『文藝春秋』(3月号)が新聞販売店の惨状を告発、タブーの壁を一気に崩す
『文藝春秋』(3月号)が、新聞社を縁の下で支えてきた新聞販売店の惨状を克明にレポートしている。執筆者は、元大手新聞の記者で作家の幸田泉氏。タイトルは「告発ルポ・新聞販売店主はなぜ自殺したか」。華やかなイメージのあるメディア業界の最底辺を丁寧に取材して、その惨状をえぐり出している。
販売店主の自殺といえば、日経新聞の元店主が東京大手町の日経本社ビルのトイレで焼身自殺した事件が記憶に新しい。このルポでは日経新聞の店主だけではなくて、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞の店主の自殺をも取材している。販売店主の自殺はもはや珍しい事件ではなくなっているのだ。
◆諸悪の根元「押し紙」政策
その背景には、「押し紙」問題がある。たとえばルポの中で毎日新聞・南甲子園販売所の「押し紙」の実態が紹介されている。それによると、ある時期、実配部数が480部しかないのに、約1700部もの新聞が搬入されていたという。「押し紙」率が7割を超えている。
ちなみに筆者はメディア黒書で、「押し紙」率が7割を超えていた毎日新聞・販売店の例をこれまで2件紹介している。これに南甲子園販売所の悪しき例に加わる。この店の店主は、販売店経営を立て直すために弁護士を立てて毎日新聞社と交渉していたが、2017年10月に店を強制改廃されたという。
さらにこのルポは、ABC部数の「ウソ」にも言及している。いかにして虚偽の数字が捏造されるのか、そのプロセスを報告している。
改めていうまでもなく、「押し紙」と表裏関係にあるのが、折込広告の水増し問題である。特に対策が求められるのは、地方自治体などが発注する公共の折込物(たとえば広報紙や選挙公報)である。これについても千葉県印旛市の市議を取材して、広報紙を廃棄している実態を報告している。
このルポは、従来、新聞業界のタブーとされた壁を一気に崩している。元新聞記者の手でこうした内部告発が行われた意義は大きい。「押し紙」は1部も存在しないと主張してきた日本新聞協会や新聞社の「押し紙」政策を熱心にサポートしてきた弁護士は、このルポを読んで何を感じるのだろうか?
訴権を口実に、裁判で口封じするようなことがあってはならない。
◆「押し紙」と折込広告の回収場面の動画
参考までに「押し紙」回収の場面と、水増しされた折込広告を回収している場面を撮影した動画を紹介しておこう。新聞人は1980年代から、「押し紙」問題を繰り返し指摘されてきたが、耳を傾けないわけだから、筆者も報じ続けざるを得ないだろう。
次の3点の動画は、「押し紙」を回収している場面である。回収されている新聞が古紙でないことは、新聞がビニールで梱包されていることで分かる。毎日新聞の場合、「押し紙」率が70%を超える販売店もあった。
【動画1】
【動画2】
【動画3「今朝の毎日新聞が数時間後には只の新聞紙(古紙)になるまでの様子」
◆折込広告の破棄
「押し紙」とセットになっている折込広告も破棄される。以下の「1」と「2」は、過剰になった折込広告を段ボール箱に入れる場面である。「3」は、折込広告が入った段ボールを、トラックに積み込む場面である。
なお、「3」は、販売店から紙収集場までをカメラが追跡している。素人が撮影した動画だが、こんな場面はNHKに40年勤務しても撮影できないだろう。
【1,大量廃棄されるユニクロの折込広告】
【2,大量廃棄される山田養蜂場の折込広告】
【3,販売店から折込広告を搬出する場面】
◇読売に対する反論
真村訴訟での「押し紙」政策認定については、読売はその解釈を認めていない。事実、この点に言及した『月刊Hanada』の記事(黒薮執筆)に、読売の滝鼻広報部長が抗議文を送りつけた。そこで、それに対する筆者の反論と、判決を以下に掲載しておこう。滝鼻氏が希望されるようであれば、抗議文の全文を掲載する。