1. 1980年代からの新聞販売に関する資料、「沢田資料」を大量に入手、「押し紙」回収が一大産業として成り立っていた

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2021年10月28日 (木曜日)

1980年代からの新聞販売に関する資料、「沢田資料」を大量に入手、「押し紙」回収が一大産業として成り立っていた

新聞販売に関する資料「沢田資料」をわたしが管理することになった。

中身は、1980年代から2000年ごろにかけた時期に、沢田治氏が収集した新聞販売に関する資料である。沢田治氏は、「押し紙」問題をはじめて告発した人で、特に1980年代前半に新聞販売問題についての国会質問を舞台裏で準備したことで知られている。

国会質問は、総計15回に渡って行われた。共産党、公明党、社会党が超党派で新聞販売の問題を追及した。その段取りをしたのが沢田氏だった。

沢田氏は、新聞販売問題から「引退」した2005年ごろに、河北仙販労働組合に「沢田資料」の保管を依頼した。同労組が沢田氏と歩調を共にしていたからである。

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10月27日に、特大の段ボール箱が2つ、河北仙販(河北新報の販売会社)の労働組合から送られてきた。

ひと月ほど前に、わたしは沢田氏から手紙を受け取った。河北仙販の労働組合が本社ビルの売却により移転することになり、「沢田資料」の今後の扱いについて相談してきたという。そこで沢田氏が、わたしに「沢田資料」を引き継ぐ意思があるかどうかを確認してきたのである。もちろん引き受けた。

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「沢田資料」の中には、新聞問題を特集した雑誌なども交じっていた。たとえば、『月刊現代』(1990年1月)は、「いま大新聞を疑う」という特集を組んでいる。内橋克人、山本夏彦、黒田清、本田康春といった当時の識者が寄稿している。読んでみて苦笑した。現在の新聞批判とまったく同じことを言っているのだ。

「新聞は、いつの間にか本当に憶病なジャーナリズムになってしまっている」(黒田)

「日本のマスメディアを代表する朝日、毎日、読売は、まるで符節を合わせたように、捏造、誤報、虚報を連発した」(本田)

 「最近のマスコミ状況を見ていて強く感じるのは、新聞の論説が非常に微妙な立場に立ちはじめているのではないか、ということです」(内橋)

若干の例外はあるにしても、新聞を批判する視点は、この30年のあいだまったく変化していないのである。ほとんど脱皮していない。記者に職能がないから、新聞ジャーナリズムが機能しなくなったとする視点である。

詳しく調べたわけではないが、わたしが手短に調査した範囲では、1960年代や70年代の新聞批判もほぼ同じ視点だった。記者の職能不足をジャーナリズムが衰退した原因としてきたのである。

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しかし、同じ視点の新聞批判を半世紀繰り返しても、新聞の紙面は改善されていない。むしろ悪くなっている。同じ批判が世代から世代へと伝わり、延々と繰り返してきたのである。天才的な個人(記者)が登場すれば、それで問題は解決すると言わんばかりの思考体系だ。

このような類型化された思考に陥ってしまった究極の原因を特定するのに深い考察はいらない。新聞が堕落した背景を探る際に、その原因を新聞社経営の客観的な汚点の中に発見する作業を怠ってきたからである。ジャーナリズムが成り立つ条件を、記者の職能としか考えなかった誤まりである。もっと究極的に言えば、唯物論の考え方が浸透する社会的条件がまだ整っていなかったからにほかならない。

エンゲルスの言葉を借りて、それを現代に蘇らせるとすれば、「彼らの時代が彼らに課した限界を乗り越えることができなったのである」(『空想より科学へ』、岩波文庫)。限界とは、無意識のうちに染み付いている思考体系-観念論のことである。

その結果、先人らは個々の諸問題を独立した現象として捉えてしまい、全体の関連性の中で、新聞が権力構造に組み込まれメディアコントロールの道具になっている実態を把握することが出来なかったのである。

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おそらく唯一の例外的な評論家は、新井直之氏だった。新井氏は、公権力によるメディアコントロールの手口として、メディア企業の経営部門への介入を早くから指摘していた。それはたとえば、戦前・戦中の政府が新聞用紙を統制することで、言論をコントロールした原理を例としてあげれば十分である。

今日でも同じ原理が働いていて、公権力による新聞に対する消費税率の軽減措置、再販制度の維持、「押し紙」放置などの「国策」が採用されている。従って、これらの問題にメスを入れない限り、新聞ジャーナリズムは再生できない。

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「沢田資料」には、「押し紙」の写真も含まれている。それをみると2000年ごろには、「押し紙」回収がひとつの一大産業として成り立っていたことが分かる。(上写真・UEDA

「沢田資料」をデジタル化して、インターネットで公開することも検討している。資料の紛失を防止する対策も必要だ。