1. 「営業秘密」の中身を解明する作業が不可欠、読売が申し立てた「押し紙」裁判の判決文に対する閲覧制限事件⑤

「押し紙」の実態に関連する記事

2023年06月29日 (木曜日)

「営業秘密」の中身を解明する作業が不可欠、読売が申し立てた「押し紙」裁判の判決文に対する閲覧制限事件⑤

濱中裁判(読売を被告とする「押し紙」で、読売が勝訴。原審は大阪地裁)の判決文に対して読売が閲覧制限をかけ、それを野村武範裁判官が認めた件に関する続報である。この判決をメディア黒書で公開するに際して、読売に対して黒塗り希望箇所を問い合わせていたところ、29日の夕方に回答があった。

本来であれば、回答の全文を公開するのがジャーナリズムの理想であるが、読売側がそれを嫌っているので、回答のポイントをわたしの言葉で説明しておこう。ポイントは次の2点である。

❶読売は民事訴訟法92条を根拠に、判決文の閲覧制限を申し立てた。92条は次のように述べている。

第92条
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。

一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。

二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第2条第6項に規定する営業秘密をいう。第132条の2第1項第三号及び第2項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。

前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。

秘密記載部分の閲覧等の請求をしようとする第三者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、第1項に規定する要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、同項の決定の取消しの申立てをすることができる。

第1項の申立てを却下した裁判及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

第1項の決定を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。

❷読売は、黒塗り希望箇所を提示するように求めているわたしの要求に対して、回答を控えると回答してきた。その理由として次のように述べている。「弊社の見解は、弊社の閲覧等制限の申立て及び裁判所の決定内容に含まれ、それ自体が営業秘密にかかわる事項になりますので、(訴訟当事者ではない第三者である貴殿に)弊社からお答えすることは控え」る。

細かい指摘になるが、引用した文章は論理が曖昧でどうにでも解釈できる余地がある。達意という作文の機能をはたしていない。閲覧制限の申立書と野村裁判官が下した決定内容に、閲覧制限の範囲(黒塗りの箇所)についての読売の見解が含まれており、それ(黒塗りの部分)自体が「営業秘密にかかわる事項」なので、回答できないと述べているのだが、この記述だと、読売が提出した申立書はいうまでもなく、判決文の中のどの箇所が黒塗りになっているかも「営業秘密」になるという解釈になってしまう。つまり申立書と判決の全文の非公開を求めているように解釈できる。しかし、裁判所は、黒塗りにした箇所以外は公開していると説明している。

◆今後の対応

ただ、「営業秘密」の中身が具体的な販売政策を指している可能性もあるので、❶と❷を踏まえた上で、わたしは読売の法務部へ次のように再質問をした。

文中にある「営業秘密」とは、具体的に何を指しているのかをご説明ください。たとえば部数内訳のことを言っているのか、補助金制度の運用方法のことを言っているのかなどをご説明ください。どうにでも我田引水に解釈できるようであれば、文書で意思疎通を図る意味がありません。揚げ足取りの原因になります。

わたしが読売からの回答の細部にこだわるのは、2008年に当時の法務室長が、自由人権協会代表理事の喜田村洋一弁護士と協働して、わたしに対してとんでもない裁判を起こした過去があるからだ。それがどのような事件であったかは、次の転載記事を参考にしてほしい。若干長くなるが、判決文も含めて全文を引用しておこう。

なお、読売が「営業秘密」の箇所を具体的に提示しないのであれば、わたしとしては他のジャーナリストとも共同して、野村裁判官が下した判決の取り消しを裁判所へ申し立てざるを得ない。というのも、濱中裁判では読売による独禁法違反は認定されており、「営業秘密」の中に、あるまじき行為が含まれている可能性もあるからだ。

【転載記事】読売・喜田村洋一・自由人権協会代表理事らによる口封じ裁判から9年目に、今後も検証は続く(2016年12月20日付け)

12月21日は、読売新聞社(西部本社)の江崎徹志法務局長がメディア黒書(旧新聞販売黒書)に対して、ある文書の削除を求める仮処分を申し立てた日である。代理人弁護士は、喜田村洋一・自由人権協会代表理事だった。2016年の12月21日は対読売裁判が始まって9年目にあたる。

江崎氏の申し立ては、わたしがメディア黒書に掲載した江崎名義の1通の催告書の削除を求めるものだった。しかし、江崎氏は法務室長という立場にあり、実質的には、江崎氏個人ではなく、読売新聞社との係争の始まりである。

事実、その後、読売から3件の裁判、わたしから1件の裁判と弁護士懲戒請求を申し立てる事態となった。

◇真村事件から黒薮裁判へ

この裁判の発端は、福岡県広川町にあるYC広川(読売新聞販売店)と読売の間で起こった改廃(強制廃業)をめぐる事件だった。当時、わたしは真村事件と呼ばれるこの裁判を熱心に取材していた。

係争の経緯については、長くなるので省略するが、2007年の12月に真村氏の勝訴が最高裁で決定した。日本の裁判では、地裁と高裁で連勝すれば、最高裁で判決が覆ることはめったにない。そのために最高裁の判断を待つまでもなく、高裁判決が出た6月ごろから真村氏の勝訴確定は予想されていた。

そのためなのか、読売も真村氏に歩み寄りの姿勢を見せていた。係争になった後、中止していた担当員によるYC広川の訪店を再開する動きがあった。そして江碕氏は、その旨を真村氏に連絡したのである。

しかし、読売に対して不信感を募らせていた真村氏は即答を控え、念のために代理人の江上武幸弁護士に相談した。訪店再開が何を意味するのか確認したかったのだ。江上弁護士は、読売の真意を確かめるために内容証明郵便を送付した。これに対して、読売の江崎法務室長は、次の書面を返信した。

前略  読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。
    2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。当社販売局として、通常の訪店です。

わたしは、メディア黒書で係争の新展開を報じ、その裏付けとしてこの回答書を掲載した。何の悪意もなかった。むしろ和解に向けた動きを歓迎していた。

しかし、江崎氏(当時は面識がなかった)はわたしにメールで次の催告書(PDF)を送付してきたのである。

冠省 貴殿が主宰するサイト「新聞販売黒書」に2007年12月21日付けでアップされた「読売がYC広川の訪店を再開」と題する記事には、真村氏の代理人である江上武幸弁護士に対する私の回答書の本文が全文掲載されています。

しかし、上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり、未公表の著作物ですので、これを公表する権利は、著作者である私が専有しています(著作権法18条1項)。  貴殿が、この回答書を上記サイトにアップしてその内容を公表したことは、私が上記回答書について有する公表権を侵害する行為であり、民事上も刑事上も違法な行為です。

 そして、このような違法行為に対して、著作権者である私は、差止請求権を有しています(同法112条1項)ので、貴殿に対し、本書面到達日3日以内に上記記事から私の回答を削除するように催告します。  

貴殿がこの催告に従わない場合は、相応の法的手段を採ることとなりますので、この旨を付言します。

わたしは削除を断った。先に引用した、

前略  読売新聞西部本社法務室長の江崎徹志です。
    2007年(平成19年)12月17日付け内容証明郵便の件で、訪店について回答いたします。当社販売局として、通常の訪店です。

と、いう回答書は著作物ではないからだ。催告書の形式はともかく、書かれた内容自体はまったくのデタラメだった。著作権法によると、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」。上記の回答書は、著作物ではない。催告書の内容そのものが間違っている。

そこで、今度はこの催告書をメディアで公開した。これに対して、江崎氏は、催告書は自分の著作物であるから、著作者人格権に基づいて、削除するように求めてきたのである。

そして喜田村弁護士を立てて、催告書の削除を求め、仮処分を申し立てたのである。(回答書の削除は求めてこなかった。)

こうして江崎氏名義の催告書が、著作物かどうかが争点となる係争が始まったのだ。書かれた内容の評価とは別に、催告書が著作物かどうかという点に関しては、一応は議論の余地があった。書かれている内容そのものがデタラメであっても、それに著作物性があるかどうかは、別問題である。

結論を先に言えば、仮処分申立は、江崎氏の勝訴だった。催告書が著作物と認めれらたのだ。

判決に不服だったわたしは、本訴に踏み切った。代理人は江上弁護士ら、真村裁判の弁護団が無償で引き受けてくれた。わたしは東京・福岡間の交通費もふくめて、1円の請求も受けなかった。

◇重大な疑惑の浮上

本訴の中で重大な疑惑が浮上した。

既に述べたように、この裁判は、江崎氏が書いたとされる奇妙な内容(例の回答書が著作物であるという内容)の催告書が争点だった。内容が奇妙でも催告書が江崎氏の著作物であると認定されれば、わたしは削除に応じなければならない。

仮処分では負けたわたしだが、裁判の途中から様相が変わってきた。特に江崎本人尋問を機に流れが変わった。

確かに催告書の名義は江崎氏になっているが、催告書は喜田村弁護士が作成したものではないかという疑惑が浮上してきたのだ。

著作者の権利は、著作権法では、「著作者人格権(公表権などが含まれる)」と「著作者財産権」に別れるのだが、前者は他人に譲渡することができない。一身専属権である。

江崎氏は、著作者人格権を根拠に、わたしを提訴したのである。と、なれば江碕氏が催告書の作者であることが、提訴権を行使できる大前提になる。仮に他人が書いたものなら、それはたとえば、わたしが村上春樹氏の作品を自分のものだと偽って、著作者人格権による権利を求める裁判を起こすのと同じ原理である。

催告書の本当の作成者が喜田村弁護士だとすれば、喜田村氏らは催告書の名義を「江碕」偽り、それを前提にして、著作者人格権を主張する裁判を起こしたことになる。

◇東京地裁・知財高裁の判決

東京地裁は、わたしの弁護団の主張を全面的に認めて、江崎氏の訴えを退けた。喜田村洋一弁護士か、彼の事務所スタッフが催告書の本当の作者である可能性が極めて強いと認定したのである。

このあたりの事情については、地裁判決直後の弁護団声明を参考にしてほしい。弁護団は、この事件を「司法制度を利用した言論弾圧」と位置づけている。

次の引用するのは、知財高裁判決の重要部分である。催告書の名義人偽り疑惑について、次のように言及している。

上記の事実認定によれば、本件催告書には、読売新聞西部本社の法務室長の肩書きを付して原告の名前が表示されているものの、その実質的な作者(本件催告書が著作物と認められる場合は、著作者)は、原告とは認められず、原告代理人(又は同代理人事務所の者)である可能性が極めて強い。

繰り返しになるが、江崎氏は、元々、著作者人格権を主張する権利がないのに、催告書の名義を「江崎」に偽って提訴し、それを主張したのである。

■判決の全文(知財高裁)

喜田村弁護士は、自分の行為が弁護士としてあるまじき行為であることを自覚していたはずだ。弁護士職務基本規定の第75条は、次のようにこのような行為を禁止している。

弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。

ところが名義を偽った催告書を前提にして、裁判所へ資料を提出し、自己主張を展開したのだ。

裁判が終わった後、今度はわたしの方が攻勢に転じた。喜田村弁護士が所属する第2東京弁護士会に対して、喜田村弁護士の懲戒請求を申し立てた。2年後に、申し立ては却下されたが、多くの法律家が前代未聞のケースだとの感想を寄せた。弁護士会の判断は誤りだと話している。現在、再審を検討している。曖昧な決着はしないのが、わたしの方針だ。

今後も検証は続く。