1. 日本国憲法の最大の欠点は天皇をめぐる条項、議会制民主主義の理念と矛盾

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2019年01月23日 (水曜日)

日本国憲法の最大の欠点は天皇をめぐる条項、議会制民主主義の理念と矛盾

改憲論がさかんになってきたこの時期に、改めて日本国憲法を読み直してみると、これまであたりまえの条項のように受けとめていた天皇に関する記述に違和感を感じた。憲法の第一条は、

第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

と、なっており、以下、第8条まで天皇に関する記述が並ぶ。一国のあり方を方向づける憲法の劈頭(へきとう)に、天皇に関する条文を配置している憲法は、21世紀の現在、世界的にみても珍しいのではないか。もっとも、わたしは憲法の専門家ではないので、確定的なことはいえないが、日本国憲法の構成には、やはり違和感がある。

たとえばアメリカ合衆国憲法の第一条は次のように、国家のあり方、あるいはずばり議会制民主主義の型を宣言している。

第1 条[連邦議会]
 この憲法によって付与されるすべての立法権は、上院と下院で構成される合衆国連邦議会に属する。

◆議会制民主主義との整合性

改憲論といえば、とかく第9条が取り沙汰されるが、冷静に考えてみると、最も近代化と整合しないのは、第1条から8条ではないか。「天皇」に関する条項が、憲法の冒頭に置かれて、しかも問題視されない事態は、議会制民主主義の理念と著しく対立する。時代遅れ。前近代的としか言いようがない。

第1条から8条に違和感を感じる人がほとんどいないのは、この国にまだ民主主義の思想が根を張っていない証ではないか。民衆の力で政治を変えた歴史を持たない国の悲しき実態なのだ。

実際、日本には天皇制に類似したピラミッド型の組織が多い。権威のあるものがトップに坐り、その人物の威光により、下級のメンバーが恩恵にあずかる形式。それに儒教的な考えが連動する。たとえば学閥などはその典型だろう。会社も、それに類似している。トップに坐るためには、正義をドブに捨てるのが社会通念になっている。憲法が国民性に影響を及ぼしているのだ。

一体、日本に限らずアジア諸国は、民主主義の概念が希薄だ。日本では、朝鮮の金王朝を批判する声が多く、それはそれである程度は的を得た言い分なのだが、その一方で自国の天皇制はあたりまえのこととして受け入れている人が多い。第3者からみれば、金王朝も日本人の皇室崇拝も、根本的には同じメンタリティーの産物なのだ。

しかも、そのメンタリティーが天皇制の枠を超えて、社会の隅々にまで及んでいることが、特に深刻な悲劇だろう。それが民主主義の成熟や社会進歩を遅らせている。

◆「象徴」という用語の誤り

改憲を語るなら、第9条だけではなく、第1条から順番に検討すべきだろう。仮に第1条から第8条をそのままに放置し、9条を「改正」して、海外派兵を可能にすれば、アジア諸国は過去の「天皇の軍隊」を想像して、大変な恐怖を感じるに違いない。

第9条があるから、今のところはブレーキがかかっているのだ。

ちなみに文章論的にも、第1条がおかしいとする説もある。たとえば丸谷才一は、第1条で使われている「象徴」という言葉について、次のように苦言を呈している。

 国旗(日の丸)や国家(君が代)が国花(桜)のような具体的なものが日本の象徴だというのなら話はすらりと通るが、一個人が国を象徴するというのは理屈にいささか無理がある。(『文章読本』)