YC大門駅前の「押し紙」裁判、請求額を約1億2486万円に増額、根拠は店主が電送していた「販売店経営内容調査表」
YC大門駅前(広島県福山市)の元店主・濱中勇志さんが読売新聞大阪本社を相手に起こした「押し紙」裁判の口頭弁論が、5月18日、ウェブ会議のかたちで行われ、原告弁護団(江上武幸弁護士ら)が、従来の4120万円の請求額を1億2486万円に引きあげる申し立てを行った。同弁護団の「請求の拡張申立書」によると、増額の背景に、当初、請求対象にしていた時期とは別の時期に「押し紙」が存在したことを裏付ける新資料を入手した事情がある。
当初、濱中さんは2020年8月に、4120万円の損害賠償を求める「押し紙」裁判を起こした。この時点での請求の根拠は、2017年1月から2018年6月(廃業時)までの約1年半における「押し紙」の損害額と、それに付随する弁護士費用だった。請求の対象期間を1年半に限定していたのは、それ以前の時期については、「押し紙」の存在を裏付ける有力な証拠が乏しかったからである。
ところがその後、開業当初からの「押し紙」の証拠の存在が明らかになった。そこで濱中さんの弁護団は、開業時の2012年まで遡って、損害額などを再計算した。
その際、提訴当時の請求額も微修正した。
請求額を拡張する上で有力な根拠となった資料は、「販売店経営内容調査表」と呼ばれる書式である。これは店主が自店の経営実態を読売本社に知らせるための書式で、新聞の定数(搬入部数)や実配部数などを入力する。たとえば開業時の2012年4月の時点で、YC大門駅前の定数は、1641部だった。これに対して実配部数は874部だった。予備紙を定数の2%とすると、「押し紙」は894部になる。
濱中さんは「販売店経営内容調査表」を読売本社に電送していた。そうなると当然、YC大門駅前に大量の残紙があることを読売が認識していたことになる。
ただ、「販売店経営内容調査表」の提出は定期的なものではないので、「押し紙」部数の計算を、推定に頼らざるを得ない月もある。確実に言えるのは、大量の残紙を生む新聞社のビジネスモデルがあることである。
◆◆
口頭弁論が終わった後、濱中さんの弁護団は、「読売販売店元経営者の濱中勇志氏の請求の趣旨拡張申立のご報告」と題する文書を公開した。その中で、「押し紙」の違法性につて次のように述べている。
「押し紙は、独禁法に違反するだけでなく、民法709条の不法行為・民法415条の法令遵守義務違反の債務不履行・民法90条の公序良俗違反のいずれにも該当する違法行為であると考えており、押し紙の仕入代金の返還や損害賠償の請求は廃業前10年に遡って可能だと考えております」
また、販売店に向けて、「押し紙」対策を次にように助言している。
「新聞社は読売に限らず、独禁法の新聞特殊指定の定めがあるため、建前としては販売店に注文部数を自由に決定する権利のあることを認めています。
内容証明郵便や録音電話・メール等で、時期・部数を明示して押し紙を減らすよう新聞社に求めることをおすすめします。新聞社は減紙に応じるはずです。また、それを減紙の申し出を理由に強制改廃することは法的には許されません。
しかし、最近、廃業する販売店に対して、押し紙裁判の提訴等を念頭においているからと思われますが、廃業後は押し紙の損害賠償請求はしない旨の確約書の作成を求められる事例が報告されています。
もし、廃業に際しそのような確約書の作成を求められた場合は、署名・押印を拒否して最寄りの弁護士会に相談されることをおすすめします。」
弁護団が公表した文書の全文は次の通りである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【読売販売店者の濱中勇志さんの請求の趣旨拡張申立のご報告】
弁護士 江上武幸 (PDF)
読売新聞大阪本社を被告とする大阪地方裁判所令和2年(ワ)第7369号の損害賠償請求訴訟において、この度、原告濱中勇志さんは訴状で請求した損害金4120万円(弁護士費用を含む)を1億2486万円に増額する請求金額の拡張を行いました。なお、関心のある方は末尾に添付した「請求の拡張申立書」をご覧ください。
令和2年の提訴当時、濱中さんの販売店には、実配数を示す資料は廃業前の1年半分しか残されていませんでした。そのため、提訴時点では、1年半分の押し紙の仕入代金と1割相当の弁護士費用の合計4120万円しか請求していませんでした。
提訴後、読売側から平成27年7月から28年12月までの「定数カードWeb報告書」が提出されましたので、平成24年4月の開業から平成27年6月までの「定数カードWeb報告書」(データーを含む)も追加して提出するよう求めましたが、現在に至るも提出されていません。
そこで、原告弁護団は推定計算に基づき、請求金額を1億2486万円に増額することにしました。
押し紙は、独禁法に違反するだけでなく、民法709条の不法行為・民法415条の法令遵守義務違反の債務不履行・民法90条の公序良俗違反のいずれにも該当する違法行為であると考えており、押し紙の仕入代金の返還や損害賠償の請求は廃業前10年に遡って可能だと考えております。
本件裁判で読売は、適正予備紙2%を定めた以前の地区協議会のモデル細則についても、業界の自主ルールに過ぎないから法的拘束力は有しないという趣旨の主張を行っています。
また、無代紙(サービス紙)についても、配布が禁止されているにもかかわらず販売店経営に必要な部数として処理すべきであるなどと、販売正常化に真っ向から反する主張を公然と行っています。
読売新聞グループ本社の渡辺恒雄代表取締役・主筆は、令和4年度の読売新聞三社の賀詞交換会の席上、「読売新聞1000万部体制の復活」の決意を披瀝しております。読売新聞の発行部数はすでに700万部を切っているにもかかわらず、このような現実を無視した発言が公の場でなされており、しかも、そのような妄言をたしなめる側近は誰もいないようです。
押し紙により経営に苦しんでおられる読売新聞販売店経営者の皆さんの苦難はいつまで続くことになるでしょうか。
40年ほど前ですが、読売の丸山巖専務取締役販売局長は「本社が販売店に送りつける押し紙で、配達もされずに梱包のまま残紙屋に回収される残紙が、なんと年間300億円にもなる。こんな無駄が許されるわけがない。」、朝日の古家哲夫常務取締役(販売担当)は「内部努力ではもうだめ。公権力が入ってこざるを得ない。そこまで販売乱戦の危機は深刻化している。」と発言したそうです(新潮社 河内孝著 「新聞社 破綻したビジネスモデル」)。
押し紙問題は、新聞社が身をきる覚悟をしない限り、100年たっても自主解決は出来ないでしょう(当弁護団が知る限り、「熊本日々新聞」は社を上げて押し紙問題の解決を実現しています。)。
私たちは、引き続き新聞社に押し紙の自主解決を呼びかけると同時に、司法権の発動による根本的解決を目指して、押し紙裁判を担当していきます。
皆様のご支援を引き続き御願いする次第です。
(追記)
~販売店経営者・新聞記者、新聞労連等労働組合の皆様~
コロナ禍にあって、急速な購読部数や折り込み収入・紙面広告収入の減少により、販売店だけでなく新聞発行本社の経営も一段と厳しい状況が続いています。
新聞社は読売に限らず、独禁法の新聞特殊指定の定めがあるため、建前としては販売店に注文部数を自由に決定する権利のあることを認めています。
内容証明郵便や録音電話・メール等で、時期・部数を明示して押し紙を減らすよう新聞社に求めることをおすすめします。新聞社は減紙に応じるはずです。また、減紙の申し出を理由に強制改廃することは法的には許されません。
しかし、最近、廃業する販売店に対して、押し紙裁判の提訴等を念頭においているからと思われますが、廃業後は押し紙の損害賠償請求はしない旨の確約書の作成を求められる事例が報告されています。
もし、廃業に際しそのような確約書の作成を求められた場合は、署名・押印を拒否して最寄りの弁護士会に相談されることをおすすめします。
押し紙問題を自主的に解決しようとしない新聞社のモラル崩壊が、このような形で極限まで進行している状況に驚くと同時に、新聞社のモラル崩壊が社会の隅々に生じているモラル崩壊にも直接・間接に重大な影響を及ぼしているのではないかと危惧しています。
販売店の皆さんや新聞記者の皆さんが、新聞業界の販売正常化を目指し、それぞれの立場で押し紙撲滅にむけて引き続き奮闘されることを期待しています。
◆資料