権力構造に組み込まれた新聞業界、変わらぬ政界との情交関係、新聞人として非常識な1998年の渡邉恒雄氏の言動
新聞業界と政界の癒着が表立って論じられることはあまりない。わたしは新聞社は、日本の権力構造の一部に組み込まれているという自論を持っている。新聞業界の業界紙『新聞之新聞』のバックナンバーを読んで、改めてそれを確信した。
次に紹介するのは、1998年1月6日付の記事である。タイトルは、「正念場 迎える新聞界」。全国紙3社の社長座談会である。この時期、公正取引委員会は加熱する新聞拡販競争や「押し紙」問題を理由に、新聞再販の撤廃を検討していた。
これに朝日、読売、毎日の社長が抗する構図があった。次に引用するのは、読売の渡邉恒雄社長の発言である。言葉の節々に新聞業界と政界の癒着が露呈している。日本が抱えてきた諸問題にメスが入らない原因と言っても過言ではない。日本にジャーナリズムが存在しない不幸を改めて痛感した。
渡邉氏の発言を読む限り、わたしの自論には根拠がある。以下、記事の引用である。
「政治家や日販協とスクラム組み運動」
97年中は再販は非常に危ないということで、我々は全力を挙げて闘ってきた。特に政界では新聞販売懇話会というのがあり、小渕恵三衆院議員が会長をしているが、小渕さんが外務大臣になったので、会長代行に中川秀直衆院議員、幹事長に山本一太参院議員がなってくれて、非常に応援してくれた。それから文部省が行政改革委員会・規制緩和小委員会の再販廃止論に対して強力な反論を展開してくれた。そういう応援があり、規制緩和小委員会の報告も「再販廃止」の文字を削らせた。あと公正取引委員会の規制研(政府規制等と競争政策に関する研究会)があるが、こちらも江藤淳さん、清水英夫さん、内橋克人さんらの文化人が、強力に新聞再販維持の発言をしてくれている。
今年3月までに公取委としての結論を出すことになっており、どういう結論を出すか、まだ油断がならないが、自民党の方では政策的な実力者の山中貞則独占禁止法調査会会長が、私と松下さん(黒薮注:朝日新聞社長)、小池さん(黒薮注:毎日新聞社長)の3人が陳情した時に「絶対に再販は守る」と確約してくれている。再販を廃止するために独禁法の改正をしようとしても、自民党の独占禁止法調査会を通らなければ閣議にもでない。特に山中さんが反対している限り、大丈夫だという自信を持っている。
しかし、そこまでこぎつけるのには、小池新聞協会会長を中心に我々が一生懸命、再販維持運動をやったんだが、そういうことにはほとんど無関心で、何も協力してくれなかったような県紙の社長さんたちが公取委へ行って、「朝日と読売が諸悪の根源である」と言うようなことを言った。それで私は腹を立てて、再販対策特別委員長を辞任したけれども、しかし会長を助けて再販を絶対に守るということに関して何らの変化はないので、一生懸命やってきた。私は、再販は少なくともこの2,3年は守れるという確信を持っているが、ちょっと手を抜けば危ないので、絶えず見守っていなければならない。
それには日販協(日本新聞販売協会)を無視してはいけないと思う。新聞協会は編集を中心とする倫理向上、親睦(ぼく)のための団体である。ところが日販協は販売店主の組織ですから、自由な自営業者の団体であって、いろいろ政治運動もできる。日販協は東日本では相当組織力が高く、大会を開くと何十人という国会議員が集まってくれる。中部は、中日さんが日販協には加盟しないという、加藤(己一郎前会長)さん以来の社の方針だそうだし、いま大島(宏彦会長)さんを一生懸命くどいているところだけれども、加入していない。中国、四国、九州地域でも日販協の加盟店が非常に少ない。そんなことで再販は守れるのかと、私は言いたいね。
あの地域の新聞社の社長さんたちが、一生懸命になって自分の選挙区出身の国会議員ぐらいはちゃんと説得してくれれば、再販維持運動も相当楽になる。そこにある意味では困難さが出てきている。
日販協はかつて、再販維持のために500万人の請願署名を集めた団体ですから、あの力は大変なものですよ。新聞販売店は2万軒以上もあるが、主として東日本の店だけの組織になっている。この点は西日本の方の各県紙の販売店主の人たちにも反省してもらって、この戦いに加わってもらいたい。そうでないと、私は本当にバカバカしくなる心境ですね。