1. 否定できぬ博報堂による視聴率の改ざん、本来あり得ない放送確認書の代筆、アスカ問題(2) 様々な疑惑のデパート

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2017年01月18日 (水曜日)

否定できぬ博報堂による視聴率の改ざん、本来あり得ない放送確認書の代筆、アスカ問題(2) 様々な疑惑のデパート

 博報堂とアスカコーポレーションの係争のなかで、最も注目を集めているのが、テレビ視聴率の改ざん問題と、博報堂が放送確認書を代筆していた問題である。前者について言えば博報堂は、担当者が「番組提供枠購入のための指標として、視聴率データを取得するために、当時最適と思われる条件を設定してデータを入手した」と主張している。

また、後者については、放送局側が放送確認書を発行しない取り扱いとなっていたために、博報堂みずからが代筆したと主張している。これらの争点について、元博報堂の営業マン・作家の本間龍氏はどう考えているのだろうか。

執筆者:本間龍(作家)

昨年12月22日付けの記事で(株)アスカと博報堂の媒体費関連訴訟について検証した。これらは制作関係費の訴訟(約15億円)とは別に、総額で約42億円にもなる巨額訴訟であり、博報堂がこれだけ巨額の訴訟を起こされた例は、かつてないと思われる。内容的には

A)視聴率偽装による不正請求
B)放送しなかった番組、CMの不正請求

に大別され、主に(A)について22日付け記事で検証した。スポンサー番組選定のために提出していた視聴率の多くが改ざんされていたというもので、かなり明確な証拠が残っている。この部分に関しても少々補足しておきたい。

弁護士が確認した数字(ビデオリサーチ社提出)を元にした視聴率偽装の告発に対し、博報堂側は答弁書で、『担当者は番組提供枠購入のための指標として、視聴率データを取得するために、当時最適と思われる条件を設定してデータを入手した』と主張している。しかし博報堂の営業が得意先に提出する番組視聴率は、ビデオリサーチ社から提供された数字を加工せずそのまま提出するだけであるから、この記述は明らかにおかしい。

◇博報堂、条件を設定して視聴率データを入手の怪

博報堂の論法がもし通用する場面があるとしたら、それは平均ではなく時間を細かく見た瞬間視聴率や、年齢・性差・嗜好などを加味して視聴率内容を詳しく分析した場合のみだ。しかし博報堂がアスカに渡していた資料は、各番組の平均視聴率や年代別視聴率が記載されたごく一般的な媒体資料で、詳細な分析が加味されたものではなかった。

「条件を設定してデータを入手」する必要などない、ごく普通の種類のものだったのだ。

現在、テレビの視聴率データとして国内で公式に認められているのはビデオリサーチ社の数字のみであり、もしこれに「最適と思われる条件を設定」をして数字をいじったりすれば、基本となる数値の信頼性がなくなってしまう。つまり、もし仮に博報堂側の言い分通りだとしたら、同社は得意先に対し常に恣意的に「最適と思われる条件を設定」した視聴率を提示していることになってしまうのだから、これはありえない。このあたりの答弁書記述は、広告業界に疎い裁判官を惑わす書き方で非常に不誠実だと感じる。

そこでこの部分に関する検証方法としては、アスカ側が提出している番組視聴率資料と同じ時期のものを博報堂にも提出させれば良いだろう。作為しなければ、同じビデオリサーチ社の数字であるからコンマ0,1まで当然同じデータになるはずである。

しかしそうなれば、訴状にある時期のデータだけがなぜコンマ刻みで数字に差異が生じているのかを博報堂は説明しなければならなくなる。また逆に、アスカ側が用意した資料の数字(ビデオリサーチ社提供の数字)と違いが生じたら、それこそ博報堂がデータを作為的に操作していた証拠となるし、なぜそうなるのか説明が必要になる。

つまり、この検証方法を実施すれば、どちらの結果が出るにせよ、博報堂の弁明は苦しくなるのだ。

■資料改ざん一覧

◇放送局が放送確認書を発行しないことはあり得ない

さらに(B)の過剰請求(未放送分の請求)であるが、こちらはCM放送確認書が不明確で、CM放送が確認できていない分だ。放送確認書に本来はあるはずの10ケタCMコードが無かったり、放送確認書自体を博報堂が代筆していたものが平成22年6月以降、合計で1億円以上にのぼっている。これに対し博報堂は、代筆していた分は通販番組で、放送局側が放送確認書を発行しない取り扱いとなっていたため、放送局に代わって発行したと答弁している。

確かに、BSなどで放映されている通販番組の多くは制作会社の持ち込みで、テレビ局は放送枠を貸すだけの形になっているから、それらには10ケタコード付きの放送確認書が出ないという場合はあるが、放送局が放送確認書自体を発行しないというのは聞いたことがない。

通販番組内とはいえ、そのテレビ局でCMが放映されたことを局が確認しなければ、スポンサーはどうやってCM放送の有無を確認すればよいのか。この部分の答弁記述もおかしい。これはテレビ局に直接真偽を確かめるべきだろう。

さらに、平成23年3月11日に発生した東日本大震災後、放送中止にしたはずのテレビCM196本分1124万円が不当に請求されたとアスカは主張している。アスカ側は、3・11以降の放送中止分はスポンサー原因によるものではなく、テレビ各局のCM放送自粛であるから、この分は請求が発生しないはずなのに博報堂に請求されていたとしている。

これに対し博報堂は、3月15日以降の番組差し替えはスポンサー原因扱いとなるため広告料が発生することを説明したところ、アスカ側もそれを了承したと述べていて、主張が真っ向から食い違っている。ここは前述の視聴率偽装や放送確認書のような仕組みの問題ではないので、どちらの主張が真実なのか、判断が難しいところだ。

◇営業としての経験則に照らしてみれば・・・・

それにしても、こうした問題が発生する前まで、博報堂は約10年に渡ってアスカと取引し、蜜月期間を築いていた。特に2007年以降は電通九州や地場の代理店を排除し、博報堂が全ての広告宣伝業務を一社で独占受注していたのだが、その背景には、アスカの社長と博報堂担当者の、強い個人的信頼関係があったという。そのため、事実上博報堂の見積や請求書はほぼノーチェックで通用していた。

しかしその間、契約していたタレントの出演費は年率で10%以上ずつ上昇し、パンフレット制作費も同様に高騰していった。そしてさらに、視聴率の偽装やCM未放送分請求などの疑惑が発生した。

■参考記事:博報堂がアスカに請求したタレント出演料の異常、「 契約金が翌年に20%も上昇することなど有り得ない」

営業としての経験則に照らしてみれば、数年で出演費や制作費が20%以上も上昇することなどありえないから、博報堂の担当者が長年の独占受注とスポンサー側のノーチェックに便乗し、どんどん営業収益(儲け)をかさ上げしていった様子が浮かび上がる。裁判で結論が出るとは言え、筆者にはこれらが全てアスカ側の被害妄想とは、到底思えない。

かつて蜜月期間を持った得意先に対し、独占状態を良いことに営業収益を過度に肥大させていった博報堂の姿勢は、厳しく検証されるべきだ。だがOBとしては、これが会社主導ではなく、一担当者による度を超した逸脱行為だったと思いたい。だから近々始まる裁判を傍聴し、博報堂がこの疑惑にどう答えるか注視し、引き続き報告する。