1. 携帯電磁波の停波を求める延岡大貫訴訟 住民が敗訴 深刻な健康被害の事実を踏まえない恐ろしい判決

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2012年10月18日 (木曜日)

携帯電磁波の停波を求める延岡大貫訴訟 住民が敗訴 深刻な健康被害の事実を踏まえない恐ろしい判決

宮崎県延岡市にあるKDDIの携帯基地局の操業停止を求めた裁判の判決が17日、宮崎地裁延岡支部であり、太田敬司裁判長は原告の訴えを棄却した。この裁判は、延岡市大貫の住民30名が、基地局から発せられるマイクロ波が原因で深刻な健康被害を受けているとして、基地局の操業停止を求めたものである。

敗訴のニュースは、インターネットで時事、毎日、読売などが報じた。

判決文を入手していないので、断言はできないが、時事、毎日、読売の記事から判断すると、太田裁判長が下した判決は多くの問題を孕んでいる。水俣病など過去の公害の教訓をまったく踏まえない恐ろしい判決としか言いようがない。

◇住民の健康被害を無視する冷酷さ

太田裁判長は判決で、基地局設置後、住民の訴える耳鳴りや頭痛、鼻血などの症状が実際に出ていることは認めたが、その原因が基地局の電磁波かどうかは現時点で科学的な裏付けがないとした。原告側が提出した「電磁波による愁訴(症状)出現の可能性が高い」とする医師の診断所見も「問診のみが根拠」と医学的価値を否定。(毎日)

まず、異常なのは、住民の間に耳鳴り、頭痛、鼻血などの症状が広がっていることを認定していながら、「現時点で科学的な裏付けがない」ことを理由に、操業の継続を認めた点だ。

しかし、科学の力で解明できない現象は数えきれない。電磁波と健康被害の関係についても、研究は進んでいるが、医学的に立証されるには至っていない。因果関係を解明するまでに30年、あるいは40年かかるのではないかとの予測もある。

判決は、因果関係が解明されるまでは、住民たちをマイクロ波に被ばくさせてもかまわないと言っているに等しい。

改めて言うまでもなく、公害対策ではなんらかの健康被害が発生しているという事実を最重視するのが原則である。医学的に因果関係が立証されるのを待っていたのでは、被害がどんどん拡大するからだ。その典型的が水俣病である。

健康被害が発生している事実があれば、対策を取るのが常識中の常識だ。

ちなみに疫学調査では、携帯基地局の周辺で健康被害が発生していることが明らかになっている。

参考記事:巨額広告費と政治献金で隠される携帯基地局周辺の発癌リスク![誰も書けなかった日本のタブー]別冊宝島/黒薮哲哉)

◇安全基準に関する裁判長の誤解

原告宅の電磁波計測の数値も国の基準値内で「異常な強度とはいえない」とし、「因果関係について医学的・科学的観点からの立証は不十分」と述べた。 (毎日)

日本の安全基準は、900メガヘルツでは、600μW/cm2である。また、2000メガヘルツでは、1000μW/cm2である。

これに対して、たとえばオーストリアのザルツブルグ市は、0.0001μW/cm2の目標値を定めている。また、EUの提言値は、0.1μW/cm2である。

つまり日本の1000に対して欧州では0.0001、あるいは0.1である。 なぜ、これだけ大きな差が出るのだろうか。

答えは簡単で、マイクロ波の性質についての見解に違いがあるからだ。日本の基準は、マイクロ波を長期に渡って被ばくしても、人体影響は生じないという前提に立って基準を作成しているので、たとえば電気関連工事などで、作業員が一時的に被ばくしたときに危険とされる数値を基準値にしているのだ。

つまり1000という値を超えると、ただちに急性の人体影響が生じかねない状況を想定した数値なのだ。

これに対して欧州は、微量であってもマイクロ波を長期に渡って被ばくしたときに発生しかねない人体影響を考慮しているから、極めて低い数値になっているのだ。

延岡大貫裁判のケースでは、長期に渡る人体影響が争点になった。それにもかかわらず太田裁判官は、「原告宅の電磁波計測の数値も国の基準値内で『異常な強度とはいえない』」(毎日)と判断したのである。

これは電磁波問題の基本すらも理解していなことを意味する。比較の対象が異なるものを比較して、「国の基準値内」と述べているのだ。

このところ司法が完全におかしくなっているが、今回の判決もこのような流れの中で下されたようだ。政治的な判断がなされたとしか言いようがない。