2020年05月14日 (木曜日)
折込広告の水増し詐欺の露骨な手口、「4・10(よんじゅう)増減」の全容(2)
ABC公査で不正を摘発されない体制を構築すれば、新聞社はABC部数をどうにでも操作できる。新聞社が販売店へ送り込んだ部数が、そのままABC協会へ申告され、ABC部数として認定される。さらにそれが折込定数になるわけだから、自由自在に折込媒体の水増しが可能になる。
広告主企業の中には、このような構図に気づいている企業もあるが、自主的に折込媒体の発注枚数を折込定数よりも少なめに設定するだけで、新聞社に抗議したという話はない。
わたしは複数の広告主から、その理由を聞いたことがあるが、共通して「新聞社とはトラブルになりたくない」という答が返ってきた。新聞社は社会的な影響力があるので、新聞社と係争になると、折込広告や紙面広告を出稿しづらくなる上に、紙面でバッシングされるリスクがあるからだ。それゆえに抗議しない。
しかし、大半の広告主企業は、この欺瞞的な実態そのものを知らない。そこへつけ込んで、大胆にABC部数を捏造する新聞社もある。そのための変形した手口が、「4・10(よんじゅう)増減」と呼ばれるものである。これは露骨な「折り込め詐欺」にほかならない。
◆◆◆
「4・10増減」は、折込定数の改定月にあたる4月と10月にABC部数を増やす政策である。それにより折込定数をかさ上げし、折込媒体による手数料収入を増やすことを意図している。
折込定数の改定は、年に2回行われ、4月の折込定数は6月から11月の期間で使われ、10月の折込定数は、12月から翌年の5月まで有効になる。それゆえに4月と10月にABC部数を増やせば、年間を通じて折込定数を高く維持することができる。
4月の翌月にあたる5月と、10月の翌月にあたる11月になると、販売店の残紙の負担を減らすために、ABC部数を減部数する。
「4・10増減」は、折込手数料を増やすことが目的であるから、単純に考えると新聞社が販売店のために採用しているような印象があるが、必ずしもそうとは言えない。というのも、折込手数料は残紙によって生じる販売店の損害を相殺するための資金として、最終的には新聞社へ入ることがあるからだ。ただ、一般論からいえば、「4・10増減」によって折込媒体の水増し率が高くなるので、販売店にとってはメリットになる。
「4・10増減」の問題は、千葉県の元販売店主が産経新聞を相手に起こした「押し紙」裁判の中で明らかになった。裁判の中で原告の元店主は、搬入部数を減らすように産経新聞社と交渉した際、「4月と10月は増紙(注:搬入部数を増やすこと)することを交換条件とされた」(訴状)と主張した。実際、「3月・4月・5月」と、「9月・10月・11月」の部数の変化は次のようになっている。4月と10月だけが高く設定される傾向があるのだ。
《2013年》
3月:910部
4月:1026部
5月:910部
9月 :910部
10月:1022部
11月:510部(残紙の整理が行われた)
《2014年》
3月:510部
4月:998部
5月:530部
9月 :600部
10月:600部
11月:600部
《2015年》
3月:600部
4月:972部
5月:600部
9月 :600部
10月:600部
11月:600部
2013年から2015年までの3年間に、年に2回、計6回の折込定数の改定が行われたが、そのうちの4回で、不自然なABC部数の増減が行われているのである。
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なお、「4・10増減」は産経新聞だけが採用している政策ではないようだ。下表は、全国紙における月別のABC部数の変化のうち「4月・5月・6月」と「9月・10月・11月」の部数増減を示したものである。
たとえば2007年の朝日新聞のケースを取り上げてみる。まず、3月から5月の部数変遷を見てみよう。3月のABC部数(全国)は 8,006,111部である。これが4月になると8,089,774部に増える。そして5月になると、再び減って8,012,030に減部数されている。
次に9月から11月を見てみよう。8月のABC部数は7,996,052部である。これが10月になると8,100,664部に増える。そして11月になると、再び8,000,860に減部数されている。
毎日新聞と産経新聞についても、全国規模で「4・10増減」が観察できるが、読売新聞については、その傾向は見られない。
◆◆◆
念のために比較的新しいABC部数でも検証してみる。採用するのは、2015年と2016年である。読者には、本記事上の表を確認してほしい。朝日新聞と読売新聞では、「4・10増減」は観察できないが、毎日新聞は2016年の4月を除いて、「4・10増減」の状態になっている。産経新聞は、常に「4・10増減」の状態だ。
ここ数年については、「4・10増減」の傾向はほんど見られない。ABC部数は右肩下がりになっている。折込媒体の需要が減っているために、水増しした折込手数料で残紙の損害を相殺できなくなり、残紙を排除しなければ新聞販売網が維持できない状況が生まれているからである。