政府広報のテレビCMは本当に放送されているのか、民間企業のケースでは放送確認書の偽造・CM「間引き」が発覚、仲介者は博報堂
筆者は、内閣府や省庁が博報堂に発注してきたPR業務(公共事業)の検証を進めてきたが、唯一、解明が進んでいない分野がある。それはテレビCMだ。内閣府や省庁は、公共の新聞広告だけではなく、国策プロパガンダを目的としたテレビCMも博報堂に制作させている。
筆者が調査したいと考えているのは、テレビCMを本当に放送しているのかという点である。読者からは、「あまり見たことがない」という声が寄せられている。
新聞や雑誌の広報、あるいはインターネット広告は、なんらかの形で「成果物」を確認することができるが、テレビCMだけは、簡単に「成果物」を確認することができない。CMを放送したテレビ局には、放送の記録(動画)が残っているはずだが、広告代理店が関与した事件の取材に協力してくれるほどの寛大さはないので、まず「成果物」の確認は期待できない。
と、なれば放送確認書だけが頼りになる。
放送確認書とは、CMが放送されたことを証明する一種の証書である。重い意味を持つ。テレビCMを制作する際に、コンピューターにコードを入力すると、実際にCMが放送された際に、CMコードがデータとして記録される。放送局は、それをプリントアウトして、広告代理店を通じてスポンサーに届ける。人的な手を加えずに、コンピュータが書面を発行することで、「CM間引き」を監視するのだ。
CMコードは、現在ではほぼ全放送局が導入している。
筆者は、内閣府から2015年度の放送確認書を入手している。その数量は膨大なものになる。これらの放送確認書には、CMコードも付番されている。従って常識的には、政府CMは制作・放送されたことになるが、それですべてがクリアーになったわけではない。
◇民間企業を舞台として怠慢業務
もともと筆者が内閣府や省庁における博報堂の業務を検証しはじめたのは、昨年、民間企業・アスカコーポレーション(本社・福岡市、化粧品の通販業)における博報堂のいわくつき業務の実態(たとえば、過去データのパクリ)や職能レベルを調べていて、同じような業務姿勢が公共事業の分野でも応用されていると感じたからだ。
アスカを取材する中で、筆者は、コンピュータ管理されているはずの放送確認書が、代筆されたり、偽造されていたことを知った。その実態については後述するが、放送確認書の代筆や偽造が民間企業を対象とした業務の中で行われていたからには、同じことが内閣府でも行われている可能性を疑わざるを得ない。
改めて言うまでもなく、偽造した放送確認書では、公式には放送されなかったことになる。いわゆるCM間引きである。
もちろんこうした犯罪的な行為については、慎重に検証してから結論を出す必要があるが、調査に関しては、少なくとも次のことは言えるのではないか。筆者が専門家の協力を得て調査する以前に、内閣府と博報堂、それにテレビ局が、実際に放送された画像を開示するべきではないだろうか。政府CMは国会予算で制作されたものであるからだ。「成果物」は公共のものである。
◇自社の住所を誤記入する愚
さて、アスカコーポレーションを取材する中で知った放送確認書の偽造事件について説明しよう。これについては、メディア黒書で繰り返し報じてきたが、新しい読者のために再度紹介しよう。博報堂が偽造したのか、放送局が偽造したのかは分からないが、博報堂が代理店の役割を果たしていたのだから、責任はまぬがれない。
この偽造事件は、チャンネルMnet(CJE&MJapan株式会社)という衛星放送局を舞台に行われた。最初に偽造された放送確認書を示そう。この中に3カ所、とんでもない「偽造ミス」があるのだ。クイズを提供するわけではないが、読者にはその3カ所を捜してほしい。
まず、第1に放送局の住所が間違がっている。CJE&MJapan株式会社の正しい住所は、「港区西新橋2-7-4」であるが、「西新橋」が欠落し、「港区2-7-4」と記している。しかも、同じ「ミス」を何度も繰り返しているのだ。もし、放送確認書をCJE&MJapanが作成したのであれば、自社の住所を間違うはずがない。
第2のミスは、2014年5月29日付け放送確認書に、5月30日と31日にCMが放送されたとする記載がある点だ。[参照:上記書面の赤の①②の部分]あり得ないことだ。
第3のミスは、もっとも滑稽なもので、ブラックユーモアを誘う。放送確認書の一覧表に注意してほしい。これはウィンドウズの画面である。ウィンドウズ画面の右上には、常に、「-」「□」「×」のマークが表示されるが、上記の放送確認書にも、それが確認できる。コンピュータが自動的に作成する放送確認書の中に、ウィンドウズが混入することなどあり得ない。これは偽造の際に、貼り付けた証である。
ちなみに正常な放送確認書は、次のようなものだ。
◇放送確認書は、本当に信頼できるのか
民間企業で放送確認書の偽造が確認された以上、博報堂が内閣府からの受注で制作したテレビCMの録画を、内閣府に対して情報開示請求せざるを得ない。民放連などが2000年に導入した放送確認書は、本当に信頼できるのか、再検証する必要もあるのではないか。IT技術の発展はめざましく、「抜け穴」がある可能性も否定できない。
参考までに、テレビCMの不正に関する記事を何本か紹介しておこう。いずれもアスカコーポレーションを舞台に博報堂が行ったことである。
【写真】博報堂における過去データのパクリの一例。アスカの情報紙。