1. 増え続ける電磁波過敏症と生活圏の縮小、「ユビキタス社会」の中で進行する弱者切り捨てとプロパガンダ

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2016年07月21日 (木曜日)

増え続ける電磁波過敏症と生活圏の縮小、「ユビキタス社会」の中で進行する弱者切り捨てとプロパガンダ

「ユビキタス社会」という言葉をウィキペディアは、次のように説明している。

「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」がコンピューターネットワークを初めとしたネットワークにつながることにより、様々なサービスが提供され人々の生活をより豊かにする社会である。

「いつでも、どこでも」とはパソコンによってネットワークにつながるだけでなく、携帯情報端末をはじめ屋外や電車・自動車等、あらゆる時間・場所でネットワークにつながる事であり、「何でも、誰でも」とはパソコン同士だけでなく家電等のあらゆる物を含めて、物と物、人と物、人と人がつながることである。

IT技術の発達がもたらす利便性を象徴する内容である。「ユビキタス社会」の方向付けは、すでに国策として定着しており、数年前までは民主党や共産党の議員らが国会の場でも、電磁波にはリスクがあるとの観点から、一定の規制を求める動きをみせていたが、最近は沈黙してしまった。

ユビキタス社会の波にかき消されてしまったのである。

その結果、雨後の竹の子のように、日本列島のいたるところに携帯基地局が設置され、地下鉄車内の「優先席」でも、メールの交信ができるようになった。知らないうちに、自宅にスマートメーターが設置されていることに住民が気づいて、トラブルになるケースも増えている。

◇深刻な生活圏の縮小

名古屋市に住む高山聡さん(仮名)は、電磁波被曝から「避難」するためにまもなく新しい住宅に引っ越す。最初に賃貸アパートで2年、それから新築した自宅で7年のあいだ携帯基地局から発せられるマイクロ波を被曝し続けた。そして電磁波過敏症を発症したのである。

「田舎に引っ越すことも考えましたが、コンクリートのジャングルの中で、電磁波の『陰』になる場所を探して住む方が得策だと思い、名古屋に留まることにしました。田舎に行っても、結構、大きな電波塔が建っていますからね。いまや平穏に生きられる範囲が極端に限定されてきました」

電磁波過敏症は、電磁波が人体に反応してさまざまな障害を引き起こす障害である。動物の神経細胞は微弱な電気で制御されているわけだから、当然のことである。抵抗力の弱いひとは、障害を受ける。

北欧の一部の国を除いて、公的機関による電磁波過敏症の救済は行われていないが、客観的に存在する人体の障害である。重症になると、電磁波が強い都市部での生活が困難になる。事実、電磁波過敏症になり、人里はなれた山中で暮らしているひともいる。

◇電磁波過敏症を発症するまで

高山さんが訴えている症状は次のようなものである。

・頭痛・眼痛・めまい・不眠・気力の低下・味覚異常

症状が出始めたのは、5、6年前だった。イヤホンを設置しなければ、スマホが使えなくなった。最初の自宅を新築する際には、建築士に電磁波対策を相談した。近くに大きな基地局があったからだ。

相談相手は著名な建築家だったが、「コンクリートの壁にするので電磁波の問題は起こらない」と、言われた。その言葉を信じて、場所を変えることはなかった。

高山さんは自分が電磁波過敏症になっていることを自覚する前、病院を転々とした。しかし、医師のあいだにも、電磁波過敏症の認識がない。

「電磁波過敏症を発症していることを最初に自覚したのは、美容室に設置してあるwi-Fiがきっかけです。この美容室へ行くたびに体調が悪くなっていました。美容室を出ると楽になります。そのうちに美容室のwi-Fiが原因だと確信したのです」

最初の自宅で生活しているあいだに、どんどん電磁波過敏症の症状は重くなり、とうとうシールドクロス(電磁波を遮断するための金属が埋め込まれた布)の蚊帳に入らなくては眠れなくなった。

実際、筆者が高山さんを取材した際に、高山さんは黒いシールドクロスの帽子をかぶっていた。シールドクロスの帽子をかぶらなければ、1時間後には身体が耐えられなくなるという。

が、日本には相談の窓口がどこにもない。

◇進行するプロパガンダ

もちろん、電磁波のリスクについて他人に話しても、まったく相手にしてもらえない。

「最近、仏舎利で有名な日泰寺の参道近くにも、大きな基地局が設置されました。そこでこの寺の参道沿いで商店を開いている知人に電磁波のリスクを説明したのですが、深刻には受け止めてもらえませんでした」

多くの通学生や観光客が往来する場所であるにもかかわらず、電磁波にリスクがあることすら知らされていない。欧米では、当たり前に設置が自粛される場所に、日本では制限なく基地局が設置されるのだ。電磁波のリスクが認識されていないからだ。

その背景には、メディアがこの問題を報じないことが大きい。ソフトバンクなどの通信会社が、次から次へとテレビCMを放映すると、CMに経営を依存しているテレビ局としては、電磁波問題の報道を控えざるを得なくなる。

その結果、電磁波は安全という誤った認識が広がってしまう。しかも、そこにユビキタス社会の利便性がPRされると、携帯電話やスマホが巨大市場になる。一種のプロパガンダが進行しているのだ。

しかし、海外では電磁波に関する考え方は大きく変化している。かつては周波数が低い電磁波に関しては、リスクが少ないという見解が主流を占めていたが、最近は、ガンマ線やX線はいうまでもなく、低周波を含む放射線(電磁波)全体にリスクがあるという考えがほぼ定着している。

電磁波は肉体の痛みを伴わない。それゆえに容易にはリスクが認識できない。しかし、それがダメージを受ていないということにはならない。遺伝子レベルでは影響を受けている。実際、ガンの発症数は、右肩あがりに増えている。

「ユビキタス社会」のメリットと電磁波のリスクではどちらが重いのか、再考する必要がある。