全米民主主義基金(NED)の「反共」謀略、ウィグル、香港、ベネズエラ・・・
読者は、次に示す支援金の金額が何を意味しているのかをご存じだろう。
■ウィグル族の反政府活動(トルコ・中国):$8,758,300(2004年からの類型)
■香港の「民主化運動」:$445,000(2018年)
■ボリビアの反政府運動::$909,932(2018年)
■ニカラグアの反政府運動:$1,279,253(2018年)
■ベネズエラの反政府運動:$2,007,204(2018年)
3月20日時点のドルと円の交換レートは、1ドル=108円だから、トルコ・中国向けの資金は、優に8億円を超えている。政治混乱が続くベネズエラの反政府勢力に対する資金援助に至っては、単年で2億円を超えている。
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全米民主主義基金は、その後、活動の範囲を世界規模に拡大する。ラテンアメリカに限っていえば、チリのピノチェット将軍による軍事政権の時代に、反政府勢力を支援したのも事実である。が、これは独裁政権の欠点を修正して、新自由主義の体制そのものは維持するという方針に基づいたものだったと思われる。日本でいえば、立憲民主党のような考え方である。新自由主義の体制そのものは、自民党と同様に保護することが大原則となっているのである。
ちなみにピノチェット将軍は、レーガンとサッチャーに並ぶ典型的な新自由主義者で、『チリ潜入記』(ガルシア=マルケス、岩波新書)によると、チリの首都では、繁栄の象徴である輝かしいネオンと極端な貧困が共存していた。
全米民主主義基金の基本的な方針は、米国資本に有利な市場を開拓するために、外国に親米政権を増やすことなのである。そのために「反米勢力」の強い、中国、ボリビア、ベネズエラ、ニカラグアなどの「市民運動」に対しては、湯水のような資金提供を続けてきたのである。現地の「市民運動」を支援することで、混乱を引き起こし、メディアを使って「反共キャンペーン」を展開し、最終的に左派の政権を転覆させるのが、その手口にほかならない。
マスコミがそれに連動していることはいうまでもない。
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新聞研究者の故・新井直之氏は、『ジャーナリズム』(東洋経済新報社)の中で、ある貴重な提言をしている。
「新聞社や放送局の性格を見て行くためには、ある事実をどのように報道しているか、を見るとともに、どのようなニュースについて伝えていないか、を見ることが重要になってくる。ジャーナリズムを批評するときに欠くことができない視点は、『どのような記事を載せているか』ではなく、『どのような記事を載せていないか』なのである」
日本の新聞・テレビが報じていないのは、親米派の「市民運動」の背後にいるスポンサーの実態である。隠しているのか、本当に知らないのかは不明だが、肝心な部分は報道の対象外になる。
ちなみに全米民主主義基金は、海外の「市民運動」に対する資金提供団体のほんのひとつに過ぎない。多国籍企業に有利な政治環境を準備するために、米国の複数の団体が資金援助をしている。
かつて米国の戦略は、海外派兵が主流だった。ところが1970年代にベトナムでこの伝統的な戦略に失敗した。1980年代は、ニカラグアとエルサルバドルでも失敗した。そして今世紀に入るころから、ラテンアメリカに関していれば、軍事介入は出来なくなったのである。ラテンアメリカの人々が軍事政権の扉を閉じ、民主主義が浸透してきたからである。
そこで登場してきたのが、海外の「市民運動」に介入する手口なのである。ベネズエラがその典型だ。アジアでは香港である。そして今また、ウィグル族の問題が国際政治の表舞台に立っている。
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香港問題やウィグル民族問題の報道を検証するとき、日本の新聞・テレビは、全体像を報道していない。
しかし、「市民運動」の舞台裏では、莫大な海外からの資金が動いている。それゆえに最近、中国政府とニカラグア政府は、こうした海外資金を禁止する法律を作った。香港では特にそれが厳しくなっている。
日本の新聞・テレビは、朝日新聞やTBSも含めて、中国政府の姿勢を批判している。日本人の感覚からすると、その論調は一応の道理があるかも知れない。しかし、たとえそうであっても、米国政府からの「市民運動」に対する資金援助の実態も、客観的な事実として報じる必要があるのではないだろうか。
中国や朝鮮が、仮に日本の「市民運動」に対して潤沢な資金を提供して、反政府運動を支援すれば、日本政府もやはり強権的に対処するだろう。それと同じことである。
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日本の学者やジャーナリストの中には、中央紙4紙に目を通して情報源としている人が少なからずいる。それはそれで立派な日課に違いないが、日本の新聞・テレビが公にしている情報は、全体像のほんの一部に過ぎない。むしろ隠している部分が多い。その限られた情報だけで、自分の世界観を作っているひともいる。
こうした人々にいくら米国政府と香港やニカラグアの関係を説明しても、まったく聞く耳を持たない。特に、リベラル派と呼ばれる人々にその傾向が強い。説明するのに大変なエネルギーを使う。
が、詳細な情報を自分で探すまでもなく、米国が連日のようにシリアをはじめ、世界のあちこちで爆弾を落とし続けている事実ぐらいは、日本の新聞・テレビでも断片的には報じているはずだが。世界の中で暴力を助長しているのが、米国であるぐらいのことは分かるのではないか?
日本の新聞・テレビを情報源にしていると、世界の全体像が見えなくなってしまう。国内の話題が新聞の1面にめじろ押しになるようではだめなのだ。
情報原としては、新聞・テレビよりもむしろ国境がないツイッターの方がましではないか。情報の裏付けを取る手間はかかるが、情報の糸口にはなるからだ。