1. 安倍内閣の下でエスカレートする内閣とメディアの癒着 アメとムチの政策の背景に「押し紙」問題の汚点

新聞業界の政界工作に関連する記事

2014年04月07日 (月曜日)

安倍内閣の下でエスカレートする内閣とメディアの癒着 アメとムチの政策の背景に「押し紙」問題の汚点

『しんぶん赤旗』(3月27日付け・電子版)が、安倍内閣が消費増税に反発する世論を抑えるために政府広報に12億6000万円を支出していたことを報じている。

同紙によると、「政府広報はテレビスポット、新聞・雑誌広告、新聞折り込み広告、ラジオCM」のほか、「インターネット上の広告にあたるウェブバナーや駅貼りポスター、コンビニ有線放送CM」など、「あらゆる階層にいきわたるように広報を展開した」という。

政府広報を受注したメディア企業各社に対して12億円6000万円がどのように配分されたかは不明だが、この支出には不適正な要素がある。改めて言うまでもなく、それは新聞の紙面広告の価格が、実態のない部数データに基づいて決められているために、不当に高い広告費を手にした新聞社が存在する可能性である。周知のように紙面広告の価格は、ABC部数(印刷部数)に準じて決められる。

たとえば、次に例として示すのは、代表的な公共広告のひとつである最高裁がスポンサーになった公共広告でみられる支払い配分の実態である。

■PDF公共広告の価格と部数の関係データ

ABC部数が全国1位の読売がトップで、以下、朝日、毎日、産経の順番になっている。ABC部数の序列も同じである。

◇再販制度と1999年問題

しかし、安倍内閣とマスコミの関係は、単に政府広報を通じた金銭の支出だけではなない。すでに周知の事実となっているように、安倍首相とマスコミ関係者は、繰り返し会食を伴った密会を開いてきた。

もっともこうした職務を担当しているのは、記者としては箸にも棒にもかからず、どちらかといえば、ある時期からジャーナリズム活動を逸脱して、みずからの生きがいを社内での「出世」に見出した異能分子と呼ばれる人々であるが。     さらに公権力とマスコミの関係者は、マスコミの巨大な影響力を国策のPRに活用したいという公権力側の思惑と、新聞ビジネスに国策の援護を得たいというマスコミ側の思惑が合体して形成されることもある。新聞社と政界の関係に限定すれば、この種の関係が典型的に現れている分野は、再販問題と消費税の軽減税率問題である。

まず、第一に再販制度(新聞特殊指定)をめぐる両者の関係を検証してみよう。再販制度の撤廃論は、構造改革=新自由主義の「改革」が徐々に始動しはじめた1990年代の初頭から浮上してきた。規制緩和を進めるという自民党政治の大枠の中で、再販制度を撤廃する案が公正取引委員会から出されたのである。

当初、新聞再販の撤廃は免れないといわれた。しかし、新聞業界は、新聞販売店の業界団体である日本新聞販売協会を通じて、多額の政治献金を支出するなどして、最初の危機を乗り切った。1998年のことである。

その翌年(1999年)に国会は前代未聞の事態に陥った。具体的にそれが何であるかについて、辺見庸氏は、『私たちはどのような時代に生きているか』で次のように述べている。

じつは僕、しきりに「一九九九年問題」と言っているんですが、これはある意味で戦術的な言い方です。九九年の諸問題は、もちろん、ここに至る長いプロセスがあって、突然に降ってわいてきたわけではないですから、結果だけを論じることはできないのです。

ともあれ、僕としては九九年問題の重大性を最大限強調したい。年表で言えば、ここはいちばん太いゴチックにしておかないとまずい。それも私としての責任であるわけです。ほかの人たち、表現者、マスコミ、政治家、一九九九年の夏に立ち会ったすべての人たちの責任を問いたい気持ちもないではないのですが、僕はさしあたり、私個人の身体的年表のなかで私の責任を考えようと思ってるんです。

象徴的には、この年の第百四十五通常国会で成立した「周辺事態法」、「盗聴法」、「国旗・国歌法」、「改正住民基本台帳法」を、私は私の内面との関係でかつてなく重大視している。これらがこの国の短、中期的未来に向けた法制的かつ思想的租型になることは、私の表現行為にとって耐えがたい圧迫なのです。つまり、これらの国家主義的浸透圧を、私の身体はとても不快に感じている。

◇小渕恵三・新聞販売懇話会会長

辺見氏が言及しているように、第145通常国会で、「周辺事態法」、「盗聴法」、「国旗・国歌法」、「改正住民基本台帳法」が成立したのである。しかも、新聞もテレビも、これらの法案に対して抵抗することはなかった。

この時の首相は小渕恵三氏である。読者は、この時期に小渕氏がどのような立場にあったかをごぞんじだろうか。ほとんど知られていない重大な事実がある。

実は小渕首相は、再販問題で政治献金を支出するなど政界工作の先頭に立ってきた日本新聞販売協会の陳情窓口である自民党新聞販売懇話会の会長だった。再販問題で新聞人に恩を売ることに成功した自信が、第145通常国会における強引な国会運営に繋がった可能性も否定できない。

再販問題で新聞人が再び危機を迎えたのは、2006年である。この時も新聞は、大々的に新聞紙面で再販維持をPRしたり、政界工作を展開した。

その結果、同年の4月19日には、日本新聞協会が本部を置く東京・内幸町のプレスセンターに総勢250人の国会議員が終結し、新聞人と親睦を深めるという、およそジャーナリズム企業の常識では考えられない珍事が起こった。席上、社民党の福島みずほ党首は、 「そうそうたる国会議員の勢揃いで本会議場が移動したような気がする」(『新聞通信』)  と、挨拶した。

この2回目の再販危機は、結局、山本一太議員や高市早苗議員が、新聞特殊指定を取り扱う権限を公取委から取り上げる法案を準備することで決着した。両氏が新聞業界から政治献金を受けていたことは言うまでもない。

■参考記事:山本一太議員 新聞業界から3千万円献金、見返りに露骨な業界保護活動

◇新聞に対する軽減税率  

それから8年後、新聞に対する軽減税率の適用をめぐり、かつてと同じ構図が現れている。2012年度には、新聞業界から160名を超える国会議員に対して、政治献金が支出された。

■参考記事:新聞業界が新聞に対する軽減税率求め大規模な政界工作、289の地方議会から安倍首相宛の意見書?

これに対して、安倍内閣は新聞社に対して政府広報を発注する。加えて、非公式の「宴会」で情を深める。当然、飲み食いの席で新聞に対する軽減税率の問題も話題になっている可能性が高い。

こうした状況の下で、新聞社は安倍内閣の「広報部」になるのか、メディアとしての独立性を保つことを選ぶのかを迫られている。親密な関係になって紙面で国策をPRすれば、政府広報の収入が確保できるだけではなく、再販制度という既得権を維持できる。また、新聞に対する消費税の軽減税率が適用される公算も高くなる。

一方、ジャーナリズム企業としての独立性を保った場合、どのようなリアクションが起こるのだろうか。あくまでも推測になるが、まず、新聞社が第一に狙われるのは、「押し紙」問題である。「押し紙」は独禁法に違反するので、公取委は簡単に新聞社経営にメスを入れることができる。

さらにABC部数に多量の「押し紙」が含まれているために、過去に設置した紙面広告の価格が不適切とみなされ、最悪の場合は刑事事件になる可能性がある。

ちなみに「押し紙」を排除すると、新聞社の販売収入と広告収入は激減して、新聞経営は破綻しかねない。

◇経営上の汚点

こんなふうに日本の新聞社の経営構造と新聞社の「異能分子」の行動を解析してみると、新聞研究者や評論家が、新聞報道の内容をいくら批判しても解決策にはならないことが分かる。日本の新聞がジャーナリズムの役割を果たせなくなった原因は、記者個人に能力がないからではなく、新聞社のビジネスモデルそのものに客観的な欠点があるからだ。

逆説的に言えば、政府をはじめ日本の公権力は、新聞社の経営上の汚点、具体的には、「押し紙」問題や広告料金の不正などの問題を把握し、その犯罪性を小出しにする一方で、宴会を通じて親密な関係を築くことで、新聞報道を牛耳っているのである。

新聞紙面の批評は、誰にでもできる。しかし、紙面をいくら批判しても、「見解の相違」でかたづき、新聞社はまったく痛痒を感じない。今後、「押し紙」や広告料金の不正にメスを入れない限り、辺見庸氏がいう「1999年問題」が再来することは間違いない。