1. JOCと電通は、「五輪ボランティア搾取」を止めよ

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2017年01月30日 (月曜日)

JOCと電通は、「五輪ボランティア搾取」を止めよ

執筆者:本間龍(作家)

先週26日の日刊スポーツに、気になる記事があった。2020年東京五輪組織委の武藤敏郎事務総長が、大会ボランティアの募集を競技会場がある地方自治体にも協力要請する考えを示したというのだ。多くの会場が都外に移転した(自転車のトラック競技は静岡県伊豆市、サーフィンは千葉県一宮町等)ため、組織委で募集する大会ボランティア約8万人と、都が募集する都市ボランティア約1万人の枠組みだけでは対応しきれないとの理由なのだが、分かっていたこととはいえ、いよいよ「オリンピックをダシにした、ただ働きボランティア集め」が地方にまで波及してきた感じだ。

私は1月13日掲載の拙稿『「共謀罪とセットになった東京五輪」は辞退しかない』で、過去に例のない数のスポンサーを集めている東京五輪は資金潤沢なのだから、ボランティアは有償にすべきだと書いたが、今回は再度詳細に検証したい。

◇「カネが足りない」は嘘、内部留保へ

組織委は昨年12月の段階で、五輪総運営経費を1,8~1,6兆円と発表。都の検証委は3兆円の可能性もあるとしたが、その後様々な縮減を行いかろうじて2兆円を切る数字を作り上げた。それとて当初予想の7000億円の2,5倍近い数字であり、恐らく大会が迫れば火事場泥棒的に様々な経費が投入され、大幅膨張するに決まっているから信用などとても出来ないシロモノだ。

では支出を1,8兆円としたのに対し、収入はどうなのか。これが眉唾なのだが、スポンサー契約料やチケット売り上げで約5000億の売り上げを見込むと発表している。しかしこれはどうみても過少だ。組織委のホームページにある「大会運営に関する収入の割合」(2013年)

https://tokyo2020.jp/jp/organising-committee/marketing/

によれば、対会運営費全体のうち、ローカルスポンサーシップ(27%)とチケット売り上げ(23%)を足した50%部分が5000億に該当するようだが、組織委が集めたスポンサー契約金は現在既に42社分で3870億円(ゴールドパートナースポンサーシップ1社150億×15社、オフィシャルパートナー60億×27社を合算)を超えているはずであり、それを基準に考えれば、チケット売り上げも3600億程度を見込むはずだ。その合計は7400億円超となり、組織委の発表と違いすぎる。

もし当初予想の7300億円をベースとして考えるなら、スポンサーシップはその27%で1971億円になるが、電通が猛然とスポンサー集めに奔走した結果、当初予想の倍近いカネが集まったことになる。そして仮にスポンサーシップを現状の42社分で3800億、チケット売り上げは当初予測のままで1971億円のままだとしても、合算すれば5841億円となり、これでも組織委の発表よりも多くなる。さらにいえば、組織委と電通はゴールド・オフィシャルカテゴリーの下にもうひとつカテゴリーを作って新たなスポンサー獲得を目論んでおり、スポンサー契約料はさらに増える見込みなのだ。

それなのに組織は「カネが足りない」などといって東京都や国に財政支出を要請している。それは、彼らが今回集めたカネを全部東京五輪で使い切る気がないからだ。将来のアスリート養成のためだとか理由をつけて、相当な金額を内部留保にまわす気なのだろう。なにせ五輪は資金集めの絶好のチャンスだし、次はいつになるか分からないのだから、溜め込もうとする気は分からないでもない。しかし、それだけのカネを集めておきながら、その財務内容詳細を明らかにしていないので、どのような支出がなされているのかが不透明なのだ。この点は都の検証委でも問題となり、小池知事は組織委を都の監理下に置こうとしたが、森元首相の抵抗にあって実現していない。

◇ボランティアはただ働きの愚

さらに、カネが無いと言いながら、組織委は虎ノ門ヒルズという超一等地に事務所を持ち、年間5億円以上もの賃貸料を支払っている。会議をするなら都庁近くの方が便利なのに、わざわざ新築で賃料の高い森ビルに移ったのだ。このあたりに、JOCの金銭感覚の異常さ、「オリンピック貴族」ぶりが如実に表れている。ちなみにこの貴族達は理事35人、役員と評議員だけで43人もいる。さらに参与が12人、顧問会議はなんと170人という大所帯だ(2014年当時)。彼らに支払われる日当や交通費、会議費などの経費も巨額なのに、それを削減しようなどとは思わないらしい。

そうした自浄能力に欠けた組織が、10万人規模のボランティアをタダでこき使おうと動き出している。26日の記事は冒頭の通りだが、実はすでに昨年12月、組織委は
「東京 2020 大会に向けたボランティア戦略」なる文書でボランティア募集・に関する基本姿勢を明らかにしていた。

http://www.city-volunteer.metro.tokyo.jp/asset/img/about/strategy02.pdf

その中で、ボランティア募集の要件を、

10日以上参加できる方
オリンピック・パラリンピック競技に関する基本的な知識がある方
スポーツボランティア経験をはじめとするボランティア経験がある方
英語やその他言語のスキルを活かしたい方
などとし、費用に関しては
大会ボランティア・都市ボランティアともに無償での活動となる
原則として、東京までの交通費・宿泊も自己負担

と明記している。昨年7月にこの素案が示された際に、「こんなハイスペックな人材をタダで使おうというのか?」「通訳能力までタダで提供しろというのか?」などと組織委に非難が殺到したので「まだ素案の段階」として誤魔化したのだが、結局殆ど変更せず、語学部分を曖昧にして出してきたのだから噴飯モノだ。

その騒ぎの際、京都大学の西山教行教授は東京新聞への投稿で「通訳はボランティアが妥当との見解は外国語学習への無理解を示すばかりか、通訳や翻訳業の否定にも結びつきかねない」「街角での道案内ならさておき、五輪の翻訳や通訳をボランティアでまかなうことは、組織委が高度な外国語能力をまったく重視していないことの表れである」と痛烈に批判している。西山教授が見抜いたとおり、組織委の連中は語学能力を重視していないどころか、あらゆる人々の能力や善意を軽視し、タダで使おうとしているのだ。

再度、短く私の主張を記しておく。

東京五輪は完全な商業イベントであり、その運営は巨額のスポンサー料で成される。
全ての費用はスポンサー費で賄われ、組織委、JOC、電通などの運営陣は全員、
高額の有給スタッフである。
それなのに、真夏の東京五輪実行の現場に立ち、消耗度が激しい現場ボランティアが全員無償というのはおかしい。
「五輪だからボランティアは無給」などという決まりはなく、運営側が流すデマである。
・五輪までまだ3年もある段階で、既にスポンサー42社から3800億円以上の巨額資金があるのだから、無給ボランティアを使う必要はなく、全て有給とすべきである。

もちろん、世の中には五輪ボランティアを生き甲斐にして世界を回る人もいるから、それはそれで構わない。しかし、東京五輪に必要な人員はケタが全く違う。組織委が必要とする10万人を集めるためには、感動を押し売りし、善良な人々の奉仕精神を利用しなければとても集められる数字ではない。しかし、それを無償でやらせようとするのは明らかに「感動詐欺」「やる気詐欺」とも言うべきだ。今後もこの問題は追及していく。