1. 携帯電話の基地局周辺での相対的に高い発癌率、日本では報じられない電磁波問題、

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2017年11月30日 (木曜日)

携帯電話の基地局周辺での相対的に高い発癌率、日本では報じられない電磁波問題、

国会で森友・加計事件の追及が再会されたとたんに、朝鮮がミサイルを発射した。その前には、力士による暴行事件があり、メディアはミサイルと暴行に関するニュースのオンパレードとなった。特にテレビはこうした傾向が顕著になっている。読者は、笑みを浮かべた麻生副総理の顔を想像するのではないだろうか。

報道人にニュースを選ぶ職能がないのか、それとも別の事情があるのか?報道の読みとり方について創価大学の元教授・故新井直之氏は、次のような貴重な指摘をしている。

新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、「どのような記事を載せているか」ではなく、「どのような記事を載せていないか」なのである。

日本のメディアが最も報道を控えている重要テーマのひとつに、電磁波問題がある。読者は、高圧電線や携帯電話の基地局の近くに住んでいるひとが癌になった例を聞いたことがないだろうか?筆者は取材で、乳ガンや子宮癌が多い事実を掴んでいる。白血病の例も把握している。

携帯電話の基地局から発せられるマイクロ波と癌の関係を裏付ける疫学調査は、過去にイスラエル、ドイツ、ブラジルなどで実地されている。次に紹介するのは、ブラジルの例である。以前にメディア黒書で紹介したものだが、再度、紹介しておこう。

◇ブラジルの疫学調査

ブラジルのベロオリゾンテ市は、ブラジル南東部、標高約 800 メートルに建設された計画都市である。人口は約240万人。

この市をモデルとして携帯電話の通信に使われるマイクロ波と癌の関係を調べる調査を地元の州立大学が実施したことがある。結果が公表されたのは、2011年5月。おりしもWHO傘下のIARC(国際がん研究機関)が、マイクロ波に発癌性(遺伝子毒性)がある可能性を認定した時期である。

調査は役所が保管している携帯基地局の位置を示すデータ、市当局が管理している癌による死亡データ、それに国勢調査のデータを横断的に解析したものである。対象データは、1996年から2006年のもの(一部に欠落がある)である。

結論を先に言えば、基地局から半径500メートルの円周内で、癌のリスクが高くなることが分かった。1万人あたりの癌による死亡数と、基地局からの距離は、次のようになっている。明らかな相関関係が浮上する。

 距離 100mまで:43.42人
 距離 200 mまで:40.22 人
 距離 300 mまで:37.12 人
 距離 400 mまで:35.80 人
 距離 500 mまで:34.76 人
 距離 600 mまで:33.83 人
 距離 700 mまで:33.80 人
 距離 800 mまで:33.49 人
 距離 900 mまで:33.21人
 距離 1000mまで: 32.78人
 全市        :32.12 人

検証対象のエリアに複数の基地局がある場合は、最初に設置された基地局からの距離を採用した。そのために汚染源の基地局を厳密に特定できない弱点はあるが、大まかな傾向を把握していることはほぼ間違いない。

結論として、基地局から200メートル以内は極めて危険性が高い。

◇複合汚染こそが問題

とはいえ、マイクロ波が単独の発癌因子とは断言できない。というのも、複合汚染が地球規模で急激に進み、さまざまな「毒」が人体をも汚染しているからだ。


たとえば、新しい化学物質は毎日のように誕生している。その発生件数を見ても、脅威的な数字である。米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)は、新しい化学物質に対してCAS登録番号を発行しているが、その数は1日に1万件を超える。

新しい化学物質により自然環境は常に変化している。静止した状態にはならない。

航空機事故を解析する際に、「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在する」とするハインリッヒの法則が引き合いに出されることがままあるが、環境と病気の関係も同じ原理で、複数の因子が重なったときに、発病のリスクが高まるのだ。

たとえば、子宮頸癌の原因がHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)であることは定説になっている。しかし、HPVに「感染した人全員がかならず子宮頸癌になるわけではない。たとえば感染した状態で、ある環境因子にさらされてDNAがダメージを受けるなどの条件が重なった場合、発癌リスクが高くなる」(利部輝雄著『性感染症』)のである。

原因と結果の因果関係が複雑なだけに、公害においては理論よりも「異変」の事実を優先して対策を取らなければならない。医学的に「異変」が解明されるのを待っていたのでは、公害を拡大させてしまうからだ。

このあたりの認識が欠落しているのが、日本の総務省だ。事実、次に紹介するように、日本の安全基準は、「安全基準」にはなっていない。

◇総務省のマヌケな規制値

このように携帯電話の基地局から発せられるマイクロ波は、癌を発症させるリスクがあるのだ。ところが驚くべきことに、日本の総務省は、何の対策も取っていない。現在のマイクロ波の規制値を定めたのは、1999年で次の数値である。

日本の基準:1000 μW/c㎡ (1.8GHz)

極めて古い数値なのだ。電磁波問題が本格的に指摘されるようになる前の時代のデータに基づいた数値なのだ。

ところがその後、欧米でマイクロ波の人体影響に関する研究が進み、たとえば2012年に発表されたバイオ・イニシアティブ報告では、次のような数値が出ている。

バイオ・イニシアティブ報告:0.003~0.0006μW/c㎡ (1.8GHz)


数値を比べると分かるように、日本の基準値よりも桁違いに低い。研究の結果、マイクロ波についての見解が大きく変化したからである。研究結果に基づいて、厳しい数値となったのだ。


マイクロ波には熱作用と非熱作用があるといのが、現在科学の常識である。熱作用というのは、物質を加熱する作用のことで、典型的な実用例としては、電磁レンジがある。これに対して非熱作用とは、熱作用を除くすべての人体影響を意味しているのだが、最も大きな追求の的になってきたのが、遺伝子毒性の有無である。遺伝子を破損する作用の有無である。

原発のガンマ線などでは、遺伝子毒性があるというのが定説になっているが、最近の研究で、ガンマ線よりもはるかにエネルギーが低いマイクロ波にも遺伝子毒性があるらしいことが分かってきたのである。

実際、2011年5月には、IARC(国際がん研究機関)が、マイクロ波に遺伝子毒性がある可能性を認定した。

ところが日本の総務省は、いまだにマイクロ波の規制値は、熱作用さえ考慮に入れておけば問題ないと考えている。それゆえに1000 μW/c㎡という常識では考えられない規制値を放置しているのだ。

◇規制値のトリック

しかし、たとえば0.003μW/c㎡といった数値を規制値とした場合、携帯電話やスマホの通信は可能なのだろうか。結論を先に言えば、通信は可能である。実際、携帯電話基地局の周辺でマイクロ波を測定してみても、1μW/c㎡を超えることはほとんどない。と、すればなぜ総務省は、1000 μW/c㎡というバカな数値を放置するのだろうか?

それは住民との間で、基地局をめぐるトラブルが発生した場合の対処方法と関係がある。たとえばAさんという住民が、基地局を撤去するように電話会社に申し入れたとする。この場合、電話会社はマイクロ波の測定を実施する。そして1μW/c㎡程度のかなり低い数値を示す。それは偽装の数値ではない。本当の数値である。そして次のように説得するのだ。

「弊社は安全性を最重視して、総務省が定めた安全基準の1000分の1の数値で、基地局を操業していますから、絶対に安全です」

しかし、1μW/c㎡という数値そのものが、バイオ・イニシアティブ報告の基準から見れば、危険きわまりない数値なのである。

本来、ジャーナリズムの役割は、こうしたトリックを暴露することなのだが、日本のメディアは、電磁波問題をほとんど報じない。電話会社・電力会社・電気メーカーが大口広告主であるからだ。政府から受け取る広報費も莫大だ。

【写真】本稿に掲載した写真は、さまざまな形状の携帯電話基地局である。