読売の広告収入、ピーク時の1700億円から800億円へ半減、自民・大西議員の発言がプレシャーになる理由
【サマリー】2015年1月に開かれた読売新聞社の新春所長会議で、渡邉恒雄グループ本社会長・主筆は、読売の広告収入が、ピーク時の1700億円から800億円までに落ち込んでいることを明かした。広告収入は新聞社の大きな収入源である。それが落ち込んでいる事実は、新聞社の広告を柱としたビジネスモデルの危機でもある。
が、この点を逆手に取れば、メディアコントロールも可能になる。自民党・大西英男議員の「マスコミを懲らしめるには、広告料収入をなくせばいい」という発言は、こうした状況下で飛び出した。
1972年、新聞研究者の新井直之氏が『新聞戦後史』(栗田出版)を著し、新聞ジャーナリズムのアキレス腱が実は新聞社のビジネスモデルにあることを、戦前の例をひきながら鋭く指摘した。
1940年5月、内閣に新聞雑誌統制委員会が設けられ、用紙の統制、配給が一段と強化されることになったとき、用紙制限は単なる経済的な意味だけではなく、用紙配給の実権を政府が完全に掌握することによって言論界の死命を制しようとするものとなった。
新井氏が指摘したことを、長い歳月の後、今度は自民党の大西英男議員がゆがんだかたちで指摘した。大西議員の発言は次の通りだった。
「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」
改めて言うまでもなく、広告収入が新聞社経営に及ぼす影響は計り知れない。それゆえにメディアコントロールの道具として悪用されやすい。公権力や企業の目の付けどころになる。
新聞社の広告収入の実態を読売新聞を例に紹介しよう。
◇折込広告も不況
今年1月に開かれた読売新聞社の新春所長会議で、渡邉恒雄グループ本社会長・主筆は、読売の広告収入が、ピーク時の1700億円から800億円までに落ち込んでいることを明かした。(『新聞情報』、2015年1月24日)
渡邉氏は次のように言う。
読売新聞も販売部数は1年で66万部減少したし、広告収入も、ピーク時に1700億円あったものが800億円にまでほぼ半減し、昨年も800億円を超すことがありませんでした。そのため、読売新聞社としても、多少緊縮した財務政策を取らざるを得ませんでした。不況脱出遅れのために、特に大変な困難に直面されたのは、ここにいらっしゃるYC所長の皆様方であります。まず、第一に折り込み収入が不況で激減して以来いまだに回復しておりません。
読売に限らず、他の新聞社も同じような窮地に追い込まれている可能性が高い。と、いうのもABC部数の大小により広告価格が設定される基本原則がある事情から察して、読売よりもABC部数が少ない他社は、広告営業においても、読売よりもはるかに苦戦を強いられるからだ。
こうした新聞社の斜陽を逆手に取って自民党の大西議員らが着目したのが、
どうやら広告主を抱き込むメディア戦略だったようだ。古くて新しい手口である。経営部門をターゲットにした戦前の手口の復活だ。
◇不毛な紙面批判
しかし、一方に広告主に対して広告出稿をストップさせる手厳しい戦略があるとすれば、他方にはそれと鋭く対立する友好的な戦略もある。それが新聞に対する軽減税率の適用である。軽減税率の適用は、新聞人による政界工作の成果もあり、適用が確実視されている。
つまり、新聞ジャーナリズムをコントロールするために、出版とは無関係なところで、「アメとムチ」の政策が進行しているのである。
安保法制は今、こうした状況の下で、ジャーナリズムを骨抜きにして、成立しようとしている。
わたしは「メディア黒書」で、「いくら新聞紙面の批判をしても、新聞ジャーナリズムは改善しない」と繰り返してきたが、その原因は、新聞社のビジネスモデルが間違っているからである。