1. 東京中野区のKDDI基地局問題、人体影響の評価は動物実験よりも疫学調査の優先を

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2016年07月31日 (日曜日)

東京中野区のKDDI基地局問題、人体影響の評価は動物実験よりも疫学調査の優先を

東京中野区2丁目にあるマンション、「ライオンズシティ中野ファースト」にKDDIが携帯電話の基地局を設置する計画をめぐり、近隣の住民から反対の声があがっている。

6日はKDDIが住民を対象にした説明会を行う予定だという。これに対して住民側も区議に支援を求めるなど、反対運動を展開している。

マンションの屋上に基地局を設置した場合、電波の発信源となるマンションに住む住民だけではなく、電波が網羅する範囲に住む住民も電磁波の人体影響を受ける。それゆえに基地局問題は、地域社会全体の問題なのである。

最近の基地局問題の傾向として、電話会社が以前ほど強硬な姿勢を取らなくなっていることである。基地局の設置計画が中止になったり、すでに設置された場合であれば、撤去に応じるケースも増えている。

その背景には、電磁波による人体影響が否定できなくなって来た事情がある。

◇電磁波は放射線の仲間

意外に認識されていないが、電磁波は放射線の仲間である。日本では電磁波と放射線を区別して、電磁波はおおむね「安全」としているが、海外では電磁波も放射線も区別せずに「electromagnetic radiation(放射線)」という用語を使い、electromagnetic radiation全体に人体影響があるという考えが常識になってきた。

しかし、一体、なにを根拠に人体影響の有無を判断すべきなのかが次に出てくる問題になる。結論を先に言えば、それは疫学調査である。動物実験ではない。疫学調査を最優先してリスクを評価するというのが世界の常識である。

と、いうのも動物と人間では、体質も生活環境も異なるからだ。実験装置の中での実験結果が、必ずしも人間にあてはまるとは限らないからである。

こういう視点は極めて重要である。事実を把握することを原点とするジャーナリズムの視点と共通している。疫学調査により基地局周辺で体調不良を訴える人が多い事実が明らかになれば、「予防原則」を最優先して、まず、基地局の操業を停止しなければならない。医学的な根拠を探すのは、それからである。

ところが日本ではこの順序が逆転している。医学的な根拠が発見されるまでは、基地局の操業を自由にやってもいいことになっている。

◇延岡市に見るKDDI基地局の人体影響

筆者の手元に宮崎県延岡市で問題になったKDDI基地局の周辺で発生した健康被害の詳細なデータがある。頭痛、耳鳴不眠、鼻血、などである。

詳細は、次の通りである。PDFで全データを公開しよう。

■延岡市における健康被害一覧①

■延岡市における健康被害一覧②

また、基地局周辺における癌の疫学調査としては、次の2件を紹介しておこう。メディア黒書からの再録になる。

◇ドイツの疫学調査

事実、携帯基地局の周辺に癌患者が多いという疫学調査の結果はすでに存在する。有名な例としては、ドイツの医師たちが、93年から04年まで、特定の団体から資金提供を受けずにナイラ市で行った調査がある。対象は、調査期間中に住所を変更しなかった約1000人の通院患者。基地局は93年に設置され、その後、97年に他社の局が加わった。

これらの患者を基地局から400メートル以内のグループ(仮にA地区)と、400メートルより外(仮にB地区)に分けて比較した。

最初の5年については、癌の発症率に大きな違いがなかったが、99年から04年の5年間でA地区の住民の発癌率が、B地区に比べて3.38倍になった。しかも、発癌の年齢も低くなっている。たとえば乳癌の平均発症年齢は、A地区が50.8歳で、B地区は69.9歳だった。約20歳早い。ドイツの平均は63歳である。

◇ブラジルの疫学調査

ブラジルのベロオリゾンテ市は、ブラジル南東部、標高約 800 メートルに建設された計画都市である。人口は約240万人。

この市をモデルとして携帯電話の通信に使われるマイクロ波と癌の関係を調べる調査が行われたことがある。結果が公表されたのは、2011年5月。おりしもWHO傘下のIARC(国際がん研究機関)が、マイクロ波に発癌性(遺伝子毒性)がある可能性を認定した時期である。

調査は役所が保管している携帯基地局の位置を示すデータ、市当局が管理している癌による死亡データ、それに国勢調査のデータを横断的に解析したものである。対象データは、1996年から2006年のもの(一部に欠落がある)である。

結論を先に言えば、基地局から半径500メートルの円周内で、癌のリスクが高くなることが分かった。1万人あたりの癌による死亡数と、基地局からの距離は、次のようになっている。明らかな相関関係が浮上する。

距離 100mまで:43.42人
距離 200 mまで:40.22 人
距離 300 mまで:37.12 人
距離 400 mまで:35.80 人
距離 500 mまで:34.76 人
距離 600 mまで:33.83 人
距離 700 mまで:33.80 人
距離 800 mまで:33.49 人
距離 900 mまで:33.21人
距離 1000mまで: 32.78人
全市        :32.12 人

検証対象のエリアに複数の基地局がある場合は、最初に設置された基地局からの距離を採用した。そのために汚染源の基地局を厳密に特定できない弱点はあるが、大まかな傾向を把握していることはほぼ間違いない。

基地局から200メートル以内は極めて危険性が高い。

注:本文と動画は関係ありません。