1. 中村医師殺害の背景に日本の軍事大国化、誤解を受けやすい国際支援

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2019年12月06日 (金曜日)

中村医師殺害の背景に日本の軍事大国化、誤解を受けやすい国際支援

アフガニスタンなどで人道支援に取り組んできたNGO「ペシャワール会」の中村哲医師が、4日、何者かに銃撃されて死亡した。背景に何があるのか、筆者には詳しい事情は分からないが、「外国人」に対する誤った評価がこの悲劇を生んだことは間違いない。

国際支援にはさまざまな形があり、さまざまな団体が支援先の国にスタッフを送り込んでいる。しかし、現地の人々に支援の性質についての正しい情報が伝わっているとは限らない。それが誤解を生んで、テロを誘発させたりする。誤解を生じさせる最大の要因は、多国籍企業と軍隊にほかならない。

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ボリビアの映画制作集団「ウカマウ」(ホルヘ・ サンヒネス監督)が制作した映画『ここから出ていけ』(1977年)は、多国籍企業と連携した宗教団体による「支援」で、かえって地域社会の秩序が乱され、村人たちが「外国人」の排除に乗り出す日々が描かれている。

最初に宣教師がやってきて、無医村に診療所を立て、村の人々の信頼を得る。その後に多国籍企業から派遣された人々が村に到着して、鉱物の試掘作業を始める。資源の収奪に怒った村人たちが、幹線道路にバリケードを築いて抵抗をはじめると、軍隊がやってくる。

だれもが中村医師のような精神で国際支援をしているわけではない。現地で働いているスタッフは、人道という崇高な精神をもっているだろうが、しかし、彼らの支援に便乗する勢力がいることも少なくない。

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第3世界の国々への国際支援を別の観点から見れば、多国籍企業が海外進出するためのインフラ整備の側面もあるのだ。たとえば、学校や病院を建てることで、現地の人々は、教育を受けることが可能になり、医療の恩恵にもあずかる。それゆえに学校や病院の設置に疑問を呈するひとはだれもいない。

しかし、多国籍企業の視点からすれば、企業の海外進出を進めるにあたって、まず最初に現地の人々の教育水準を上げ、最低限の医療を受けることができる制度を構築する必要があるのだ。従って多国籍企業と親密な某貿易会などは、人道的精神に燃える現地スタッフがいても、東京本部の幹部は、多国籍企業の海外進出に先立ったインフラ整備という頭しかないのだ。

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もちろん企業による第3世界への進出を頭から批判することはできない。経済を成長させることなしに、豊かな生活を手にすることはできないからだ。しかし、その多国籍企業が軍隊と結びついたとき、国際支援に対する現地の人々の受け止め方は激変する。「ここから出ていけ」に描かれているように。

日本の軍事大国化がはじまったのは、1990年代の初頭である。自衛隊のPKO活動からはじまり、今では実質的に日米共同の軍事作戦が可能になっている。日本の大半のメディアは、自衛隊の海外派兵を国際貢献と報じてきたが、この考えは完全に間違っている。

海外派兵の目的は、多国籍企業が進出した国の政治情勢が不安定になり、現地での企業活動に支障が生じる事態が発生したとき、軍隊を投入することで、「治安」を回復することだ。こちらの方が、海外派兵の本当の目的なのだ。

左派の人々の中には、日本の自衛隊が旧日本軍のスタイル(上陸作戦→占領→植民地)を目指しているかのように考えている人が多いが、これは間違いだ。安倍政権が目指しているのは、軍隊の投入、鎮圧、引き上げのスタイルである。それを米国と共同で行うことだ。徴兵制度の導入もありえない。

このような構図が鮮明になってきたのを現地の人々が認識したとき、「外国人」に対する警戒心が高まる。中村医師殺害の背景に日本の軍事大国化がある事実を忘れてはいけない。