる。メディアも、広告・CM利権があるので、この問題を避けている。その結果、電磁波による人体影響に無知な層が大多数を占め、ますます問題解決への道が閉ざされていく。
被害者が地方自治体の議員に相談しても、電話会社が規制値を守っている限り、撤去させることはできないと逃げ腰になる。この問題には積極的に介入しようとはしない。電磁波問題を取り上げると、5Gの普及が遅れるので、有権者から嫌われると思っているのではないか。
問題を告発することの影響力の大きさを考えて、尻込みしてしまう姿勢は、どこか「押し紙」問題を避けたがるメディア研究者の姿勢に似ている。
「劣化」とは、こういう実態を意味するのではないか。