1. 「押し紙」裁判に販売店の勝算はあるのか?「押し紙」問題を密室で審理するケースが増、袋小路に追い込まれた新聞社

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2017年04月12日 (水曜日)

「押し紙」裁判に販売店の勝算はあるのか?「押し紙」問題を密室で審理するケースが増、袋小路に追い込まれた新聞社

「裁判を起こしても、絶対に勝てないよ。そうなっているんだよ」

ある新聞社の担当員の暴言である。販売店主が録音したものだ。

販売店が「押し紙」裁判を起こした場合、勝算はあるのだろうか?これは、最近、筆者がよく質問される問いである。

【写真】「押し紙」と一緒に廃棄される大量の岡山県広報紙『晴れの国おかやま』

結論を先に言えば、勝訴するのはたやすいことではないが、かつてのような裁判所の方針-新聞社に有利な判決を下す-はなくなっているようだ。その結果、和解により新聞社が販売店に対して一定の賠償をおこなう例が増えている。

筆者が把握している例でいえば、毎日新聞箕面販売所(提訴は2007年、推定で1500万円の和解金)、毎日新聞関町販売所(提訴は2009年、500万円)などの例がある。これらの裁判では、判決が下される前に和解になった。

その他にも、和解で解決した例、あるいは提訴に至る前に、トラブルを金銭解決して、「押し紙」や「折り込め詐欺」が表沙汰になるのを防いだ例が数多くある。

◇被告・毎日新聞の密室裁判

このうち毎日新聞関町販売所が起こした裁判は、販売店が和解勝訴したとはいえ「密室裁判」であった。理由は定かではないが、1度も口頭弁論が開かれなかった。「弁論準備」というかたちで、個室で裁判が行われたのである。(ただし、筆者は傍聴させてもらった。)裁判官は、毎日を敗訴させる判決を書きたくなかったのか、原告が和解を受け入れると大喜びした。原告よりも嬉しそうだった。

現在、東京地裁で行われている毎日新聞を被告とした別の「押し紙」裁判も未公開になっている。

さらに琉球新報の店主ら8名が琉球新報を提訴している事件。この裁判についての情報はまったく入ってこない。聞くところによると、これも原告と被告が合意したうえで、「密室」で審理が行われているらしい。真相は分からない。現地の知り合いの元店主(沖縄タイムス、元「押し紙」裁判の原告)も、状況がまったく把握できないという。

ちなみに憲法82条は、裁判の公開について次のように述べている。

第八十二条    裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

○2   裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

◇読売の「押し紙」を認定した福岡高裁判決

販売店が「押し紙」裁判で、和解ではなく、判決で勝訴した例としては、山陽新聞の例(提訴は2008年)がある。賠償額は376万円と少額だったが、「押し紙」政策が認定されたのである。しかし、公正取引委員会は、未だに山陽新聞社に対して、「押し紙」の排除命令を出していない。公正取引委員会が国民の信頼を失っているゆえんにほかならない。

【参考記事】新聞の偽装部数問題 「押し紙」そのものの損害を司法が認定 岡山地裁、376万円賠償命じる 

「押し紙」裁判ではないが、販売店の地位保全裁判の中で、新聞社の「押し紙」政策が認定された例もある。読売新聞の店主が読売新聞社に対して起こした地位保全裁判の中で、福岡高裁は読売の「押し紙」政策を認定した。そして最高裁で判決が確定(2007年)した。参考までに、判決文をリンクしておこう。

■福岡高裁判決

なお、読売の滝鼻広報部長は、福岡高裁判決が「押し紙」政策を認定したとする筆者の見解は誤りだとして、筆者が『月刊HANADA』(2016年7月)に「押し紙」についての記事を掲載した際に、抗議文を送付してきた。しかし、同判決は次のように、明らかに「押し紙」行為を認定している。

このように、一方で定数と実配数が異なることを知りながら、あえて定数と実配数を一致させることをせず、定数だけをABC協会に報告して広告料計算の基礎としているという態度が見られるのであり、これは、自らの利益のためには定数と実配数の齟齬をある程度容認するかのような姿勢であると評されても仕方のないところである。そうであれば、一審原告真村の虚偽報告を一方的に厳しく非難することは、上記のような自らの利益優先の態度と比較して身勝手のそしりを免れないものというべきである。

  販売部数にこだわるのは一審被告(読売)も例外ではなく、一審被告は極端に減紙を嫌う。一審被告は、発行部数の増加を図るために、新聞販売店に対して、増紙が実現するよう営業活動に励むことを強く求め、その一環として毎年増紙目標を定め、その達成を新聞販売店に求めている。このため、「目標達成は全YCの責務である。」「増やした者にのみ栄冠があり、減紙をした者は理由の如何を問わず敗残兵である、増紙こそ正義である。」などと記した文章(甲64)を配布し、定期的に販売会議を開いて、増紙のための努力を求めている。

滝鼻氏の主張に対しては、メディア黒書の紙上でも、次のように反論している。今後、公開質問状などを送付して論争に決着をつけたい。

【参考記事】読売の滝鼻広報部長からの抗議文に対する反論、真村訴訟の福岡高裁判決が「押し紙」を認定したと判例解釈した理由

滝鼻氏の他に、読売の代理人弁護士である喜田村洋一・自由人権協会も読売に「押し紙」は一部も存在しないと主張してきた。

【参考記事】「押し紙」否定論者の読売・宮本友丘副社長がABC協会の理事に就任していた、実配部数を反映しないABC部数問題に解決策はあるのか?

◇「押し紙」を公開法廷で

裁判を公開しないのは、ルール違反である。
とりわけ「押し紙」問題は、折込広告や紙面広告に関連した詐欺行為と表裏関係にあるので、公の場で審理を進めることが重要だ。裁判は一種の意見表明の場でもあるから、その権利を保証する必要がある。

「押し紙」裁判に勝算はあるのか?「押し紙」問題は密室で審理するも、袋小路に追い込まれた新聞社