1. コメントの名誉毀損は却下、治療妨害の禁止をめぐる係争は本訴へ、滋賀医科大の小線源治療をめぐる事件

滋賀医科大病院事件に関連する記事

2019年06月15日 (土曜日)

コメントの名誉毀損は却下、治療妨害の禁止をめぐる係争は本訴へ、滋賀医科大の小線源治療をめぐる事件

滋賀医科大付属病院の小線源治療をめぐる事件で、2つの新しい動きがあった。この事件の経緯については、次の記事を参考にしてほしい。

ビジネスジャーナル(コンパクトにまとめた記事)

マイニュースジャパン(詳細な事件の全容)

 

◆コメントをめるぐ仮処分

大津地裁は、6月11日、朝日新聞の記事をめぐる滋賀医科大病院の学長コメントが名誉毀損にあたるとして岡本圭生医師が申し立てていた仮処分を却下する決定を下した。

この申し立て事件の発端は、朝日新聞の「『未経験』告げず前立腺がん放射線治療 患者が提訴へ」と題する記事である。

この記事は、タイトルのとおり小線源治療の未経験だった医師が、インフォームドコンセントの際に自分の未経験を患者に告げずに前立腺癌の小線源放射線治を計画したことに対して、被害を受けた4人の患者が説明義務違反で、2人の医師(河内教授と成田准教授)を被告とする裁判提起をスクープしたものである。

この記事に対して滋賀医科大の塩田浩平学長がホームページや病院内の掲示板にみずからの「コメント」を提示した。その中で塩田学長は、岡本医師の実名こそ出さなかったが、朝日新聞が報じたような事態になった原因は、岡本医師が非協力的だったからという趣旨の記述を行った。成田准教授については、「実際の手技は十分理解済み」であり、「最近の特任教授の手技を学ぶために事前に特任教授の治療見学も済ませております」などと述べている。

客観的な事実関係を検証してみると、塩田浩平学長のコメントには、事実に反している部分が多いが、名誉毀損に該当するかどうかの判断基準は、「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従って判断」することになっている。従って、たとえばツイッターの言語などは、もともと品性に欠ける傾向があるという前提で、名誉毀損認定のハードルが高くなる。国会質問の場での言論は、議論の活発化を奨励するという観点から、原則として名誉毀損には問われない。

名誉毀損裁判は、ある意味で、判断基準があいまいで、裁判官の主観で判決が下され、判決がジャーナリズムの批判対象になることも少なくない。

が、この判断基準を基にして裁判所は、塩田学長のコメントは、岡本医師の社会的な評価を低下させたとまでは言えないと判断したのである。

 

◆治療妨害の禁止事件は本訴へ

5月20日には、岡本医師と小線源治療の待機患者が治療妨害の禁止を求めて滋賀地裁へ申し立てていた仮処分申立に対して、同裁判所が治療妨害を禁止する決定を下した。これにより23名の待機患者が岡本医師による手術を受けることが可能になった。

ところが病院は、メディア黒書でも既報したように、岡本医師の手術枠を減らすなどの動きを見せている。そして5月30日には、抗告異議申立を行ったのである。再審査の請求である。さらにその後、大学病院は起訴命令を出すように裁判所に申し立てた。

起訴命令の申し立というのは、仮処分の決定が下されたのち、敗訴した側がしばしば行使する法的手段である。もともと仮処分というものは、判決に緊急性を要する場合などに迅速に判決を下すことを目的としており、本訴と並行して行われることもある。本訴の判決が仮処分の決定よりも優先されることは言うまでもない。

仮処分で敗訴した場合、敗者は裁判所に対して、起訴命令を出すように申し立てることができる。この申し立てが行われると、裁判所は仮処分の勝者に対して本訴を起こすように命令を下す。

病院側が大津地裁に起訴命令を申し立てたことで、治療妨害をめぐる係争は、仮処分申立と本訴が平行して進むことになった。