1. 平成20年度だけで郵政から博報堂へ223億円を発注、日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会の報告書が記録した事実

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2016年09月09日 (金曜日)

平成20年度だけで郵政から博報堂へ223億円を発注、日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会の報告書が記録した事実

「置き引き」という行為がある。空港などで足元に荷物をおいて搭乗手続きをしている時など、ちょっと目を離したすきに、さっと荷物をさらっていく手口である。ネズミ小僧も顔負けの早業だ。

筆者が博報堂の取材をはじめたのは、今年の3月であるから、開始から半年が過ぎた。最初は折込広告の水増し疑惑程度に考えていたが、その後、取材が進むにつれて、アスカコーポレーションが被った被害額の大きさもさることながら、騙しの手口が多様でさまざまな分野に被害が及んでいることがわった。

スキがあれば、そこに付け込んでくる。まさに置き引きを連想させる手口なのだ。経済事件の取材には、怒りや悲壮感が付きものなのだが、今回は、ブラックユーモアがある。

たとえば、2010年に福岡市の大濠公園でイルミネーションイベントが行われ、アスカは主催者にはならなかったものの、特別協賛企業として3000万円の予算を限度として、イベントをサポートしたのだが、イベントが終わってみると、イベントを仕切った博報堂側から5,500万円も請求された。しかも、警備費やらPR費やら、事務局対応費やら、わけのわからない請求が並んでいたという。(この事件については、日を改めて記述する機会があるかも知れない)。

不正は、アスカが過去の調査を強化するにつれて、次々と「発見」されている。もちろん、「置き引き」レベルよりも遥かに悪質な不正、たとえばCMの番組提案書に嘘の視聴率を書き込んで、番組枠を買い取らせた疑惑で、約48億円を請求されている大事件もあるが、不正の手数と言う点からすると、「置き引き」のレベルが多い。

最高検察庁から松田昇氏が人物が天下りしている事実と不正の多さが整合しない。本来、検察人脈を使って、不正を「取り締まる」のが松田氏の任務なのだが、何をやっているのだろうか。が、これでも博報堂DYメディアパートナーズは東証の上場企業である。

半年の取材を経て、次に考えなくてはならないのは、天下り問題も含めた企業体質である。博報堂事件を考えるうえで、特に留意しなければならない過去の事件がある。それは2008年ごろから明るみに出てきた郵政関連の事件である。ちょうどこの同じ時期に、博報堂は同じ「指揮官」の下で、アスカのPR業務を独占するようになったのである。そして、今にして思えば「置き引き」を連想させる不正を繰り返していたのだ。

この郵政関連の事件には博報堂の体質がよく現れている。

◇郵政民営化の闇

小泉内閣の下で、構造改革=新自由主義導入の象徴として断行されたのが郵政民営化だった。従来、公的な機関が担ってきた公共サービスを民営化することで、政府などの公的機関を縮小し、公権力の介入を弱め、経済を市場に委ねる政策で、米国のレーガン、イギリスのサッチャー、チリのピノチェットが先駆人だ。市場原理主義ともいう。

小泉構造改革の是非については、ここでは言及しないが、結果として、郵便局が民営化された時期に、熾烈な利権争いが生じたのである。

この問題の詳細につて、大メディアはあまり報じていないが、幸いに総務省がウエブサイトで「報じて」いる。たとえば2010年に「日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会」が、報告書を発表している。

■日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会

国会が郵政民営化を決定したことで、2007年に日本郵政公社が解散して、4つの事業会社が誕生した。具体的には、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険である。

さらにこれら4社を統括する持ち株会社である日本郵政が誕生したのである。トップに座ったのは、元三井住友銀行頭取の西川善文氏である。

が、西川体制の下で、利権をめぐるさまざまな不正が起こる。比較的よく知られているのは、「かんぽの宿」70施設をオリックスに一括売却しようとした事件である。この計画は、鳩山邦夫総務大臣が中止させたが、当時の利権争がどのようなもんであったかを物語るエピソードといえよう。

ちなみにオリックスの宮内義彦氏は、典型的な構造改革=新自由主義の信者で小泉内閣の時代、総合規制改革会議の議長を務めていた。

が、事件はこれだけではない。日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会の報告書には、筆者も知らなかった事件に関する記述が複数ある。たとえば、これも不動産に関するもので、東池袋事案、那覇事案、そして東山事案。また、ゆうパックとペリカン便の統合に端を発した失策。さらに、その他、いちいち記述すると際限がない。

◇博報堂がらみの事件の数々

その数多い不祥事のひとつとして報告されているのが、博報堂が関与した「責任代理店」問題である。順を追って説明しよう。

既にのべたように郵政民営化により、従来の「郵便局」は、4社に分社され、さらにそれを統括する持ち株会社・日本郵政が置かれた。これらの社が広告代理店を使ってPR活動を行う場合、当然、契約する広告代理店を選ぶ必要があるのだが、その際、個々の会社が独自に広告代理店と契約するのではなく、統括の役を担う日本郵政が代表して広告代理店と契約するのだ。

と、なれば当然、日本郵政と取り引き契約を交わした広告代理店は、郵政関連4社のPR事業も請け負うことができる。

その「責任代理店」を選ぶ過程で、博報堂の不正があったことが、報告書に記録されているのだ。次の記述である。

  博報堂が広告責任代理店に選定されるについては、アドバイザーなどとして博報堂出身者が関与している一方、博報堂への一元化に対する各事業会社の反対意見が考慮されていない。

しかも、博報堂が広告責任代理店になった後、郵政グループ内では、「稟議決裁などが行われた形跡がなく、事実上、日本郵政の三井住友銀行出身の事務幹事部において決定したかのよう」な実態が生まれていたのだ。

アスカでもまったく同じ事態が生まれていた。博報堂の営業マンが、南部社長に接近して親密になり、たとえ社員が疑問を呈しても、「社長の承諾を得ている」の一言で、全てが決せられていたのだ。

このような実態については、次の記事に詳しい。事件の全体像も合わせて説明している。

【解説】奇怪な後付け見積書が多量に、博報堂事件の構図はどうなっているのか?

郵政の社員もアスカの社員も同じ時期に博報堂の巧みな戦術に落ちたのである。

郵政から博報堂への発注額は、2008年(平成20年)だけでも、223億円に達している。また、朝日新聞の報道によると、契約書を結ぶことなく2年間で368億円の広告が発注されている。次の記事である。

■日本郵政、広告発注に契約書なし 博報堂に368億円

こうした実態について、同報告書は、次のように述べている。

  当時の日本郵政においても、行動憲章、コンプライアンス基本方針が定められ、コンプライアンス委員会、内部通報窓口なども設置されるなど、一般的な観点からは、コンプライアンスに対してそれなりの取り組みが行われていた。

不正防止の取り組みという点では、郵政に比べて経営規模がはるかに小さいアスカの方が厳格だったことはいうまでもない。それにもかかわらず博報堂の暴走を許してしまったのだ。

意外に認識されていないが、郵政事件とアスカが巻き込まれた事件は、実は同じ土壌の上にある。同じ企業体質の上にある。

博報堂の手口は、誰も承認していない不当に高額な請求書を送って経理や会計担当者に、社長や責任者が承認していると思わせて金員を騙し取るという手口だ。

その意味でアスカが巻き込まれた事件に類似しており、郵政事件の全容解明は、不可欠だ。郵政に関連した博報堂の過去の業務を洗いなおしてみる必要がある。その際、歴代の天下りの有無も調査する必要がある。

【参考資料-日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会】

・日本郵政グループの広告代理店の一元化のため、平成19年12月17日に広告責任代理店として株式会社博報堂(以下、「博報堂」)を選定し、グループ全体の広告が同社に発注されることになった。このような広告代理店の一元化の方針については、これが同グループ全体の広告宣伝に関わる重要事項であるにも関わらず、稟議決裁などが行われた形跡がなく、事実上、日本郵政の三井住友銀行出身の事務幹事部において決定したかのようであることに加え、以下のような事実があり、手続の適正性・透明性並びに公正性の欠如、経営判断の在り方の問題、コンプライアンス関連の問題などが認められる。

・ 同一元化の方針決定により、その後、博報堂が広告責任代理店に選定されるについては、アドバイザーなどとして博報堂出身者が関与している一方、博報堂への一元化に対する各事業会社の反対意見が考慮されていない。

・ 株式会社博報堂エルグ(以下、「エルグ」)問題の報道(平成20年11月8日)以後、郵便事業会社による親会社博報堂に対する損害賠償請求、エルグ役員の逮捕・起訴、博報堂による日本郵政グループへの一般競争入札参加自粛通知などのことがあり、その間、各事業会社から対応についての問い合わせなどがあったにも関わらず、日本郵政は、各事業会社の博報堂に対する随意契約による発注を継続させ、総務大臣による批判、総務省からの報告徴求の翌日(平成21年6月4日)に至って、ようやく博報堂を責任代理店とすることを取りやめた。

・ 日本郵政の上記事務方幹部は、博報堂関係者からの飲食等の接待を受け、その上司(博報堂選定の稟議決裁者)においても同接待を受けていたものと思われる。