名誉毀損裁判が増えている背景、神戸大学の教員が起こした裁判②
神戸大学の教員が約3年前にマイニュースジャパンが掲載した記事に対して、名誉を毀損されたとして、330万円の損害賠償を求めた事件の続報である。教員の代理人・清水陽平弁護士に対して、取材を申し入れているが、なんの返答もない。次に示すのが、受領メールである。
黒薮哲哉 様
この度は、法律事務所アルシエンへお問い合わせいただきありがとうございます。
以下の内容にて受付させていただきました。
【お問い合わせ内容】
清水先生
フリーランスライターの黒薮哲哉と申します。
神戸大学の●●教授が提起されました裁判を取材しています。つきまして原告の主張も取材したいと考えています。出来れば本人、もしくは清水先生に面談のかたちで取材させていただけないでしょうか。
これまでのわたしの活動等については、次のウエブサイトをご覧ください。
http://www.kokusyo.jp/
よろしくお願いいたします。
◆記事の削除を求めず
既報したようにこの裁判では、名誉を毀損されたとする記事の削除を、原告が求めていない。それはある意味では不可解だが、訴状の請求項目に加えるのを忘れた可能性もある。通常であれば、名誉毀損の対象としたウエブサイトの記事の削除を求める。発表媒体が「紙」で、削除が難しい場合は、謝罪広告などを要求する。しかし、この提訴では、請求項目が金銭だけなのだ。
金銭請求が認められても、これでは名誉は回復されない。
◆料金表にメールフォーム
これも既報したことだが、清水弁護士が共同代表を務める法律事務所アルシエンのウエブサイトには、料金表が掲載されている。次のようなものである。
削除請求:送信防止措置依頼
着手金3万円~(税別)、報酬金5万円~(税別)
削除請求:仮処分
着手金25万円~(税別)
発信者情報開示請求
着手金25万円(税別)~/仮処分1件
損害賠償請求
着手金20万円~(税別)、報酬金別途
刑事告訴
着手金15万円~(税別)、報酬金20万円~(税別)
誹謗中傷対策顧問
10万円(税別)~/月
このリストに続いて、問い合わせフォームが設置されている。相談したいひとは、名前、連絡先、要件などを記入して送付することになる。
問い合わせフォームを見て、わたしは異様な印象を受けた。料金表の残像が脳裏に残っていたのがその原因かも知れない。
普通、弁護士に相談を依頼するひとは、何からかの問題を抱えていて、それを解決したいと考えている。それゆえに相談するのだ。しかし、料金表で相談の種類別「価格」が提示されていると、お金のない人は重大な問題を抱えていても相談できないことになる。
弁護士が相談に乗ったうえで、どの程度の金銭であれば負担できるかを話し合うのであれば、理解できるが、最初から料金表を示されると、お金のないひとはこの時点で、相談を諦め、お金のある人は、ファーストフードでも注文する感覚で、気軽にメールを送付することになるかも知れない。安易に裁判を起こす風潮が広がりかねない。
◆訴訟ビジネスの輸入
弁護士業をビジネスとして割り切って考える風潮は、米国から日本へ「輸入」された。それを押し進めたのは、「人権派」と呼ばれる米国帰りの弁護士らである。
その結果、金さえ払えばどんな裁判でも引き受ける弁護士が増えた。横浜・副流煙裁判の提訴なども、まとまな弁護士であれば受任しなかっただろう。まともでないから、本人訴訟の被告に負けたのである。なに一つ事実を認定させることができなかった。
弁護活動をビジネスとして捉える傾向が強くなったひとつの原因は、おそらく弁護士の数が増えすぎて、弁護士の収入が減っている事情がある。と、すれば最も勝訴の確率が高い名誉毀損裁判を幅広く引き受けるという戦略に走ってしまう。しかし、名誉毀損裁判を起こして勝訴しても、何の自慢にもならない。素人の本人訴訟でも勝訴できる場合が少なからずあるからだ。
神戸大学のケースは、大学の教員が原告である。学者であれば本人訴訟で戦い、論争を挑むべきだと思うのだが。それになぜ約3年間も記事を放置したのだろうか。