1. 化学物質過敏症から電磁波過敏症へ、東京目黒区で浮上している基地局問題で注目されるKDDIの「患者」対応

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2016年11月16日 (水曜日)

化学物質過敏症から電磁波過敏症へ、東京目黒区で浮上している基地局問題で注目されるKDDIの「患者」対応

今年の8月に、早稲田大応用脳科学研究所の研究グループ(代表:北條祥子尚絅学院大名誉教授)が、日本人の3.0~4.6%に電磁波過敏症の症状が観察できるという研究結果を発表した。その引き金はなにか?

従来から化学物質過敏症になると、電磁波過敏症を併発しやすいと言われてきた。筆者は研究者ではないので、断定的な事は言えないが、これまでの取材結果を見る限り、顕著にそういう傾向がある。

たとえば拙著『電磁波に苦しむ人々』(花伝社)で取り上げた塩田永さんという男性は、青年期に水道配管の仕事に従事したことがあり、その際に接着剤を多量に吸い込んでいる。後に重度の電磁波過敏症を発症し、携帯電話の「圏内」に住めなくなり、山間部にある「圏外」の村に引っ越した。

◇化学物質過敏症から電磁波過敏症

東京都目黒区中央町2丁目にあるスミレレジデンス(6階建て)の屋上にKDDIが基地局を設置する計画を押し進めている。この建物から60メートルの地点に住む藤川里美(仮名)さんは、基地局が稼働した場合に受ける健康被害を懸念している。すでに電磁波過敏症を発症しているからだ。

幸か不幸か、藤川さんは基地局が設置されるビルの屋上に、工事会社がクレーンで機材を運び上げていることに気づいて、KDDIに工事の中止を申し入れた。現在、工事は中断している。

藤川さんから筆者が、電磁波過敏症を発症するまでのプロセスを聞き取ったところ、塩田永さんと類似した経緯をたどっていることが分かった。塩田さんと同様に、強い化学物質を吸い込み、最初に化学物質過敏症を発症し、それから重度の電磁波過敏症を発症したのである。

発端は、自宅のリフォームだった。

2012年10月19日、朝の9時頃から、藤川さんの自宅で剥離剤を使って床(フロアマニキュア・ナノ)の剥離作業が始まった。藤川さんは、数日前から腰椎捻挫を発症していたため、作業現場のすぐ脇の部屋のベッドで静養していた。剥離剤の臭いが漂っていたが、それが後に化学物質過敏症の引き金になるとは想像もしなかった。

作業開始から3時間ほどが過ぎたころ藤川さんは、頭痛・吐き気・めまいを感じた。そこですぐ近くにある目黒病院を受診して点滴治療を受けた。また、目の充血・痛みがあったので、目薬を点眼した。

それから一旦自宅へ戻った。しかし、身体のしびれや背中の痛みなどの症状が現れたので、夕方に再び目黒病院を受診した。藤川さんが言う。

「剥離作業は素人から見ても明らかに難航しており、剥離剤を大量に使っている様子が伺われました。この日は、剥離剤をフロアマニキュア・ナノに浸潤させる作業を行って終了しました」

翌日も、藤川さんは作業現場近くのベッドで静養していたが、頭痛と吐き気に加え、めまいがした。のどや身体の痛みもあった。

午後2時半頃に作業は終わったが、フローリングの表面がめくれ、シミが多数生じているなどの不具合があった。結局、工事は失敗に終わったのである。

剥離作業終了後の翌日から、藤川さんは強い薬品臭を感じるようになり、眠れなくなった。体調もさらに悪化して、勤務していた銀行を休まざるを得なくなった。

また、飼っている猫も食事を摂らなくなり、下痢などが続いた。20日の深夜には吐血した。ほとんど動かなくなり、重篤状態に陥ったのである。

工事会社も大量に剥離剤を使ったことが、藤川さんが体調を崩した原因であることを認めて、避難先としてホテルを準備してくれた。

こうして藤川さん一家は、以後、2016年の9月まで、自宅を離れた生活に入ったのである。この間に東京都、国土交通省、厚生労働省、東京労働安全衛生センター、目黒保健所、目黒消費生活センターなどとコンタクトを取り、自らの被害を訴えた。工事会社も責任を認めて、それなりに誠意ある対応をした。化学物質過敏症の原因が床の剥離作業で使った剥離剤にあることを認めたのである。

ちなみに藤川さんを、化学物質過敏症と診断したのは、北里大名誉教授・宮田幹夫さんが運営するそよ風クリニックだった。家族も同様の診断を受けた。

藤川さんの症状は特に重篤で、現在も通院している。職場はすでに退職している。客が柔軟剤などを使った衣服を身に着けていると、せき込んだりした。生理も止まった。ちょっと添加物が入った食品を食べると、血便がでるようになった。

◇電磁波過敏症の発症

電磁波過敏症を発症したのは、2014年3月だった。パークハウス世田谷松原に住んでいた時だった。近くに携帯電話の基地局があった。藤川さんは化学物質過敏症になると、電磁波過敏症を発症しやすいことを知っていたので、注意していたが、発症が現実になった。

しかも、それは前触れなく襲ってきたのである。

「スマートフォンを使っていたとき、急に動悸に見舞われました。それから吐き気に襲われました。スマートフォンを切ると症状が収まりました。試しにもう一度、スマートフォンを入れると、症状が再発しました。わたしは電磁波過敏症になったことを自覚しました」

再び住居を移した。ようやく化学物質の影響がなくなった自宅へ戻ってきたのは、2016年9月だった。そして10月26日に、クレーンが基地局の機材らしきものを、スミレレジデンスの屋上に搬入している光景を目撃したのである。

化学物資過敏症も、電磁波過敏症も、前触れなくいきなり発症するようだ。しかも、だれでも発症するリスクを抱えている。そして一旦「過敏症」になると、生活が破壊されてしまう。

KDDIの対応が注目される。