1. TBSドキュメンタリー「追跡クロス『小沢一郎起訴議決 検察審査会の審査員が証言』」、ガセネタの可能性を検証する 証言者の画像も肉声もなし

「森裕子VS志岐武彦」の裁判に関連する記事

2014年03月24日 (月曜日)

TBSドキュメンタリー「追跡クロス『小沢一郎起訴議決 検察審査会の審査員が証言』」、ガセネタの可能性を検証する 証言者の画像も肉声もなし

昔から後を絶たないのがテレビ番組のヤラセである。たとえば古い事件では、1992年にNHKスペシャル『奥ヒマラヤ 禁断の王国・ムスタン』にヤラセ場面(スタッフが高山病になった芝居等)があったことが問題になった。

次にリンクするTBS「ニュース23」の画像を見たとき、わたしはTSBのスタッフが報道内容の裏付けを取ったのかを疑った。ガセネタを掴まされた可能性を考えたのだ。なぜ、そんなふうに感じたか、わたしの意見を述べよう。

タイトルは、「追跡クロス『小沢一郎起訴議決 検察審査会の審査員が証言』」。ところがこの事件では、もともと検察審査会の審査員が架空だった疑惑が、市民オンブズマンなどの調査を通じて浮上しているのだ。しかも、憶測ではなくて、審査員が不在だったことを証す客観的な裏付け資料が明らかになっているのである。「架空審査員」の疑惑である。

■追跡クロス「小沢一郎起訴議決 検察審査会の審査員が証言」

裏付け資料は、いずれも情報公開請求により検察や裁判所、会計監査院などから入手したものである。審査員が架空だった疑惑が調査により指摘されているのに、あえてこのようなドキュメンタリーを放映したのだ。

この番組は、視聴者に対して、審査員が存在したという主張を広げる役割を果たしている。その裏付けとして審査員の証言をクローズアップしたのだ。少なくともわたしはそんなふうに解釈した。

ところが番組のタイトルとは裏腹に、審査員を自称する男の画像はどこにも現れない。男の声も収録されていない。ナレーションが読み上げられるだけで、ドキュメンタリーとして最低限必要な要素すらも欠落しているのだ。このようなものをあえて放送した意図そのものが不自然だ。

TBSといえば調査報道に定評がある。それゆえに世論誘導の「装置」としては申し分がない。

それだけに「追跡クロス『小沢一郎起訴議決 検察審査会の審査員が証言』」は検証を要する。

◇事件の背景と森ゆうこ裁判  

この番組の信ぴょう性を検証するためには、どうしても小沢事件とそれに連座した東京第5検察審査会(以下、第5検審)の起訴議決により、小沢一郎氏が起訴された事件の経緯を把握しなくてはならない。この事件では、週刊誌やネットメディアを利用して、巧みに世論誘導が行われた可能性があるのだ。

(経緯をご存知の方は、この節[紫文字]をスキップしてください。また、次の参考記事でも、黒薮が事件の経緯を書いています)

■PDF『森ゆうこ元参議院議員が「一市民」に起こした恫喝訴訟が明かす「最高裁の闇」』 

■PDF『浮上する最高裁事務総局の闇 森ゆうこ元参院議員が一市民を提訴』

●事件の経緯1

事件の発端は、小沢一郎氏が2010年に東京第5検察審査会(以下、第5検審)の議決で起訴され、最終的には無罪になった件である。メディアでも大きく報道され、喜びを露呈した小沢氏の映像はわれわれの記憶に新しい。

?ところが第5検審の起訴議決には、当初から不可解な点があった。起訴議決を行った日が、小沢氏が立候補していた民主党代表選の投票日と重複したのだ。故意なのか、偶然なのか、いずれにしても不自然さを払拭できない。

そのために、何者かが「小沢排除」をたくらみ、なんらかの裏工作を行ったのではないか、という噂が広がったのだ。特に小沢氏の支持者の間で、第5検審に対する漠然とした不信感が広がった。

ちなみに検察審査会は、「検察」という名前を付しているが、検察の組織ではなく、文字通り「検察」を「審査」する最高裁事務総局の機関である。

?従って小沢氏の支援者らが抱いた不信感は、最高裁事務総局に向けられたものだった。

●事件の経緯2  

 こうした状況の中で、最高裁事務総局の闇、具体的には第5検審による小沢起訴の舞台裏をさぐる動きが生まれた。その先頭に立ったのが、森ゆうこ参議院議員と志岐武彦氏だった。この2人に市民オンブズマンいばらきの石川克子事務局長が加わった。

?結論を先に言えば、3人は綿密な調査と、チームワークにより、第5検審についての恐るべき事実を次々と浮かび上がらせていく。その辣腕ぶりは、ジャーナリストの比ではなかった。森氏は、情報公開制度で石川氏らが入手した資料を使い、国会で最高裁事務総局の責任を追及した。

?3人の調査により浮上した重大疑惑は、第5検審はもともと架空の審査会だったのではないか、という驚くべきものだった。架空の審査会で、最高裁事務総局が小沢起訴を「議決」したのではないか、という疑惑が浮上したのだ。 その根拠として、志岐氏と石川氏は、次にリンクする8つの根拠を示している。

?■“小沢検察審査会“架空議決8つの根拠 証拠資料

●事件の経緯3

?かりに最高裁が検察審査会を舞台として、偽りの起訴「議決」を行い、「狙い撃ち」にする人物を法廷に立たせ、みずから被告に有罪判決を確定する策略が水面下で行われたとすれば、日本の戦後民主主義そのものもが仮面に過ぎなかったことになる。

 軍事政権の国とあまり変わらないという評価にもなりかねない。それゆえに、森、志岐、石川の3氏による調査は、日本の権力構造の一側面を暴いたに等しい価値があるのだ。

?ジャーナリズムのテーマとしても超一級である。 が、その後、3人は方針の対立を露わにする。そしてネット上での応戦が始まり、森氏が志岐氏のブログにより名誉を毀損されたとして提訴する事態に発展したのである。決別の発端となったのは、次に言及する「ある事件」である。

●事件の経緯4

 「ある事件」とは、『週刊朝日』(2012年5月4日、11日合併号)によるスクープである。同誌は、検察が「小沢は黒」と印象づける捏造報告書を第5検審に送っていたことをスクープしたのだ。

 これにより検察=悪の世論が広がる。それから数日後、東京地裁は、小沢氏に無罪の判決を下す。 さらに捏造報告書はロシアのサーバーを通じて、検察批判の先鋒に立つ歌手の八木啓代氏に送付された。八木氏はこれをネットで公開。その後、森氏と一緒に「司法改革を実現する国民会議」を立ち上げる。 ?こうした一連の動きが志岐氏の不信感をかったのである。舞台裏の巨大な力で、最高裁事務総局の第5検審にまつわる謀略が隠蔽され、それに代わって第5検審に捏造報告書を送った検察の「悪」がクローズアップされ、世論もこれに踊らされ始めたと感じたのである。

 森氏が、最高裁の追及から逃げたとも感じ、その思いがプログに反映された。 一方、森氏としては、志岐氏のブログが事実無根に感じられたのである。それゆえに提訴に踏み切ったのである。

 志岐氏は、小沢氏が無罪になったことはよかったが、それとは別に第5検審の疑惑解明は続ける決意のようだ。 改めていうまでもなく、検察の謀略をPRするためには、検察追及の第一人者である八木氏のサイトはうってつけだった。

 何者かが、発信元を隠して意図的に八木氏に捏造報告書を送付したとすれば、検察の謀略をPRするのが目的だった可能性が高い。 このあたりの経緯を裁判で正確に検証するためには、誰が何の目的で捏造報告書を八木氏に流したのかを調査しなければならない。その疑惑がかかっているのが、X氏という人物なのだ。森側の弁護士は、4月にX氏の陳述書を提出するという。

◇メディアの悪用ー意図的に世論を誘導

事件の概略の中で、言及した八木啓代氏のブログと週刊朝日は、結果的には検察誘導説とそれに連座した第5検審の審査員がいたとする説をPRする役割を果たしている。逆説的に考えれば、本来は最高裁事務総局の責任であるはずの不祥事を、検察の責任にすりかえて、司法権力の転落を防ごうとしている人々が世論誘導をはかるために、これらのメディアに情報提供したとも考えうる。

最高裁事務総局の実態を暴露することは、日本の戦後民主主義を根本から問い直す作業を誘発しかねないからだ。

TBSの「追跡クロス『小沢一郎起訴議決 検察審査会の審査員が証言』」も、こうした脈絡の中で、審査員実在説をPRする目的で放映された可能性も考慮に入れる必要がある。重要な評論の論点である。

前出のX氏は、これらの事情を知っている可能性がある。それゆえに4月に提出されるX氏の陳述書は重要な意味を持つ。

◇絶望の裁判所ー裁判官による内部告発が始まった

最近、瀬木比呂志氏が『絶望の裁判所』(講談社現代新書)を出版した。この本は最高裁事務総局の実態を知る元裁判官による冷静沈着な内部告発である。近々にMEDIA KOKUSYOでも内容を紹介するが、あまりにも衝撃的な内容なので、新聞の書評程度のスペースでは扱いきれない。

この本を読めば、日本の裁判がいかにデタラメであるかが分かる。最高裁事務総局は、監視する機関がいない。本来であれば、ジャーナリズムがその役割を担うべきだが、新聞人は、最高裁に設置された各種委員会の委員になるなど、最高裁とは親和的な立場にある。ジャーナリズムの役割は期待できない。

こうした状況の時に、『絶望の裁判所』が世に出たのだ。瀬木氏は、自分が裁判官を辞めて学者に転身したことを公表した上で次のように述べている。

 私は、学者の役割の一つは、たとえそれが苦いものであるとしても、事実、真実を人々に告げ知らせることであると考えている。

この言葉どおり、この本は最高裁事務総局の実態を克明に告発している。森ゆうこVS志岐武彦氏の裁判の背景を考える上で参考になる。