『週刊ポスト』と『週刊新潮』が「押し紙」報道、背景に新聞記者による内部告発、大手広告代理店による折込広告の水増し-「折り込め詐欺」も急浮上
今週発売された週刊誌2誌が「押し紙」問題を取り上げている。『週刊ポスト』(月曜日発売)と『週刊新潮』(木曜日発売)である。タイトルは、前者が「朝日新聞危機?! 『押し紙問題』怪事件」(ポスト)で、後者は「『朝日新聞』部数水増しで『大新聞』の明日」(新潮)。
このうち『週刊新潮』の記事では、黒薮もコメントしている。
2つの記事が扱っているのは、朝日新聞社が「押し紙」問題で公正取引委員会から注意された事件である。
「押し紙」とは、新聞社が販売店に対して注文部数を超えて搬入する新聞のことである。(広義には、別の定義もあるが、ここでは省略する)。たとえば1000部しか新聞を配達していない販売店に、1500部を搬入すれば、差異の500部が「押し紙」である。(冒頭の動画は「押し紙」回収の場面)
朝日新聞社が公取委から受けた注意とは、「押し紙」行為に対するものである。しかし、『週刊新潮』の記事は、今回の事件が朝日新聞社だけの問題ではないことを明確にしている。
◇新聞記者による内部告発が背景に
「押し紙」問題が最初に浮上したのは、1980年代の初頭である。読売新聞販売店の内部資料-俗に「北田資料」が国会議員のもとに持ちこまれたのを機に、共産・公明・社会の3党が5年間、15回にわたり新聞販売の問題を国会で取り上げた。その中で「押し紙」問題が知られるようになったのだ。
が、1985年から後は、この問題はあまり報じられなくなった。
次にこの問題がクローズアップされたのは、2007年である。この年、読売新聞の販売店主が起こした地位保全裁判の中で、読売新聞社による「押し紙」政策の存在を認定する判決が福岡高裁で下りた。、その後、この判決は最高裁で確定した。次の判決である。
この判決を機に「押し紙」報道が一気に拡がったのだ。広告主も「押し紙」を問題視するようになった。しかし、読売が黒薮と『週刊新潮』に対して約5500万円の損害賠償を請求するに至り、メディアは再びこの問題に沈黙した。
しかし、昨年あたりから、再び「押し紙」問題の報道が再燃しはじめた。この新しい流れの特徴は、新聞社の記者による内部告発が重要な役割を果たしている点である。かつて記者は自分の足下の「押し紙」問題には踏み込もうとはしなかったのだが。
ところが昨年、元毎日新聞記者の幸田泉氏が、『小説 新聞社販売局』(講談社)を出版。その中で「押し紙」問題を告発した。それ以前には、元毎日新聞常務取締役の河内孝氏が『新聞社』(新潮新書)中で、「押し紙」を取り上げたことはあるが、極めて例外的なケースだった。
今回の公取委による注意の引き金になったのも、朝日新聞の大鹿靖明記者が記者会見の場で、「押し紙」について公取委に質問したことだった。こんなことはかつてなかった。
さらに聞くところによると、新聞社の販売局の「良識派」が公取委に内部告発したという話も聞いている。
◇広告代理店による折込詐欺
しかし、新聞業界には、「押し紙」と並ぶもうひとつの大問題がある。こちらの方は、まだ本格的には報じられていない。それは「押し紙」と連動した折込広告の水増し問題である。「折り込め詐欺」である。
この問題は新聞社だけではなく、むしろ広告代理店の内部を徹底解明しなければ解決しない。広告主に、実態とはかけはなれた新聞の公称部数を提示して、不要な枚数の折込広告を発注させているのが広告代理店であるからだ。明らかな詐欺である。訴訟で損害賠償を請求されれば、大変なことになる。
しかも、最近、この種の詐欺を大手広告代理店が主導していることが分かってきた。メディア黒書は、5月の連休明けから、この問題を報じる予定だ。