会計検査院に提出した審査要求書と陳述書を全面公開、国家予算の「闇」は昔から何も変わっていない
内閣府と博報堂のPR業務に関する商取引に疑惑があるとして、筆者が8日に山下幸夫弁護士を通じて会計検査院に提出した審査要求書とそれに添付した筆者の陳述書を紹介しよう。この事件について背景を把握していない読者は、陳述書を先に読むほうが全体の構図がとらえやすい。
ごく簡潔に審査要求に踏み切った理由と事件の流れと説明しよう。
審査要求に踏み切った理由は、内閣府やいくつかの中央省庁で、普通の市民感覚からすると犯罪にも等しい国家予算の使い方が横行していることが分かったからである。たとえば2007年ごろ、環境省が博報堂に対して3年間で約90億円分の仕事を発注した事実がある。2015年度には、博報堂ルートから新聞の政府広告だけで約20億円が支出されている。文部科学省のホームページ1件の制作が2100万円にもなっている。
こうした国家予算の使い方の実態をさらに詳しく調べるために、情報公開制度を利用して情報開示を求めても、開示を大幅に遅らせたり、たとえ開示しても肝心な箇所を全部黒塗りで隠したうえで開示する。
裁判を提起しようにも、国家予算の使い方に関しては、裁判も認められていない。(地方自治体を被告にする裁判は、地元住民であれば可能)。
民主党が政権を取った2009年から、国家予算の無駄づかいを一層するための「事業仕分け」が始まったが、結局、何も変わっていなかったのだ。しかも、無駄づかいの背景に「天下り」が関係しているらしい。筆者が調査したところ、1975年に内閣府から博報堂への天下りが始まっていた。この時期に、児玉誉士夫の秘書・太刀川恒夫氏が博報堂コンサルタンツ(博報堂の持ち株会社)の取締役に就任している。
こうした実態は、官民癒着の観点からすれば、森友学園の事件よりも、深刻である。金額の規模が格段に大きいからだ。もちろん現段階では疑惑であるが、その疑惑には十分な根拠がある。
それにもかかわらず大メディアがその実態を報道しない。大手の広告代理店がからんだ問題であるからだ。広告代理店に対するマスコミ・タブーが薄らいできたとはいえ、まだ、報道のハードルは高い。しかし、このまま放置すれば、「無かったこと」として処理され、今後も延々と国家予算の無駄づかいが続くであろう。
筆者が会計検査院に審査を求めたゆえんにほかならない。
◇民間企業における業務の実態
審査を求めるに至った経緯についても説明しておこう。事件の詳細については、陳述書に詳しいので、そちらを参考にしてほしい。
発端は2016年2月だった。筆者は福岡市に本社がある化粧品の通販会社・アスカコーポレーションから1本の電話を受けた。折込詐欺(折込広告を水増して過剰な料金を徴収する詐欺)にあった可能性があるので、アドバイスしてほしいというのが要件だった。筆者は依頼者の素性を確かめてから協力を約束した。
アスカコポーレーション(以下、アスカ)は2015年ごろまで、博報堂に全面的にPR業務を依頼していた。筆者は取引の実態を知るためにアスカから、折込詐欺に関する資料だけではなく、博報堂との取り引きに関する膨大な資料を開示してもらった。
その結果、折込詐欺よりも、むしろテレビCMの間引き疑惑や、CMを作成する際に提示される番組枠の視聴率が偽装されている疑惑、それに通販誌の編集に関する約束違反などに、より深刻な問題があることが分かった。そこで筆者は関係者を取材して、ZAITENや週刊金曜日に記事を書いた。
筆者がこれまで抱いていた博報堂の清潔なイメージが完全に崩壊した。ずいぶんドラスチックなことをする企業だと感じた。戦車のようなイメージに変化したのである。
博報堂は、初期のころは取材にも応じなかった。
◇アスカから内閣府へ
筆者はメディアを取材している関係で、定期的に内閣府と広告代理店の取引の実態を調査してきた。その一端として、2016年の夏、内閣府に対して広告代理店から受け取った全請求書・全契約書・全見積書の開示を申し立てた。こうして開示させた資料を精査したところ、博報堂と内閣府の取引に不透明な面があることが判明した。
おりしもアスカと博報堂の事件を取材していた時期でもあったので、「また、博報堂か」とあきれた。そこで内閣府との取引を調べてみると、不可解な点が次々と浮上した。
たとえば既に述べたように、「構想費」の名目で、2015年度に年間6700万円の国家予算が支払われていた。内閣府は、毎日のように博報堂と打ち合わせをしていたから金額が増えたと、その理由を説明しているが、たとえ日当が10万円で365日打ち合わせしても、3650万円にしかならない。有り得ない金額なのだ。当然、裏金疑惑が浮上する。この点だけを取っても、極めて重大な問題なのである。
また、請求書が「手作り」になっていて、インボイス・ナンバーが外してある事実にも驚いた。社のロゴも入っていない。しかも、この種の請求書は、内閣府に対してだけではなく、複数の省庁に対しても送付されているのだ。
インボイス・ナンバーが附番されていない請求書の送付が違法というわけではないが、コンピューターと連動した会計システムを導入している博報堂が、あえてインボイス・ナンバーを外した請求書を送付する合理的な理由がわからない。インボイス・ナンバーを外した状態で会計監査やシステム監査をどのようにして受けているのかも疑問だ。社内で付番しているのであれば、内閣府と省庁向けのものに対しては、インボイス・ナンバーを外す理由が不明だ。
筆者は、ここでも大がかりな裏金づくりを疑ったのである。
今回、会計検査院に提出した審査要求書では、筆者が取材の中で遭遇した数々の疑惑の解明を要求している。
◇内閣府から中央省庁
筆者は次に中央省庁と博報堂の取引の取材に入った。その結果、既に述べたように中央省庁でも、インボイス・ナンバーが外してある請求書が何枚も見つかった。防衛省にいたっては、ワープロで作成したと思われる手作りの請求書の存在が明らかになった。昭和時代の八百屋さんが作っていた請求書のレベルなのだ。コンピュータの時代にそれ自体が不思議なことである。
さらに他の疑惑も浮上した。たとえば繰り返しになるが、文部科学省では、たった数ページのウエブサイトの制作で2100万円が博報堂へ支払われていた。前年にも1500万円がウエブサイト制作の名目で博報堂に支払われている。
総務省では、国勢調査(2015年)の新聞告知が契約どおり行われていないことが分かった。契約では、延べ回数25回の告知予定が、実際には12回に間引きされ、料金は全額徴収されていた。
省庁については、現在も調査中である。主要な事件については、陳述書に記録した。
◇博報堂へ乗り込んだ児玉誉士夫の秘書・太刀川恒夫
あまりにもすさまじい実態に筆者は暗い好奇心を刺激された。そこで博報堂の歴史を調べてみると、既に述べたように1975年に、児玉誉士夫氏の秘書・太刀川恒夫氏が、博報堂コンサルタンツ(博報堂の持ち株会社、前身は伸和)の取締役に就任していたことが判明した。このころから内閣府の官僚や警察関係者が続々と博報堂へ天下りしている。現在も少なくとも天下り者が5名在籍している。資金の流れを当時までさかのぼって調査するのは、さすがに難しいが、証言だけでも集めたいと筆者は考えている。
この博報堂コンサルタンツの閉鎖会社登記を調べたところ、現在の戸田裕一会長や沢田邦夫取締役の名前があった。
ちなみに児玉誉士夫氏とは、自民党の前身である日本民主党の設立時に、同党へ資金の一部を援助した右翼の大物である。自民党の生みの親である。そのお金は、「児玉機関」が戦中に中国で荒稼ぎしたものである。児玉氏は、岸信介氏と同様に元A級戦犯容疑者である。終戦直後の時代には、不思議なことに内閣参与にも就任している。
戦後も、児玉氏は数多くの経済事件にかかわってきた。日本の黒幕である。「児玉機関」の流れが、現在も博報堂内部で持続しているかどうかは不明だが、児玉氏が内閣参与になっていた事実や博報堂の大株主・博報財団の関係者に右翼の関係者が名を連ねている事実などからすれば、少なくとも現在でも思想的には極めて右寄りといえるだろう。「天下り」を通じた内閣府との深い関係が出来ている事実との整合性もあるのだ。
◇受理か不受理か?
以上が会計検査院に審査を求めるに至った経緯である。
なお、審査要求書が受理されるかどうか、現時点ではわからない。それは会計検査院が決める。しかし、メディア黒書で指摘してきたように、この問題は森友学園の問題以上に重大である。調査を回避するのであれば、これまでの構図にメスは入らないだろう。膨大な国家予算が国策プロパガンダに使われることになる。
【写真】左から自民党の生みの親・児玉誉士夫氏、菅内閣官房長官、安倍首相、