読売・渡邉会長、「無読者層が(東京23区で)約5割に」 読売のABC部数が1ヶ月で24万部減、朝日と日経は「部数整理」へ
新聞社が発行する新聞部数を公式に示す数字は、日本ABC協会が毎月公表するABC部数である。これは発行(印刷)部数を表す数字であるから、実際に新聞販売店が配達している部数との間に差異があるが、一般的には実配部数として受け止められている。もちろん広告主も、ABC部数=実配部数という前提で、広告代理店と広告(紙面広告、折込チラシ)価格の交渉を行ってきた。
ところがこのところ(と、いっても数年前から)、ABC部数と実配部数の間にかなりの差異があることを、新聞経営者が認めざるを得ない状況が生まれている。
ABC部数と実配部数の差異は、「押し紙」(偽装部数)として、少なくとも1970年代から水面下の大問題になってきたが、新聞人はこの事実を認めようとはしなかった。たとえ両者に差異があることを認めても、それは販売店の責任で、「自分たちはあずかり知らぬこと」という態度を貫いてきた。
日本の裁判所も、このような新聞社の見解を全面的に合意してきた。公取委もほとんどこの問題で指導に乗り出したことはない。
そのために販売店主が、「押し紙」問題をいくら内部告発しても、新聞社は聞く耳を持たなかった。それはちょうど電車の中で携帯電話を耳にあて、声高に話しているならず者を注意しても、「わが権利」とばかりに、平然と喋り続ける光景に類似している。
が、ここに来て、読売の渡邉恒雄会長までが新聞があまり購読されていない実態を認めはじめている。「押し紙」の存在を全面否定しても、少なくとも新聞離れが広がっている事実は否定できなくなっているのだ。
◇読売・渡邉会長「無読者層が(東京23区で)約5割に」
渡邉恒雄氏は、今年の1月6日に、読売新聞東京本社で開かれた賀詞交換会で次のように発言している。業界紙の記事を引用してみよう。
(渡邉会長は)新聞販売の現状にも言及し、「昨年11月に(ABC部数)1000万部を回復した」としながらも、「折り込み広告が減り、販売店は苦しんでいる」と指摘。東京23区内の無読者層が約5割に上る実態も挙げて、「活字離れは新聞界の将来に響く大きな問題。新聞離れをした国は、国力が必ず衰え、民度が下がる。日本の将来は楽観視できない」と懸念を示した。
余談になるが、新聞離れ=活字離れとする渡邉氏の認識が、我田引水で論理的に飛躍していることは言うまでもない。
◇朝日、「予備紙の整理を進める」
朝日新聞の木村伊量社長も、1月6日に朝日新聞社で行われた新年祝賀会で新聞部数の不透明さにまつわる発言をしている。以下、業界紙からの引用である。
2017年度までをめどに、まず朝刊420万部を抱える主戦場の東京本社管内のお店から順次、予備紙の整理を進めてもらい、経営改善を促します。
「予備紙」とは、端的にいえば「押し紙」、あるいは残紙このことである。日本新聞協会は、新聞社が販売店に新聞を押し売りした証拠がないので、過剰になっている新聞は「押し紙」ではなく、「予備紙」だと主張してきたが、一般の人々は過剰になった新聞(偽装部数)を総称して「押し紙」と呼んでいる。
社会通念からすると、販売予定がない「日替わり商品」を好んで仕入れるバカはいないからだ。エリートの詭弁(きべん)は、通じない。
◇日経、「宅配増に協力していただきたい」
さらに日経の鈴木諭販売部門担当も1月15日に東京プリンスホテルで開かれた日経代表者会議で次のように新聞の「部数整理」に言及している。
すでに3年前から、消費増税には筋肉質な体制で臨みたいと申し上げ、この2年で大規模な部数整理をさせてもらった。新聞社にとって部数は命だ。販売担当である私の責任は、紙の新聞の部数。その部数を調整したのは、痛恨の極みだが、これに応える形で宅配増(黒薮注:実配部数の増)に協力していただきたい。
◇読売、1ヶ月で24万部が減
読売、朝日、日経のうち、朝日と日経は自社新聞のABC部数と実配部数の間に差異があることを認めている。
その読売も、下記に示すように、2013年の11月から12月にかけて、ABC部数を一気に約24万部も減らしている。
11月: 10,007,440部
12月: 9,767,721部
24万部といえば地方紙1社分にも相当する。次に示すのは、関東地方の地方紙のABC部数(12月部数)である。参考までに、読売が減らした24万部と比較してみてほしい。
茨城新聞:123,171部
下野新聞:316,745部
?上毛新聞:304,139部
?東京新聞:525,390部
?神奈川新聞:204,232部
◇ 読売・新聞人の見解
参考までに、読売の「押し紙」についての見解を紹介しておこう。以下で紹介するのは、読売新聞の宮本友丘副社長(当時専務)が、対「週刊新潮」(+黒薮)の「押し紙」裁判で提出した陳述書からの抜き書きである。書かれている内容が事実かどうかは別として、読売が裁判所に提出した公式見解として紹介しておこう。
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■被告らは、本件訴訟において、朝日新聞や毎日新聞、産経新聞など他社の販売関係者の話などを証拠として提出していますが、全く意味がないと思います。販売店による部数の自由増減と、発行本社による厳正な部数管理は、読売の伝統であり、他の新聞社とはまったく異なるからです。(9P/10P)
(黒薮注:自由増減とは、販売店が自由に注文部数を決定できる制度を意味する。つまり「押し売り」の対極である)
■読売新聞社においては、新聞販売店が独自の判断で注文部数を自由に増減できる「自由増減主義」が、販売政策の基本原則です。定数を注文するのは販売店であって、発行本社ではなく、販売店の経営者が独自の裁量で決めています。(3P) ?
■残念なことではありますが、新聞販売店が実際の部数をごまかし、水増しした部数を注文するケースがまれにあることも事実です。これは、新聞社が指示したり、押し付けたりしたわけではなく、販売店自らの意思で注文する行為であって、「押し紙」ではなく、「積み紙」と呼ばれています。(6P) ? ? ?
■「週刊新潮」の記事では、「押し紙」という、読売新聞社が販売店に押し付けている新聞があると書かれていますが、読売新聞社においてそのような「押し紙」は一切存在しません。読売新聞東京本社、大阪本社、西部本社のいずれかを被告として、新聞販売店契約の解除をめぐって訴訟が提起されたことは何度かありますが、その中で「押し紙」が認定された判決が全くないことからも、それは明らかです。(3P) ?
■過去、新聞業界において、不公正な販売が問題となった時代もありましたが、読売新聞は、業界の旗振り役となって正常化してきた歴史があり、こうした点からも、他の新聞社とは決定的に異なるのです。(4P) ?
■まず、裁判所に理解していただきたいのは、新聞社が新聞販売店に対して優越的な地位にあるわけではないことです。新聞社は、販売店に対して、テリトリー制に基づき独占販売権を与えており、購読者の氏名住所等の情報は販売店しか持っておらず、新聞社は一切把握していません。(5P) ?
■年間目標は、1店あたり平均4?5部の増紙に過ぎませんが、直近の5年間をみても、達成した販売店は全体の5割?7割程度しかありません。創刊135周年の節目の2009年は全社を挙げて増紙運動を展開しましたが、その年ですら、74%でした。仮に、被告新潮社などが言うように読売新聞社が優越的地位を濫用して、目標を達成しない販売店を次々と改廃していれば、毎年、3割?5割の販売店が改廃されていることになりますが、そのような事実は全くありません。(5P/6P) ?
■(略)過去の裁判例にあるように、悪質な新聞販売店では、二重帳簿を作成したり、架空の読者を作り出したりして新聞社に報告するなど、様々な手段を使って、虚偽報告が発覚するのを防ごうとします。新聞社の販売店担当者は、毎月1回は必ず訪店して、業務報告を受け、経営指導を行っていますが、販売店は新聞社とは別個の独立した事業主体であり、強引に帳簿類をチェックすることはできず、巧妙な隠蔽工作を図られれば見抜くことは容易なことではありません。(7P) ?
■読売新聞社は2年に一度、社団法人日本ABC協会(以下「ABC協会」といいます)から、部数について公査を受けています。ABC協会は、日本で唯一、新聞の部数を公正に調査、認証する機関です。国内において、第三者の立場から客観的に新聞部数を調べる組織は、ABC協会をおいて他には存在しません。被告新潮社らは、ABC協会の公査は信用性がないと主張していますが、それならば広告主は一体どこに部数の確認を求めれば良いのでしょうか。(7P) ?
■一方、残紙とは、発行本社が販売店に送付し、販売店が読者に配達・販売した後に残った新聞のことなので、非販売部数のすべてが残紙となり、廃棄されるわけではありません。例えば、雨に濡れたため交換した新聞や試読紙は、非販売部数に入りますが、残紙には入りません。よって、注文部数に対して最終的に廃棄される新聞の割合は、非販売率(黒薮注:4・9%)よりもさらに低くなるわけです。(8P) ?
?■読売新聞の販売店は全国に5300店、支店を含めれば7700店に上がります。仮に「押し紙」が存在したなら、読売新聞社と販売店の信頼関係は一気に崩れます。恐らく、販売店経営者はだれも新聞社の言うことを聞かなくなるでしょう。読売新聞社において、新聞販売店とは共存共栄、運命共同体の関係なのです。(9P)