2016年11月02日 (水曜日)
電磁波問題と複合汚染、電磁波単独ではリスク評価はできない
このところ携帯電話の基地局設置をめぐり、電話会社と住民がトラブルになるケースが急激に増えている。その背景には、電磁波による人体影響が情報として人々の間に浸透しはじめている事情があるようだ。
メディア黒書で既報したように、日本人の3.0~4.6%が電磁波過敏症になっているという調査結果を、早稲田大応用脳科学研究所の研究グループがこの8月に発表した。
数値を見ると少ないようにも感じられるが、たとえば電磁波過敏症の比率が4%とすると、10万都市であれば4000人が電磁波過敏症になっている試算になる。しかし、その大半は、恐らく自分が電磁波過敏症であるという自覚がない。体調不良になっても、なにか別の原因があると考えて、病院を転々とする。
しかし、それにもかかわらず電磁波と健康に関する情報は広がっており、その結果、電話会社とのトラブルが多発しているようだ。
◇トラブルのリスト
この1年の間に筆者が取材した基地局問題には次のケースがある。
1,東京中野区2丁目のKDDI基地局(係争中)
2,東京豊島区千早のKDDI基地局(撤去)
3,大阪府北区堂島のKDDI基地局(計画中止)
4,板橋区小豆沢のドコモ基地局(係争中)
5,東京目黒区中央の基地局(詳細を確認中)
◇化学物質による人体汚染と電磁波問題
電磁波被曝の危険性は、化学物質による人体汚染の問題との関連の中でリスクを評価しなければならない。たとえ電磁波単独の被曝では、影響が小さくても、人体がなんらかの発ガン性化学物質で汚染された状態で、電磁波を被曝した場合、相乗効果で発ガンに至ると可能性が高くなると考える得るのである。
それゆえに低レベルの電磁波被曝であれば、安全だなどと考えるのは、誤っている。われわれの身体は、程度の差こそあれ有害な化学物質で汚染されているからだ。
地球上には数え切れない環境因子が存在する。事実、米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する新しい化学物質の数は、一日で優に1万件を超える。こうした状況の下では、複合の因子が連鎖したときに人体に及ぼす影響を検証することは極めて難しい。
人体はひとそれぞれに外界から異なった影響を受けており、厳密に言えば外界の変化に応じて、身体も変化している。静止状態にはならない。ひとつの変化が次の変化を引き起こす運動の法則が働いているのだ。従って体質も個々人により微妙に異なる。同じ強度のマイクロ波に被曝しても、人によりリアクションが異なるゆえんにほかならない。
電磁波問題では、動物実験で害が立証されなかったから安全だとよく言われるが、研究室での動物実験の結果は、必要以上に過信すべきではない。参考になっても、絶対的なものではない。と、いうのも実験装置の中の環境と、実際の環境は異なるだけではなくて、モルモットと人間の体質も異なっているからだ。と、なれば何を最も重視すべきなのだろうか。
それは実際に住民の間に健康被害が広がっている事実である。それが、公害に対峙する原点だ。その意味では、携帯基地局の周辺で、健康被害が発生している事実を指摘した疫学調査の結果は極めて大切な意味を持つ。疫学調査で公害の医学的な根拠を特定できるわけではないが、公害の対策を取るうえで、最も重視すべき要素にほかならない。