1. 博報堂がアスカに請求したタレント出演料の異常、「 契約金が翌年に20%も上昇することなど有り得ない」

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2016年12月02日 (金曜日)

博報堂がアスカに請求したタレント出演料の異常、「 契約金が翌年に20%も上昇することなど有り得ない」

執筆者:本間龍(作家)

このメディア黒書では、(株)アスカと博報堂の間で3つの裁判が進行している様子を報告してきた。その内容は以下の通りだ。

博報堂(原告)がアスカ(被告)に対して、約6億1000万円の未払金を求めるもの。東京地裁。

アスカ(原告)が博報堂(被告)に対して約15億3000万円の過払い金の返還を求めるもの。福岡地裁。

アスカ(原告)が博報堂(被告)に対してテレビCMなどの番組提案書の無効を求め、約47億9000万円の返還を求めるもの。福岡地裁。

②は、本来よりも高い単価で請求されていたとされる項目について返還を求めていて、それらを分類すると、

A 情報誌制作費
B 撮影費
C タレント出演料
D アフィリエイト
E 通販番組制作費・編集費
F PR活動費

など、15の項目に渡っている。そこで、今回は1600万円あまりの過払いを指摘している、Cの「タレント出演料」について検証してみた。

◇相場は30万円から50万円

アスカは通販雑誌「「ism mode」のほか,「新製品Book」「イチオシBook」「make book」「futur Book」などで毎号様々なタレントを起用していた。通常、タレントを企業のイメージキャラなどで使う場合は年間契約を結ぶが、こうした雑誌への出演料は一回ずつの単価設定になっていて、超売れっ子以外はほぼ30万円から50万円程度が相場だ。

2007年のタレント起用は全部で49名、一人あたりの平均額は約36万円となっている。例をあげるなら、さとう宗幸40万、山本モナ40万、池谷幸雄35万といったところで、妥当な金額だ。通販雑誌に載るタレントは超売れっ子である必要はないが、全く知られていないのでは親近感が湧かないからダメで、ある程度の知名度があるタレントが重宝される。そのあたりでは、30~50万円程度が契約金の相場なのだ。

◇2008年から不自然な上昇

ところが、博報堂がアスカの広告関係扱いを独占するようになった2008年以降、このタレントの金額が急上昇する。その平均を示すと、

・2008年  41万円(年間30名)1月~12月
・2009年  41万円(20名)    〃
・2010年  53万円(34名)    〃
・2011年  70万円(25名)    〃
・2012年  58万円(11名)※1月~6月まで

2009年までの契約金平均は41万円程度で推移していたのが、10年になるといきなり53万円に跳ね上がっている。そして翌年の11年には70万円とさらに上昇する。恐らく博報堂側はその理由を「以前よりもビッグネームのタレントを起用したからだ」とでも言うだろう。しかし、その言い訳の決定的な弱点は、同じタレントの単価も劇的に上昇していることだ。例えば、

・浅茅陽子 40万(07年)→65万(12年)
・山口いづみ35万(07万)→75万(11年)
・堀ちえみ 50万(09年)→75万(11年)
・浜木綿子 45万(09年)→70万(11年)
・伊藤かずえ 50万(10年)→75万(11年)
・的場浩司  60万(10年)→75万(11年)
・松重豊   50万(10年)→65万(11年)
・宍戸開   45万(10年)→70万(11年)

など、相当な人数にのぼる。

私も数多くのタレント契約を経験しているが、はっきり言ってこのクラスのタレントで契約金が翌年に20%も上昇することなど有り得ない。もちろん、旬のタレントで人気が急上昇すれば、1年で契約金が跳ね上がる人もいるが、それは希有な例で、殆どの場合金額はほぼ一定である。

例えば、09年に50万円で契約した堀ちえみ(冒頭の写真)が特に露出が増えた訳でもないのに2年後75万に上昇することなどはない。また、通常なら何回も出演しているタレントに対しては減額交渉もできたはずなのに、一人も前年(前回)から価格が下がっていないのも極めて不自然だ。07年に35万だった山口いづみが11年に75万になるなど、請求書の打ち間違いかと思うほどのおかしなレベルである。

◇上昇分の料金が博報堂に入った可能性

そもそも、このクラスのタレントの価格交渉は、「前年(例)維持」から行うもので、単価がこうも上昇しては「博報堂の仕切が悪い」ということになる。この価格上昇だけを見れば、博報堂はタレント事務所の言いなりで交渉能力がない、ということになってしまうのだ。そういう面から見ても、この価格上昇はおかしい。

さらにもう1つの疑念がある。通常博報堂や電通は、こうしたタレント契約料に「管理進行料」を20%程度上乗せする。タレントの契約金はそのまま事務所にスルーする金で、代理店はその契約管理などの手数料を別に頂戴しますよ、と言うわけだ。

しかし、このアスカに対するタレント契約金の異常な上昇を見ると、上昇分はそのまま博報堂の取り分となっていた可能性がある。そしてそこにもし管理進行料が別途加算されていれば、その収益率は途方もなく高くなるから、博報堂社内ではさぞや高い評価を得ていただろう。

ただもちろん、請求当時これがアスカの了承を得ていたのなら問題にはならない。いかに異常な価格上昇でも、それをスポンサーがOKしてくれるなら代理店はどんどん価格をつり上げる。しかし訴状では、博報堂からは殆ど事前見積がなく、そのため金額のチェックが出来なかったと記されている。その辺りは今後の裁判を通じて明らかになっていくだろう。