1. 東京新聞が共謀罪を批判的に報じられる理由、「押し紙」の汚点とメディアコントロールの関係は?

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2017年05月05日 (金曜日)

東京新聞が共謀罪を批判的に報じられる理由、「押し紙」の汚点とメディアコントロールの関係は?

共謀罪の危険性を最も精力的に報じている一般紙は、おそらく東京新聞である。東京新聞は、高市早苗総務大臣(自民)と森ゆうこ参議院議員のマネーロンダリングの問題も大きく報じた。

なぜ、このような報道ができるのだろうか?

これはあくまで筆者の推測になるが、経営上の汚点がないからだと思われる。改めていうまでもなく、最大の経営上の汚点は、「押し紙」である。「押し紙」は独禁法に抵触するために、公正取引委員会や経済産業省は、その気になれば、「押し紙」を取り締まることができる。新聞社を生かすことも殺すことも簡単に出来る。さじ加減ひとつなのだ。

「押し紙」で新聞社がいかに莫大な利益を上げているかを示す例を示そう。

◇「押し紙」による収入の試算

試算に使用するのは、毎日新聞の内部資料「朝刊 発証数の推移」である。2004年に外部に漏れた資料で、FLASHや財界展望で紹介された。

この資料によると、2002年10月の段階で、全国の新聞販売店に搬入される毎日新聞の部数は約395万部であった。これに対して発証数(読者に対して発行される領収書の数)は、259万部。差異の144万部が「押し紙」である。

しかし、これは15年前の数値であるから、現在はさらに「押し紙」が増えているはずだ。一種の「病気」である。

■裏付け資料「朝刊 発証数の推移」

かりにこの144万部の「押し紙」が排除されたら毎日新聞は、どの程度の減収になるのだろうか。逆に言えば、この144万部の「押し紙」で毎日新聞はどの程度の利益を上げていたのだろうか。試算すると恐るべき数字が出てくる。

◇「押し紙」で年間260億円の収入

事前に明確にしておかなければならない条件は、「押し紙」144万部の内訳である。つまり144万部のうち何部が「朝・夕セット版」で、何部が「朝刊だけ」なのかを把握する必要がある。と、いうのも両者の購読料が異なっているからだ。

残念ながら「朝刊 発証数の推移」に示されたデータには、「朝・夕セット版」と「朝刊だけ」の区別がない。常識的に考えれば、少なくとも7割ぐらいは「朝・夕セット版」と推測できるが、この点についても誇張を避けるために、144万部がすべて「朝刊だけ」という前提で計算する。より安い価格をシミュレーションの数字として採用する。

「朝刊だけ」の購読料は、ひと月3007円である。その50%にあたる1503円が原価という前提にする。しかし、便宜上、端数にして1500円の卸代金を、144万部の「押し紙」に対して徴収した場合の収入を計算してみよう。それは次の式で計算できる。

1500円×144万部=21億6000万円(月額)

最小限に見積もっても、毎日新聞社全体で「押し紙」から月に21億6000万円の収益が上がっていた計算だ。これが1年になれば、1ヶ月分の収益の12倍であるから、

21億6000万円×12ヶ月=259億2000万円

と、なる。

ただ、本当にすべての「押し紙」について、集金が完了しているのかどうかは分からない。担当者の裁量である程度の免除がなされている可能性もある。しかし、「押し紙」を媒体として、巨額の資金が販売店から新聞社へ動くシステムが構築されているという点において、大きな誤りはないだろう。

◇メディアコントロールのアキレス腱

公権力が毎日新聞に言論介入するためには、「押し紙」にメスを入れると、恫喝するだけで十分だろう。このような構図は、単に毎日新聞に限ったことではなく、他の新聞社についても言える。莫大な「押し紙」をかかえる新聞社ほど、調査報道からほど遠く、政府広報に近くなる裏事情がこのあたりにあるのだ。

公権力は新聞社の「押し紙」政策を故意に放置することで、経営上の汚点を掴み、メディアをコントロールする。世論誘導や国策プロパガンダの役を担わせているのだ。その際、暗黙の口実になるのが、「押し紙」なのだ。

しかし、東京新聞に関しては、「押し紙」の噂を聞いたことがない。もともと専売店が少なく、他系統の新聞社の販売店に配達を依頼している事情もあって、「押し紙」政策が取れない事情もあるのだろう。

「押し紙」は、公権力によるメディアコントロールのアキレス腱になっている。ところが東京新聞ではそれが機能しないようだ。