1. 日本の音楽業界の暴君

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2023年12月28日 (木曜日)

日本の音楽業界の暴君

次の記事は、EL TIRANO JAPONÉS DE LA INDUSTRIA MUSICAL(日本の音楽業界の暴君)の日本語訳である。初出は、AL Press. ■原文はここから。

 

今年3月にイギリスの公共放送BBCが放映したドキュメンタリー番組は、日本の主流メディアの怠慢(たいまん)を指摘する機会となった。ドキュメンタリーのタイトルは、『プレデター:J-POPの秘められたスキャンダル』。

このドキュメンタリーは、数多くの男性歌手グループを育て、2019年に87歳で他界したジョニー喜多川による少年への性的暴行を告発したものである。被害者は数百人にのぼる。

ジョニーは1962年にマネージャーとして芸能界に入った。東京事務所(旧ジョニー&アソシエイツ)を設立し、男性アイドルを育成した。ジョニーが育てた代表的な音楽グループには、スマップ、嵐、TOKIOなど、アジアの大スターらが名を連ねている。

ジョニーは「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」としてギネス世界記録にも認定されている。が、性的犯罪が明るみに出たため、この記録は抹消された。

少年たちは歌手やアイドルとしての成功を夢見てジョニー&アソシエイツに入った。当然、ジョニーとの絆を深めようとした。そのため、ジョニーの性的暴力に抵抗できなかったのである。この弱みに付け込んで、ジョニーは少年たちへの性的虐待を繰り返したのである。

2023年9月7日、当時ジョニー&アソシエイツの代表取締役社長だった藤島ジュリー景子が都内で記者会見を開き、ジョニーによる性的暴行の事実を正式に認め謝罪した。ジョニー&アソシエイツが損害賠償請求を免れることは不可能だろう。それというのもジョニーの行為は刑法上の性犯罪に該当するからだ。

◆週刊誌と出版社の報道

前述の通り、BBCは今年3月にこの事件を報道した。 その結果、日本の新聞もこの事件報道に追随せざるを得なくなった。しかし、新聞とは異なって、日本の週刊誌や月刊誌は、それ以前から折に触れてジャニーズの性的虐待を報じていた。

例えば、日本を代表する週刊誌『文春』は1999年10月から14週連続でこのスキャンダルを報じた。これに対し、ジョニーは同誌を相手に名誉毀損訴訟を起こした。しかし、彼の抗弁が裁判所に認められることはなかった。

また、鹿砦社は1995年以降に、すでにジョニー&アソシエイツに関する書籍を多数出版していた。文春が取材を開始するまでの間だけでも、15冊のジャニーズ関連本を出版したのだ。

しかし、残念ながら雑誌も書籍も発行部数が少ないため、日本では大きな影響力を持たない。例えば、文春の発行部数は2023年で週47万部程度である。書籍の発行部数は通常3,000部から10,000部である。

一方、日本の日刊紙の発行部数は想像を絶するほど多い。例えば、日本最大の日刊紙である読売新聞の2023年7月の発行部数は約630万部である。

また、新聞社とテレビ局は系列関係にあるため、新聞社が取り上げないニュースはテレビ局も報道対象にはならない。ジャニーズのスキャンダルは、主要メディアが取り上げたがらない話題だった。というのも、ジャニーズは巨大な広告スポンサーである音楽業界や芸能界に大きな影響力を持っていたからだ。

多くのジャーナリストは、雑誌や本を通じてジョニーの性的虐待を知っていた。しかし、それをアンタッチャブルな領域と見なしていた。

◆日本の公共放送が謝罪した

ジャニーズのドキュメンタリーを制作するため、BBCは2020年に鹿砦社に接触した。東京の代表事務所を通じて同社にコンタクトを取ったのである。鹿砦社の松岡利康社長が言う:

「BBCからの協力要請は3年ほど前にありました。私は快諾し、私たちが出版した本を何冊か送り、短いレクチャーを行いました。しかし、その直後、コロナ感染の流行により、このプロジェクトは保留となったのです。このまま頓挫してしまうのかと思っていましたが、昨年、プロジェクトを再開するとの連絡がありました」

最もステータスの高いメディアのひとつであるBBCがジョニーの性的暴行を取り上げたとなると、日本の新聞社やテレビ局もこの事件を報道せざるを得なくなった。約30年おくれて、事件の重大性が広く国民に認知されたのである。日本の人々はジョニーの性犯罪を一度も報道しなかった主要メディアを痛烈に批判した。

2023年9月7日、日本の公共放送であるNHKは次のようなコメントを発表した;

「NHKは当時、この問題を十分に認識しておらず、ニュースやその後の番組で深く取り上げていませんでした。多くの未成年者が被害に遭ったにもかかわらず、メディアとしての役割を十分に果たせなかったことを遺憾に思います」

◆大手メディアが恐れたジャニーズ&アソシエイツ

このように日本の主要メディアがスキャンダルを取り上げなかった背景について、鹿砦社の松岡利康社長は次のように指摘する。

「マスコミはジョニー喜多川の未成年者への性的虐待を知っていました。しかし、ジャニーズ事務所の人気者を広告や記事に使いたがった。ジョニーによる性的虐待を報道すれば、ジャニーズ事務所が抗議して広告を取り下げたり、取材を拒否されることを恐れたのでしょう」

この事件は、はからずも日本の主要メディアの怠慢を露呈した。重大な性犯罪の解決に30年以上もかかったのである。BBCが報道しなければ、事件は永遠に葬り去られていただろう。