電磁波問題が広がるなか、住民説明が欠落したソフトバンクの基地局設置「マニュアル」
ソフトバンクが制作した『携帯電話用無線基地局設置のお願い』と題するリーフレットがある。おそらく基地局を設置する予定になっている地域の住民や基地局の地権者を対象として作成されたものではないかと思うが、その内容に大きな問題が含まれている。
ここに書かれていることを住民や地権者がうのみにして、基地局が設置され、健康被害が発生したとき、同社はどのようなかたちで責任を取るのか、懸念材料が多い。
周知のように、携帯電話の通信に使われるマイクロ波は、さまざまな健康被害の原因として疑われている。単に頭痛や耳鳴り、鼻血といった「軽度」の症状だけではなく、癌など深刻な病気とも関係がある可能性が高まっている。最近の研究でアルツハイマー病やパーキンソン病などの原因としても指摘されている。
遺伝子に対する毒性については、2011年にWHOの傘下にあるIARC(国際癌研究機関)が、発癌の可能性を認定している。
こうした状況の下では、当然、電話会社は基地局を設置する場合に住民の合意を得るのが、社会通念である。違法行為ではないから、何をしてもいいことにはならない。
ところがリーフレットを見る限り、ソフトバンクは地元住民の合意を得ることをルールとして定めていない。次に示すのは、リーフレットに明記された基地局設定の9のプロセスである。
1,無線基地局の建設計画
2,物件オーナー様等への設置のお願い
3,各種調査・検討
4,物件オーナー様との賃貸借契約締結
5,無線基地局工事・詳細設計図面の作成
6,物件オーナー様等への着工のご説明
7,無線基地局建設工事
8、各種試験・検査
9,サービス開始
「1」から「9」を見る限り、「近隣住民の合意を得る」プロセスが欠落している。基地局設置をめぐるトラブルが増えているにもかかわらず、トラブルを回避するための手段をあえて放棄しているのだ。
こじつけ解釈をするならば、「6,物件オーナー様等への着工のご説明」の「等」に住民が含まれている可能性があるが、本来は、オーナーの承諾よりも、圧倒的多数の住民の承諾の方が重要なわけだから、優先順位が間違っている。
◇EUの基準でもリスクが
改めて言うまでもなく、ソフトバンクは携帯基地局の安全性に関しては、全面的にそれを肯定している。事実、リーフレットの「電波法に基づく安全基準を遵守」と題する節で次のように安全性を強調している。
ソフトバンクの無線基地局は、電波法などによる安全基準を遵守して設置・運営しています。また、基地局から発する電波の強さについても、国が定めた「電波防護指針に示される基準値」を充分に下回る安全なものです。
しかし、日本の安全基準は、諸外国と比較すると、まったく「規制」になっていない。たとえば、次の比較である。
日本の基準:1000μW/c㎡
EUの提言値:0.1μW/c㎡
ザルツブルグ市の目標値:0.0001μW/c㎡
なぜ、数値に桁違いの差があるのだろうか。答えは次のとおりである。
マイクロ波が人体に及ぼす影響は、大別して2つの観点から検証される。①熱作用と、②非熱作用である。
①熱作用とは、文字通り熱による影響である。電磁レンジは、ものを加熱する器械であるが、これはマイクロ波の熱作用を利用したものである。この
熱作用の影響を受けない安全な数値として、総務省は1000μW/c㎡という数値を設定しているのだ。
②非熱作用というのは、熱作用以外の影響で、その代表格は、遺伝子に対する毒性である。発ガン性のことである。
総務省は、①は認めているが、②については認めていない。それゆえに②の非熱作用を考慮せずに基準値を設定している。結果、1000μW/c㎡という世界一高い数字になっているのだ。
これに対してEUやザルツブルグ市は、②の非熱作用を考慮に入れている。それゆえに日本とは比較にならないほど低い数値を設定しているのである。
人命よりも、産業優先の政策が露骨に進行しているが、日本のマスコミは沈黙している。電話会社から巨大な広告費を受け取っているからだ。
ちなみに最近、EUの基準値でも人体影響があることが分かってきている。これについて2012年のバイオイニシアチブ報告は、次のように述べている。
2007年以降、携帯電話基地局レベルのRFR(無線周波数電磁波)に関する5つの新しい研究が、0.001μW/c㎡から0.05μW/c㎡よりも低い強度範囲で、子どもや若者の頭痛、集中困難、行動問題、成人の睡眠障害、頭痛、集中困難を報告している。(監修:荻野晃也、訳加藤やすこ)